先天性僧帽弁狭窄症や前眼部形成異常など8疾患、指定難病として医療費助成対象に―指定難病検討委員会
2016.8.29.(月)
来年度(2017年度)から医療費助成の対象となる「指定難病」の対象疾患を拡大するため、厚生科学審議会・疾病対策部会の「指定難病検討委員会」で議論が行われています。
29日に開かれた委員会では、「進行性ミオクローヌスてんかん」や「先天性僧帽弁狭窄症」「前眼部形成異常」など8つの疾患を「指定難病」に加える方向が固まりました。
厚生労働省は9月末から10月はじめに次回委員会を開催して対象疾患候補を固め、パブリックコメントなどを経て、来年度から医療費助成を行う予定です(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
前眼部形成異常症など、視力以外の症状を含めて重症度を判定できないかとの注文も
医療費助成の対象となる「指定難病」は、▽発症の機構が不明▽治療方法が未確立▽長期療養が必要▽患者数が人口の0.1%(当面は約18万人)未満▽客観的な診断基準などが確立―という5つの要件を満たす疾患で、研究班から「医療費助成の対象とすべき」と提案された疾患について、委員会で要件を満たしているか否かを審査しています。
すでに306の疾患が「指定難病」に指定されており(関連記事はこちらとこちら)、研究班は最新の研究結果などを踏まえて新たに222の疾患について「医療費助成の対象とすべき」と提案。委員会で鋭意審査が続けられています(関連記事は
こちら)。
29日の委員会では、222疾患のうち次の8疾患について「指定難病の要件を満たすか否か」が審査され、「指定難病に追加する」方向が概ね固められました。
(1)進行性ミオクローヌスてんかん(これまでは、ウンフェルリヒト・ルンドボルグ病および関連遺伝疾患として提案されていたが、▽ウンフェルリヒト・ルンドボルグ病▽ラフオラ病▽良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん―の3疾患を含めた本疾患名に変更)
→不随意運動としてのミオクローヌス、てんかん発作としてのミオクロニー発作・全般強直間代発作、小脳症状、認知機能障害などを呈する遺伝性疾患群で、根治療法はなく、抗ミオクローヌス薬などによる対症療法が主となる。患者数は3000人程度で、このうちてんかんの障害等級判定区分などを用いて選定された重症者を助成対象とする
(2)先天性三尖弁狭窄症
→三尖弁の狭窄により右心房から右心室への血液流入に支障を来す疾患で、心不全に由来する易疲労や動悸、低酸素血症に由来するチアノーゼや腎不全、右左短絡による脳梗塞などの症状が出る。患者数は500人程度で、うちNYHA分類II度以上の患者を助成対象とする
(3)先天性僧帽弁狭窄症
→僧帽弁の狭窄により左心房から左心室への血液流入に支障を来す疾患で、肺水腫、肺高血圧、頻回の呼吸器感染症などの症状が出る。患者数は100人程度で、うちNYHA分類II度以上の患者を助成対象とする
(4)先天性肺静脈狭窄症(これまでは、肺静脈狭窄として提案されていたが、先天性のもの限定した本疾患名に変更)
→肺動脈が先天的に狭窄・閉鎖している疾患で、多呼吸、チアノーゼ、呼吸困難、肺高血圧、喀血、右心不全などの症状が出る。患者数は80人程度で、うちNYHA分類II度以上の患者を助成対象とする
(5)左肺動脈右肺動脈起始症
→左肺動脈が右肺動脈から起始し、右気管支などを迂回し、気管の後方・食道の前方を通り左肺に入るという異常走行をしている疾患で、右気管支などを圧迫するため、呼吸困難などの症状が出る。患者数は500人程度で、うちNYHA分類II度異常の患者を助成対象とする
(6)カルニチン回路異常症
→カルニチン(生体の脂質代謝に関与するビタミン様物質)サイクルを構成する酵素が先天的に欠損しているため、エネルギー産生が低下する疾患であり、意識障害、けいれん、嘔吐、横紋筋融解、肝機能障害などの症状が出る。患者数は960人程度で、うち先天性代謝異常症の重症度評価による中等症異常を助成対象とする
(7)前眼部形成異常
→前眼部の発生異常により先天性に角膜混濁が生じ、視力障害、視機能発達異常を来す疾患である。患者数は6000人程度で、うち研究班が作成した重症度分類III度以上を助成対象とする
(8)無虹彩症(これまでは、先天性無虹彩症として提案されていたが、海外の疾病名と整合性を図ることなどが必要と考えられ、本疾患名に変更)
→遺伝的に虹彩がほとんど観察されない疾患であり、視力不良、羞明(強い光を受けた際に目の痛みなどを覚える)などの症状が出る。患者数は1万2000人程度で、うち研究班が作成した重症度分類III度以上を助成対象とする
これらについて委員会では「医療費助成の対象に加える」ことに反対する意見は出ませんでしたが、(7)と(8)の眼疾患について重症度分類に注文が付きました。両疾患とも、研究班では視力に着目した重症度分類(例えば、最重度のIV度は「罹患眼が両眼で、良好なほうの眼の矯正視力0.1未満」という具合)が設定されていますが、視力以外にも緑内障などの合併症があることから、委員から「重症度分類において視力以外の症状も考慮できないだろうか」という意見が出ているのです。今後、研究班でどのような検討がなされるのか注目されます。
先天性角化不全症などは、指定難病である「原発性免疫不全症候群」に包含
29日の委員会には、一部疾病について「指定難病に追加すべきと研究班から提案されているが、すでに指定難病とされた疾患に包含される」との判断も行われました。具体的には次のとおりです。
▽「先天性両側性傍シルビウス裂症候群」は、「神経細胞移動異常症」に包含される
▽「ヘルマンスキーパドラック症候群合併肺線維症」は、「眼皮膚白皮症」あるいは「原発性免疫不全症候群」に包含される
▽「シュバッハマン・ダイアモンド症候群」は、「原発性免疫不全症候群」に包含される
▽「先天性角化不全症」は、「原発性免疫不全症候群」に包含される
ところで、すでに指定難病となっている原発性免疫不全症候群は、障害される免疫担当細胞の種類(好中球やT細胞など)や部位により200近くの疾患に分類されます。このため委員から「原発性免疫不全症候群」として診断された患者について、より詳細な疾患名などを把握できているのかという疑問の声が出されました。この点、厚労省健康局難病対策課の担当者は「臨床個人調査票では、詳細な疾患名を記載することになっており、疾患毎の患者数などは把握できる形になっている」と答弁しています。
なお、7月13日の前回会合では、先天性GPI欠損症や芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)欠損症など9つの疾患を「指定難病」に加える方向が固められましたが、その際、一部疾患について「診断基準などの確認」(例えばメチルグタコン酸尿症と、既に指定難病に指定されているミトコンドリア病との診断基準の整合性がとれているかの確認など)といった宿題が出されていました。
この点、厚労省が研究班に確認したところ、「診断基準の整合性などは十分とれている」ことが分かり、前回会合の9疾患については、問題なく(診断基準などの一部修正は行われる)指定難病に追加されることとなりそうです。
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