難病医療支援ネットワーク、都道府県の拠点病院と専門研究者との「橋渡し」機能も担う―難病対策委員会
2017.2.24.(金)
2018年度からの新たな難病医療提供体制において、難病情報支援センターやナショナルセンター、難病研究班、学会、IRUDなどで構成される「難病医療支援ネットワーク」は、各都道府県の拠点となる病院に対して▼情報提供▼専門医療機関・医師への橋渡し―といった機能を担う。そのためネットワークの事務局には、医療知識を有するスタッフを配置することとしてはどうか―。
24日に開催された厚生科学審議会・疾病対策部会の「難病対策委員会」で、このような方向がまとまりました。ネットワークの事務局をどこに置くのかなどの詳細は、2018年度予算にも関係してくるため、本年(2017年)末にかけて検討していきます。
目次
小児慢性特定疾患では、学会と成育医療センターが連携し「橋渡し」を実現
2018年度から新たな難病医療提供体制が稼働します。▼早期に正しい診断ができる▼診断後はより身近な医療機関で適切な医療を受けられる▼遺伝子関連検査について、倫理的な観点も踏まえて実施できる▼小児慢性特定疾病児童などの移行期医療を適切に行える―体制を構築することを目指すもので、具体的には、都道府県(3次医療圏)ごとに、「一般病院・診療所や保健所、難病協力医療機関による【難病対策地域協議会】を設け、患者に適切な医療を提供する」「【分野別の難病診療の拠点病院】を設け、一般病院や難病医療協力病院などの支援(専門的医療提供や診断など)を行う」「【横断的な難病診療連携の拠点となる病院】を設け、分野別の拠点病院を支援する(遺伝子診断などの特殊な検査など)」こととなります。
しかし、いかに都道府県の拠点病院といえども306ある指定難病のすべてについて、豊富かつ的確な知識・経験を持つわけではなく、難病の診断が困難なケースも出てくるでしょう。そこで国レベルで【難病医療支援ネットワーク】を設け、都道府県の拠点病院を支援する仕組みも設けられます。このネットワークには▼難病情報センター▼国立高度専門医療研究センター▼難病研究班▼学会▼IRUD(未診断疾患イニシアチブ:Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases)―が参画しますが、どのような機能・役割を果たすべきかが必ずしも固まっていませんでした。
1月27日の前回会合では「充実した情報提供」を求める意見が多数出されました。現在、難病情報センターが、最新の医学的知見などをweb上で提供していますが、「疾病によって濃淡があり、さらなる情報の充実が必要である」といった要望が出ているのです(関連記事はこちら)。24日の会合でも、ウェルナー症候群(成人発症型の早老病)研究・治療の第一人者である横手幸太郎参考人(千葉大学大学院医学研究院教授)から「市民はもちろん、医療従事者でも難病についての知識は十分でない。診断率向上・治療の質向上に向けて、難病医療支援ネットワークによる支援(最新情報提供など)を期待する」との意見が出されています。
また24日の会合では、情報提供に加えて、「ある指定難病に罹患していると考えられるが、鑑別診断をどの専門家に依頼すればよいのかが分からない」と拠点病院の医師が悩んだ場合の『専門研究者への橋渡し』機能を求める声が数多く出されました。現在は、厚生労働省健康局難病対策課の担当者が、専門研究者・研究班のリスト(306の指定難病について)をもとに、病院と専門家との間の橋渡しをしていますが、これを難病医療支援ネットワークでより広範に行うイメージです。この2つの機能(情報提供と橋渡し)が難病医療支援ネットワークの主要機能になる方向が固められたと言えます。
この点、小児慢性特定疾病(いわば小児の難病)については、小児慢性特定疾病情報センター(国立成育医療センターに事務局)が日本小児科学会・小児慢性疾患委員会(日本小児血液・がん学会や日本先天性異常学会などが参画)と連携して中央コンサルテーション・システムを構築し、実際に一般の医療機関と専門研究者との間の橋渡しを実施。掛江直子参考人(国立成育医療センター小児慢性特定疾病情報室室長)は「これにより早期の確定診断が可能となった」点を強調しています。
成人の指定難病についても、この仕組みを参考にすることが期待されます。しかし、指定難病については「様々な分野の疾患があり、関係学会も多岐にわたるので、コンサルトシステムの構築が難しいのではないか」(宮坂信行委員:東京医科歯科大学名誉教授、難病情報センターの運営委員長)といった特性があり、小児と同様の仕組みを早急に構築することは難しそうです。難病対策課の担当者は「小児における中央コンサルテーション・システムを雛型として、指定難病における展開方法を検討していきたい」とコメントしています。
難病医療支援NWの事務局体制などは、年末に向けて検討
ところで難病医療支援ネットワークでは、現在306ある指定難病すべてを対象とすべきでしょうか。例えば、同じ指定難病であっても比較的患者数が多く、専門家を探しやすい潰瘍性大腸炎などでは、ネットワークによる支援の必要性は小さそうです。千葉勉座長(京都大学大学院総合生存学思修館特定教授)も「希少疾患に絞ったほうが良いのではないか」との見解を示しています。
一方、西澤正豊委員(新潟大学名誉教授脳研究所フェロー)は「疾病の希少性ではなく、分野を絞ってはどうか」と指摘しています。これは村田美穂委員(国立精神・神経医療研究センター病院長)から、「神経系疾患や循環器系疾患は、国立成育医療研究センターからコンサル機能を教わって、国立精神・神経医療研究センターが担えると思う」との発言があったことを受けてのものです。
なお、横手参考人は「ウェルナー症候群では、特定医療費(指定難病)受給者証の所持者は50例にとどまっているが、日本全国に2000人程度の患者がいると推定される」と述べており、見かけ上の患者数による対象疾病の限定は慎重に行う必要がありそうです。
また、難病医療支援ネットワークの事務局には、どのようなスタッフを配置すべきかも重要です。この点、「橋渡しをするために、専門的な医療知識が必要である」として医師の常駐を求める意見もありましたが、医師を常駐させるには相当のコストもかかり、また1人の医師ですべての難病の知識を保有しているわけでもありません。そこで難病対策課の担当者は「一定の医療知識のあるメディカルスタッフを常駐として、定期的(例えば週に1、2回)に医師と連絡でき、的確な返答を得られるような体制も考えられる」との見解を示しています。
なお、事務局をどこに設置するかについては「白紙」であり、今後、ネットワークの運営経費を「研究費とするのか」「難病情報センターなどの組織に委託費として補助するのか」などといった点と合わせて検討されます。
「疑い病名」すらつかない患者に対する診断サポートが、今後の重要課題
このような体制の整備によって、「○○疾病の疑い」というところまで辿り着ければ、難病医療支援ネットワークからのサポートが受けられるようになります。しかし、「何の疾患なのか見当もつかない」といったケースにどう対処すればよいのでしょう。西澤委員は、この問題を懸念しています。
この点、日本医療研究開発機構(AMED)が実施するIRUD(未診断疾患イニシアチブ)は、希少・未診断の疾患患者について遺伝子診断を行い、どの疾病に罹患しているのかを診断するプロジェクトで、まさにこうしたケースへの対応を行っています。しかし、IRUDの対象(2つ以上の臓器またがり所見があり、遺伝子異常が疑われるなど)から外れた「疑い病名すらつかない患者」に対する診断サポート機能は構築されておらず、難病対策課の担当者は「宿題である」との受け止めをしています。
厚労省では、委員会の意見を踏まえて、本年(2017年)末にかけて難病医療支援ネットワークの詳細を詰めていき、2018年度予算案の編成において必要な経費を要望・計上していく考えです。なお、拠点病院の整備指針などは、今年度(2016年度)内に都道府県に宛てて発出される見込みです。
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