先天異常症候群など24疾患を、2017年度から医療費助成の対象となる指定難病に追加―指定難病検討委員会
2016.9.30.(金)
30日に厚生科学審議会・疾病対策部会の「指定難病検討委員会」が開かれ、先天異常症候群や特発性血栓症、カナバン病など7疾患を新たに指定難病に追加する方針を決定しました。
既に7月13日の会合で先天性GPI欠損症など9疾患、8月29日の会合で先天性僧帽弁狭窄症など8疾患を指定難病に追加する方針が固まっており、来年度(2017年度)から24疾患が指定難病に追加される見込みです。これまでの306疾患と合わせて330疾患について医療費助成がなされることになります。
目次
カナバン病や先天異常症候群など7疾患の重症患者を、医療費助成対象に
30日の委員会では、次の7疾患について「指定難病の要件を満たすか否か」が審査され、「指定難病に追加する」方針が固まりました。
(1)カナバン(Canavan)病
→N-アセチルアスパラギン酸(NAA)の蓄積を特徴とする中枢神経系障害を呈する白質変性症の1つで、多くは乳児期早期に精神運動発達遅滞、筋緊張低下、大頭症などが出現し、後にけいれん・視神経萎縮、さらに睡眠障害、栄養障害も認められる。現時点で根治療法はなく対症療法(抗てんかん薬、抗痙縮薬など)が行われる。患者数は数名で、先天性代謝異常症の重症度評価を用いて、中等症以上を助成対象とする
(2)進行性白質脳症(▼卵巣機能障害を伴う進行性白質脳症▼白質消失病▼皮質下囊胞をもつ大頭型白質脳症―の3疾患を統合)
→一定年齢までは正常に発達するが、後に進行性に大脳白質障害を来たし、徐々に退行。運動障害、小児失調、てんかん、知的障害、抹消神経障害などが認められる。根治療法は未確立で、対症療法(抗てんかん薬、理学療法、ボトックス療法、気管切開など)が行われる。患者数は100人未満で、mRS(modified Rankin Scale)、食事・栄養、呼吸それぞれの評価スケールを用い、いずれかが3以上の患者を助成対象とする
(3)先天異常症候群(▼1q部分重複症候群(1q重複症候群)▼9q34欠失症候群▼コルネリア デ ラング症候群▼スミス・レムリ・オピッツ症候群―の4疾患を統合)
→先天的に複数の器官系統に異常がある疾患の総称で、単一部位の先天異常疾患とは区別される。複数の先天異常に加えて、▼乳幼児期に体重増加不良や発育不良、発達遅滞やけいれんが見られる▼レントゲン上、骨格異常が見られる―などの徴候がある。重症者では生命維持のために気管切開や人工呼吸器使用、経管栄養、薬物療法、酸素療法、腎代替療法などが行われる。患者数はおよそ4000人で、「mRS、食事・栄養、呼吸それぞれの評価スケールを用い、いずれかが3以上の患者」「先天性心疾患があり、薬物治療・手術によってもNYHA分類II度異常の患者」などを助成対象とする
(4)爪膝蓋骨症候群(ネイルパテラ症候群)/LMX18関連腎症(「爪膝蓋骨症候群(ネイルパテラ症候群)およびLMX18関連腎症」から名称変更)
→▼爪形成不全▼膝蓋骨の低(無)形成▼腸骨の角上突起▼肘関節の異形成―を4主徴(必ずしもすべてが現れないこともある)とする遺伝性疾患で、腎症の発症が少なくなく、一部は末期腎不全に進行する。効果的な治療法はなく、関節症状・緑内障に対する手術療法や、慢性腎疾患治療などが行われる。患者数はおよそ500人で、慢性腎臓病重症度分類で「重症」の患者、あるいは重症に該当せずとも「尿蛋白/クレアチニン比が0.5g/g・Cr以上」の患者を助成対象とする
(5)先天性気管狭窄症
→気管軟骨の形成異常のために生じる疾患と考えられており、呼吸障害を来たす。外科的治療の対象となるものは、主に狭窄や閉塞症状を来たす。狭窄の程度が軽く、呼吸症状が軽度な場合には気管拡張剤などで経過観察することが可能だが、外科的治療(気管切開、チューブによる気道確保)が必要となる症例も少なくない。患者数はおよそ500人で、mRS、呼吸の評価スケールを用いて、いずれかが3以上の患者を助成対象とする
(6)特発性血栓症(遺伝性血栓性素因による)(▼新生児・小児遺伝性血栓症▼特発性血栓症(先天性血栓性素因による)―の2疾患を統合)
→血液凝固制御因子であるプロテインC、プロテインS、アンチトロンビンが先天的に欠乏しているために病的血栓傾向となり、若年性に重篤な血栓症を発症する疾患群。新生児・乳児期の発症例では新鮮凍結血漿投与などの長期の補充療法を、小児期・成人の慢性期には長期の抗凝固剤内服などが必要となる。患者数はおよそ2000人で、Barthel Index85点以下の患者を助成対象とする
(7)遺伝性自己炎症性疾患
→自然免疫系に関わる遺伝子異常を原因とし、生涯にわたり持続する炎症を特徴とする疾患群で、「クリオピリン関連周期熱症候群」「ブラウ症候群」などを除く。現時点で確立された治療法はない。患者数は100人未満で、Barthel Index85点以下の患者を助成対象とする
このうち(3)先天異常症候群「スミス・レムリ・オピッツ症候群」の診断基準について、錦織千佳子委員(神戸大学大学院医学研究科教授)から「他疾患を拾ってしまう可能性がないのか確認してほしい」といった宿題が出されましたが、上記7疾患を指定難病に追加する点は了承されています。
後天性血友病Aなどは既存の指定難病に統合し、医療費助成対象に
また、次の3疾患については、既存の指定難病、あるいは今般指定難病への追加方針が固まった疾患に統合(あわせて既存指定難病などの診断基準なども修正)することも了承されました。この3疾患についても重症患者については、2016年度から新たに医療費助成の対象となります。
▼小児交互性片麻痺[乳幼児から幼児期初めまでに発症する左右不定の一過性麻痺症状を繰り返す疾患、患者数はおよそ100人]
→『遺伝性ジストニア』(既存の指定難病)に統合
▼11p13欠失症候群(WAGR症候群から名称変更)[特定の染色体の一部(11番染色体短腕p13領域)の欠失による疾患で、ウイルムス腫瘍、無虹彩症、腎尿路系奇形、精神発達遅滞などの症状を来たすことがある。患者数はおよそ200人]
→『無虹彩症』(今般、指定難病に追加予定)に統合
▼後天性血友病A(自己免疫性第VIII/8因子欠乏症、後天性血友病Aから名称変更)と自己免疫性von Willebrand病[遺伝でなく、免疫学的な理由で血液凝固に必要な因子の働きが著しく少なくなり、軽い打撲などによってさえ重い出血をする疾患。患者数は前者300人以上、後者100人未満]
→『自己免疫性後天性凝固因子欠乏症』(既存の指定難病である『自己免疫性出血病XIIIから名称変更』)に統合
メニエール病など184疾患は、指定難病の要件を満たしていないと判断
なお委員会には、研究班から「222疾患を指定難病に追加するよう検討してほしい」との要望がありましたが、184疾患については「指定難病の要件」を満たしてないことが確認され、今回の追加は見送られました。例えば、メニエール病では「客観的な診断基準などが定まっている」との要件を満たしておらず、遺伝性毛髪疾患では「長期療養を必要とする」との要件を満たしていないなどの理由です。
疾患の統合などがあり、来年度(2017年度)から新たに24疾患(7月13日の会合で先天性GPI欠損症など9疾患、8月29日の会合で先天性僧帽弁狭窄症など8疾患、9月30日(今回)の会合でカナバン病など7疾患)が医療費助成対象となります。昨年(2015年)までに306疾患が指定難病となっており、今回の追加で合計330疾患となります。
厚労省は、10月上旬から追加する24疾患についてパブリックコメントを募集します。その結果も踏まえて委員会の親組織である「厚生科学審議会・疾病対策部会」で最終検証を行い、来年(2017年)4月から医療費助成を開始したい考えです。
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