入試要項に明記してあれば、地域枠における地元の「僻地出身者優遇」などは望ましい―医師需給分科会(2)
2018.11.29.(木)
各都道府県で2019年度に作成し、2020年度から実行する「医師確保計画」について、その実効性を確保するために、例えば「都道府県と地域医療対策協議会による立案段階からの情報共有」「地域枠学生のフォロー」「的確・迅速な効果の把握と、次期計画への反映」などを行うこととする―。
11月28日に開催された「医師需給分科会」(「医療従事者の需給に関する検討会」の下部組織)では、こういった点も確認されています。
また地域枠学生について、「入学試験要項に明記」してあれば、例えば「地元の僻地出身者を優先的に入学させる」ことなどは、医師偏在の是正に向けて「望ましい」方向であると確認されています。
「医師確保計画」、都道府県と地域医療対策協議会で立案段階から情報共有を
お伝えしているように、医師の地域偏在・診療科偏在が大きな課題となる中で、医師需給分科会では「医師確保計画」の策定に向けた議論を続けています。地域ごとに「勤務する医師が、相対的に多数なのか、少数なのか」(充足しているかは別問題とされる)を客観的指標に基づいて把握し、各都道府県で「医師確保の目標値」と「具体的な医師確保策」を盛り込んだ「医師確保計画」を作成し、医師確保を実行するというものです(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
医師確保については、次のようなサイクルを回しながら進めていくことになります。
(1)各都道府県において、国の定める指針(医師確保計画策定ガイドライン)を拠り所に、「医師確保計画」を作成する(最初は2019年度)
↓
(2)計画に沿って、具体的な医師確保策を実行する(2020年度から)
↓
(3)医師確保策の効果などを把握、検証し、次期計画に活かす
11月28日の医師需給分科会では、「医師確保計画」の考え方とともに、(1)から(3)の各段階で「実効性を確保するために、どのような方策をとるべきか」という議論も行いました(前者の「医師確保計画」の考え方については、既に(関連記事は別稿でお伝えしています)。
まず(1)の計画作成段階では、当然とも思われますが、▼国において的確な指針(医師確保計画策定ガイドライン)を策定する▼都道府県において指針を的確に踏まえて、計画を作成する―ことが重要です。厚労省は、都道府県が2019年度から計画作成作業を円滑に行えるよう、▼今年度(2018年度)中に医師需給分科会で議論を取りまとめ、指針(医師確保計画策定ガイドライン)を作成する▼2019年度には、さまざまな機会(医師確保計画作成研修会など)を活用して国が都道府県を支援する―考えを示しました。
地域において「医師が客観的に多数なのか、少数なのか」を判断するための「新医師偏在指標」については、早急に各種調査結果を取りまとめ、やはり今年度(2018年度)中に都道府県に示されます。ここに、各都道府県における「患者の流出入」状況を加味し、「どの地域が医師少数区域や医師多数区域に該当するか」を設定することになります。
また実効性のある計画を作成するために、厚労省は「医師確保計画の『立案』段階から、地域医療対策協議会と情報共有を行う」ことを求めています。地域医療対策協議会(地対協)は、各都道府県の▼特定機能病院▼地域医療支援病院▼公的医療機関▼臨床研修指定病院▼診療に関する学識経験者の団体(医師会、歯科医師会)▼大学等▼社会医療法人▼国立病院機▼構、地域医療機能推進機構▼地域の医療関係団体(病院団体、薬剤師会、看護協会等)▼関係市町村▼地域住民を代表する団体—が参画し、「地域の医療従事者の確保・育成に関する事項」について協議する組織です(新専門医制度に関する意見なども取りまとめる)。地域の実情を踏まえた計画作成に向けて、地対協の役割がますます重要になってきます。
地域医療対策協議会で定めた「医師確保策」、地域医療関係者はこれに協力を
また(2)の計画実行段階では、「どれだけ効果のある医師確保策を講じられるか」が鍵となります。厚労省は、医師確保策を▼医師派遣や地域定着などの「短期的施策」▼大学医学部における地域枠・地元枠設定などの「長期的施策」—に区分けし、地域に状況に応じて両者を効果的に組み合わせることが重要としています。
具体的な医師確保策については、前述の地対協などでも議論されることになりますが、改正医療法では、医療関係者に対し「地対協で協議が整った事項に協力する」努力義務を課しています。例えば、ある県において「医師多数のA地域から、医師少数のB地域へ医師を派遣する」旨の計画が定められた場合、A地区の大学病院などは「医師の派遣」についてできる限りの協力をすることが求められることになります。
この点、「大学病院や地域の基幹病院に対し、一定の強制力をもって医師派遣を求めるとともに、財政支援を行ってはどうか」(鶴田憲一構成員:全国衛生部長会会長)、「地域枠のキャリア形成プログラムの中に、国内・海外留学などを盛り込むなど、『地域に縛られるわけではない』点を強調すべき」(堀之内秀仁構成員:国立がん研究センター中央病院呼吸器内科病棟医長)などの提案も行われています。
さまざまな好事例をもとに、各都道府県で工夫を凝らすことが重要でしょう。
地域枠は「一般入試とは別枠」で実施を
また厚労省は、医師確保効果の高い「地域枠・地元枠」の学生が、より地域に定着してくれるよう、例えば▼一般の学生とは「別枠」で選抜する▼地域枠のブランド化を図る▼都道府県担当者が個々の地域枠・地元枠学生と「顔の見える関係」を構築し、希望に沿ったキャリア形成プログラムを作成する▼地域枠・地元枠学生の「同窓会組織」を設立し、不安や悩みの解消に努める▼学部時代から、地域医療の意義や魅力を伝える―ことなどを行ってはどうかと提案しました。
この点に関連して、地域枠選抜について、厚労省と文部科学省が「全大学の状況」を調査したところ、「地域枠と一般枠とを分けずに入試を行い、入学後に『地域枠を希望する学生』を募る」などの形で実施しているところが一定程度、あることが分かりました。こうした方式では、地域枠を設定して医学部の入学定員を増加したにも関わらず「十分に学生を確保できていない」(地域枠が充足していない)ケースが少なくなく、また「奨学金を返済し、地域枠から離脱する」(地域医療への一定期間従事を放棄する)学生の割合も高いため、厚労省では「地域枠選抜は、一般入試を別枠で行うこと」を要請しています(関連記事はこちら)。
なお、地域枠学生への奨学金貸与について、地域医療介護総合確保基金を活用することも可能ですが、現在は「地元(都道府県)出身者であること」が要件の1つとなっています。ただし、厚労省の分析によれば「地元出身者でなくとも、『一般入試と別枠の地域枠』で選抜された学生は、離脱率などが低く、医師偏在対策としての効果が高い」ことが分かりました。将来的に「地元出身者」以外にも、地域医療介護総合確保基金を活用した地域枠学生への奨学金貸与が認められるかもしれません。
ところで、一部大学では「地域枠選抜において、僻地などの出身者を優遇する」仕組みが導入されているようです。この点について厚労省・文科省は「地元出身者の優遇などを改正医療法などでも推進している。入学試験要項などに明記すれば、僻地出身者の優遇などは合理的であり、望ましい方向である」との考えを示しています。
一方、(3)の「効果の把握・検証」は、PDCAサイクルを回す上でも非常に重要です。効果の低い策を漫然と実施することは許されません。
厚労省は、▼地域の医師数をできるだけ正確・迅速に把握できるような調査・集計方法を検討し、「新医師偏在指標」に反映する▼好事例に関する情報共有の仕組みを構築する▼国が都道府県の医師偏在対策をフォローアップし、改善状況を可視化する―などの考えを示しています。
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