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2036年に医師偏在が是正されるよう、地域枠・地元枠など設定し医師確保を進める―医師需給分科会

2018.10.29.(月)

 2036年に医師偏在が是正されるように考え、各地域において大学医学部の地域枠や地元出身者枠を設置・拡充して医師確保を進めていく。その際、大学医学部入試における「地域枠」は、原則として「一般枠とは別枠」とし、「一般枠と同枠で選抜を行い、合否決定後に地域枠希望者を募集する」ような形式は認めない―。

 10月24日に開催された「医師需給分科会」(「医療従事者の需給に関する検討会」の下部組織)で、こういった方針が了承されました(関連記事はこちら)。

10月24日に開催された、「第23回 医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会」

10月24日に開催された、「第23回 医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会」

 

地域枠とは別に、地元出身者のみの「地元出身枠」を大学医学部に設置

医師の地域偏在・診療科偏在が大きな課題となっており、その是正・解消に向けた方策が医師需給分科会で検討されています。具体的には、(1)「医師確保計画」(改正医療法・医師法)に基づく、医師多数区域から医師少数区域への医師派遣などによる短期的な方策(2)地域枠・地元出身者枠などによる長期的な方策―の両面からアプローチしていく方向が模索されています。

本稿では、(2)の「地域枠・地元出身者枠の設定方法」に焦点を合わせ、(1)の短期的方策については別稿でお伝えすることにしましょう。

医学部の入学定員については、地方の医師不足・医師偏在を是正する観点から、現在、「恒久定員」(下図の青色の部分)に加えて、臨時の定員増(臨時定員)が行われています。臨時の定員増は、▼医師確保が必要な地域・診療科のための暫定増(下図の黄色の部分)▼地域枠などを設定するための追加増(下図の赤色の部分)—に分けられます。

当面の医学部入学定員

当面の医学部入学定員

 
地域枠は、「一定期間、地域の医療機関に勤務する」ことを条件に医学部入学を認める仕組みです。少なくとも定められた年限は地域で勤務することがほぼ確実であり、また、その後も地域に定着することが期待されるなど、医師確保策の重要な方策の1つと考えられています。今般の改正医療法・医師法でも、都道府県知事に「大学に対して、地域枠・地元出身入学者枠の設定や拡充を要請する権限」が付与されています(2019年4月施行)。

改正医療法・医師法では、「地域枠」とは別に「地元出身者枠」という概念も明確に打ち出されました。「地元出身者」は、地域(地元)医療機関への定着率が高く、大きな期待が寄せられています。それぞれの機能は、次のように考えることができます。

▽地域枠:県内の特定の地域での診療義務を入学条件とする
→(機能)都道府県内における2次医療圏間の地域偏在を調整。特定診療科での診療義務を負荷した場合には診療科間の偏在調整する機能もある。臨時の定員増(上述)と組み合わせたものは、都道府県間での偏在調整する機能もある

▽地元出身者枠:県内出身者について、一般枠とは別の入学枠を設ける
→(機能)都道府県間の偏在を調整。

 
 このように両枠の機能は異なるため、医師需給分科会では「都道府県による要請についても別々に考える」方針を決めました。具体的には次のとおりです。

▽地域枠:2次医療圏間の偏在調整機能に鑑み、「当該都道府県内に医師少数区域がある場合」に設置・拡充を要請できることとする。定員は、「当該医師少数区域における医師不足分の合計数」とする(地域医療対策協議会との議論が必要)。
医師需給分科会1 181024
 
▽地元出身者枠:都道府県間の偏在調整機能に鑑み、「当該都道府県が医師少数都道府県である場合」に設置・拡充を要請できることとする。定員は、「当該医師少数都道府県における医師不足分」とする(地域医療対策協議会との議論が必要)。
医師需給分科会2 181024
 
 また、この地元出身者枠数のみでは医師不足分を満たせない場合には、▼県内の大学の地域枠設置を要件とした臨時定員の増員▼医師多数都道府県の大学の「県またぎ地域枠」の設置・拡充―を要請することも可能となります(地域医療対策協議会との議論が必要)。

この「県またぎ地域枠」とは、医師少数であるA県の知事が、医師多数であるB県の大学医学部に対し「A県の特定地域の医療機関での勤務」を条件とする地域枠について設置等を求めるものです。例えば、医師の多い東京の大学医学部において、「秋田県の医療機関で勤務する3名枠を設ける」といったイメージです。

 
 都道府県の医師の状況から、大きく(a)医師多数県であり、医師少数区域がない(b)医師多数県だが、医師少数区域がある(c)医師少数県である―に区分できそうです。

(c)の医師少数県では、まず地元出身者枠の設定を要請するなどして県レベルでの医師確保に尽力し、(b)の県に昇格することを目指す必要があります。

また(b)の医師多数県では、地域枠の設定を要請するなどして、県内の医師偏在是正に取り組み(a)の県昇格を目指します。

さらに(a)の医師多数県では、(b)(c)の県や地域へ医師を派遣し、全国レベルでの偏在是正に取り組むことが求められます。

2036年に地域で過不足・偏在なく医師が確保されることを目指して、医師確保を進める

 都道府県知事に要請権限が付与されるのは来年(2019年)4月からですが、2020年・21年度入試における医学部の入学定員は「全体として現状を維持する」ことが決まっており(関連記事はこちら)、実際に都道府県知事の要請によって地域枠・地元出身者枠が設定・拡充されるのは2022年4月の新1回生からとなります。6年の学部教育を経て、医師免許を取得し、診療に従事し始めるが2028年4月から。その後、地域枠・地元出身者枠の出身医師が活躍し、2036年には効果が十分に現れると期待されます(9年間の地域医療機関での勤務と仮定した場合。また3年計画の医師確保計画や、上位計画となる6年計画の医療計画とも整合性が採れている)。

そこで医師需給分科会では、「2036年において、医師偏在が是正されている」ように考えて、各都道府県で「必要な医師数を設定する」方針も固めました。具体的には、次のように考えていきます。

▼2036年において「全国の医師数」=「全国の医師需要」となる、医師偏在指標の値(全国値)を算出する

▼地域ごとに、「2036年の医師偏在指標(各地域の値)」=「2036年の医師偏在指標の値(全国値)となる医師数を「必要医師数」とする

▼都道府県知事は、「2036年における必要医師数」と「各地域の医師供給推計」とのギャップを解消するために医師確保対策を講じる

 医師偏在指標とは、9月28日の前回会合で固められた計算式に基づいて、人口10万対医師数に「地域の高齢化状況」や「年齢・性別の平均労働時間」などを勘案し、「A県は、全国平均と比べて、またB県と比べて医師が多い科、少ないか」を数値化するものです。端的に、「2036年において、各都道府県において、過不足なく、かつ偏りなく医師が配置される」ことを目指し、地域枠・地元出身者枠を設定・拡充などしていくことになります。

 ただし、2036年は、かなり遠い将来であるため、医師確保計画等の見直しに当たり、状況を精査し、必要な医師確保対策の見直しなども行っていきます。

一般受験枠と区別しない「地域枠」に、構成員から批判相次ぐ

ところで、地域枠という言葉からは、大学入試において、例えば▼一般受験枠:50名▼地域枠3名―などと設定し、それぞれに選抜を行うことを想定します(別枠方式)。しかし、厚生労働省の調べによれば、「入学試験段階では、一般受験枠のみとし、選抜後に地域枠の学生を募集する」という仕組みを採用している大学医学部もあることが分かりました(手上げ方式)。2018年4月の募集状況を見ると、1197名の地域枠のうち、別枠方式が693名、手上げ方式が474名、その他が30名となっています。
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手上げ方式では、別枠方式に比べて「離脱率が高い」「奨学金貸与が少ない」ことなども分かり、また地域枠の充足状況が極めて低い自治体があることも判明しました。
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医師需給分科会4 181024

医師需給分科会では、手上げ方式に対して「地域枠を一般受検枠に上乗せしていたこになる」(山口育子委員:ささえあい医療人権センターCOML理事長)、「入学試験要項などに示されていないのは大きな問題である」(小川彰構成員:岩手医科大学理事長)といった批判が出され、「原則として、都道府県知事は別枠方式での地域枠設定を要請する」方針を固めています。

また、厚労省と文部科学省と連携して、各大学医学部における地域枠の実態を明らかにする方針も確認されています。

   
 
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