「電子カルテの早期の標準化」要望に、厚労省は「まず情報収集などを行う」考え―社保審・医療部会
2018.10.2.(火)
電子カルテを初めとする病院情報システムについて、データの互換性などを確保する取り組みを早急に進めるべきである―。
9月26日に開催された社会保障審議会・医療部会では、こういった強い指摘が複数の委員から出されました。厚生労働省医政局研究開発振興課の伯野晴彦課長は、「まず現状把握などから進める」考えを示しています(関連記事はこちら)。
目次
医療部会の委員から、改めて「電子カルテの標準化、互換性確保」を強く求める声
9月26日に開催された医療部会では、(1)医師の働き方改革(2)救急・災害医療提供体制の強化(3)ACP(Advanced Care Planning)(4)2019年度予算概算要求―について、現在の検討状況が厚生労働省から報告され、これに基づいた議論を行いました。
このうち(4)に関連して、「電子カルテの標準化」に向けた要望が複数の委員から出されました。7月27日の前回会合でも、同様の指摘が出ており、今後の動向に注目が集まります。
山崎學委員(日本精神科病院協会会長)は、「電子カルテを初めとする病院情報システムについて、ベンダー間の互換性がないことが度々指摘されている。ベンダーに任せていては『囲い込み』があり動かない(互換性があれば他社製品への乗り換えが容易になる)。厚労省が互換性の確保などに向けて動く気はないのか」と指摘。
また中川俊男委員(日本医師会副会長)も、「将来的には、『我が国の標準規格』を定めることになるであろうから、早く標準化するほど費用が低廉で済む。一刻も早く、厚労省はもちろん、政府全体で標準仕様の整備を進めるべき」と強調しました。
こうした指摘を受け、厚労省の伯野研究政策振興課長は、「簡単な話ではないが、まず有識者から意見をいただき、我が国の実態、海外の状況を含めて、情報を収集し、課題の整理を行うことから始めたい」との考えを示しています。
前回同様、永井良三部会長(自治医科大学学長)も「電子カルテの標準化」の必要性を指摘しており(関連記事はこちら)、また同日(9月26日)の四病院団体協議会(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会)の総合部会でも議題となり、「電子カルテの標準仕様制定に向けて、病院団体でも積極的に提案・協力などしていく方針が確認されています(関連記事はこちら)。
医師の働き方改革、「地域医療への影響」「医師の育成」など複合的視点で検討を
また(1)の医師の働き方改革について、これまでの「医師の働き方改革に関する検討会」における議論の状況が報告されました。
検討会では、「医師における時間外労働規制の特例」だけではなく、▼患者の受診の仕方(医療のかかり方)▼他職種へのタスクシフト▼医療の特殊性(応召義務)▼宿日直や自己研鑽―など総合的な検討が必要であることを確認するとともに、これまでに次のような大きな方向を確認しています(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
▽宿日直許可基準(医療機関の管理者が、労働基準監督署の許可を得て、勤務医が宿日直の間にも「特定の軽微な業務」を処理することを可能とする基準)を、現代の医療現場にマッチしたものに見直す
▽自己研鑽とされるものの中に、「本来の業務に近いもの」(労働時間となる)から「純粋な自己研鑽と言えるもの」(労働時間に該当しない)までさまざまあり、整理を行っていく
▽「応召義務」について医療現場が厳格すぎる捉え方をし、これが長時間労働に結びついている可能性があるため、ケースごとに「応召義務に該当する場面と、該当しない場面」を整理していく(裁判等で事後に「応召義務違反でない」との判断を待つのではなく、事前に「こういう場面では、診療を断っても応召義務違反にならない」という判断を可能とする)
医療部会でもこの方向に異論は出ておらず、今後、「医師の働き方改革に検討会」でさらに詳細に詰めていくことが確認されました。
ただし、「医師の働き方改革」そのものについて、山崎委員は「医師の時間外労働が制限されれば、同じ医療提供を行うために、より多くの医師が必要となる。労働基準監督署が急性期病院に入り指導をした結果、土曜日の外来診療を取りやめたり、医師数の少ない診療科の医師が当直に入れなくなるなど、医療提供が弱くなっている病院がある。急速に働き方改革を進めれば、医療提供体制が崩壊してしまう」と危惧。また相澤孝夫委員(日本病院会会長)も「将来的には、『医師の長時間労働是正』と『医療の質確保』とを一致させなければならないが、当面は、『できるだけ早く実施すべきこと』と『時間をかけて、しっかりと議論すべきこと』とを分けて考える必要がある。今の働き方改革論議では『指導医の下で、若手の医師に患者を実際に診療させ、教えていく』という医師育成の視点が欠けているように思える」と警鐘を鳴らしています。
この点、厚労省医政局の吉田学局長は、「単に時間外労働の特例だけを検討するのではなく、地域医療への影響はもちろん、タスクシフト、患者の医療のかかり方も含めて複合的な観点で議論をしてもらう」ことを説明し、山崎委員や相澤委員らの指摘も踏まえた検討が「医師の働き方改革に関する検討会」で行われていることを紹介しています。
北海道地震で電力供給がストップ、在宅での人工呼吸器バッテリーが重要課題の1つに
また(2)の救急・災害医療提供体制については、厚労省医政局地域医療計画課の鈴木健彦局長から「救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会」で、これまでに次のような方向が見出されていることが報告されました。とりわけ、今年(2018年)には大きな自然災害が各地で発生しており、2019年度予算概算要求でも項目立てが行われています。
▽DMAT事務局の人員増強、事務局の在り方の見直し、DMAT支援団体による応援体制の確立、人材育成のための研修事業創設など
▽災害時を想定した「平時における燃料等の供給手段の確保」に向けて、医薬品等と同様の優先的な提供体制の確保など
▽ドクターヘリやドクターカーなどの「病院前医療」を効率的に提供するための地域での協議実施や、安全性確保のための教育、情報提供など(2018年7月に関連通知を発出済)
先の北海道大地震(北海道胆振東部地震)においては、全道で電力供給がストップし、医療提供等に大きな影響が出ました。この点、北海道庁で陣頭指揮に当たった厚労省大臣官房の迫井正深審議官は、「全域で電力供給がストップし、燃料供給ができなくなり、結果として水の供給もできなくなるという初めての経験をした。医療提供にもさまざまな影響があり、例えば、在宅で人工呼吸器装着をしている患者について、バッテリーが切れ、家族が病院を訪れ、外来医療の現場が混乱するという事態にも直面した。局をあげて、遺漏のないような対応を検討し、実施していく」考えを強調しています。
多くの病院では、非常用の電源設備を用意していますが、燃料が切れた場合、発電機を稼働することができなくなり、電力の確保ができなくなってしまいます。相澤構成員は「船で燃料を運ぼうと考えたが、『安全面で不可能』と却下されてしまうというケースもあったと聞く。緊急事態にもかかわらず、こうした対応を取られてしまうのは、我が国のガバナンスの大きな課題ではないか」と指摘し、厚労省だけでなく、政府全体で危機管理対応を見直す必要があると強調しています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
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