新型コロナ対応等を行う「医療人材」確保に向け離職防止・現場復帰・人員配置転換を支援―厚労省
2020.5.12.(火)
新型コロナウイルス感染症に対応する「医療人材の確保」が全国の医療機関で急務となる中、(1)現場で従事している医療従事者の離職防止(2)潜在有資格者の現場復帰促進(3)医療現場の人材配置転換―が当面の最重要課題となる。
離職防止や人員配置についての補助・助成を活用するとともに、各医療機関で効果的な人員配置を行うための取り組みを行ってほしい―。
厚生労働省は5月8日に事務連絡「新型コロナウイルス感染の拡大に対応する医療人材の確保の考え方及び関係する支援メニューについて」を示し、こうした点を整理し、医療現場や都道府県等に要請しました(厚労省のサイトはこちら)。
目次
医療人材の負担軽減のため、派遣経費などを新型コロナ緊急包括支援事業で補助
新型コロナウイルスが猛威を振るう中では、「感染拡大の防止」(例えば外出の自粛など)と「医療提供体制の確保」の2つが大きな柱となります。後者では、例えば「新型コロナウイルス感染症患者を診療する重点医療機関の設定」「軽症者・無症候患者の宿泊施設・自宅での療養」「新型コロナウイルス感染症患者を受け入れる医療機関の診療報酬上の評価」「新型コロナウイルス感染症患者を受け入れる医療機関への公的な補助(新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業)」などの対応が積極的にとられていますが、「医療人材の確保」が大きな課題となっています。
医療人材確保に関しては、Gem Medでもお伝えしたように、「新型コロナウイルス感染症患者を受け入れる医療機関への公的な補助」などが2020年度の補正予算で行われることになっています(関連記事はこちら)。今般の事務連絡では、この点について分かりやすく整理したもので、都道府県・医療現場で医療人材確保に係る補助・助成制度を積極的に活用していくことが期待されます。
医療人材確保に関しては、(1)現場で従事している医療従事者の離職防止(2)潜在有資格者の現場復帰促進(3)医療現場の人材配置転換―が当面の重要課題となり、それぞれに補助・助成メニューが準備されています。
まず(1)の離職防止に関しては、次の4施策が行われています。
(a)医療従事者の身体的・精神的負担を軽減するための重点的な人材配置
(b)医療従事者の宿泊施設の確保
(c)保育所等における医療従事者等の子どもの預かりへの配慮
(d)差別や偏見の防止
このうち(a)については、医療従事者の身体的・精神的負担を軽減するために、「新型コロナウイルス感染症の患者が入院している病棟などに医師・看護師等を重点的に配置する」「理学療法士・作業療法士等も含めた多職種連携を進め、個人に業務負担集中を避ける」などし、適切に休息をとることのできる人員配置が求められます。この点、主に「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援業」の中の▼新型コロナウイルス重症患者を診療する医療従事者派遣体制の確保事業▼DMAT・DPAT等医療チーム派遣事業―として補助・助成が行われています。
前者の「新型コロナウイルス重症患者を診療する医療従事者派遣体制の確保事業」は、重症例治療のために必要な人工呼吸器やECMOを正しく扱える知識を有する医療従事者の派遣に係る費用を補助するものです。派遣元医療機関を対象に、▼医師では1人1時間当たり7550円を上限に▼医師以外の医療従事者では同じく2760円を上限に―派遣に係る費用の2分の1が補助されます。
また後者の「DMAT・DPAT等医療チーム派遣事業」は、医師について1人1時間当たり7550円、医師以外の医療従事者について同じく2760円、業務調整員について同じく1560円を上限として、医療従事者の派遣費用や医療チームの活動費(個人防護具、医薬品、医療用消耗品、一般消耗品の購入などの必要)の2分の1を補助するものです。新型コロナウイルス感染患者が急増する地域では、医療提供体制が脆弱になりがちであり、医療チーム派遣による支援に大きな期待が集まります。
このほか、新型コロナウイルス感染患者・疑い患者について積極的な診療を行う医療機関については、次のような診療報酬上の臨時特例措置が行われ、経済的な支援が行われています。
●外来、在宅医療で、新型コロナウイルス感染症患者および疑い患者を診療した場合
→通常の点数(初診料や再診料、外来診療料)に加えて【院内トリアージ実施料】を算定可能(1回につき+300点)(関連記事はこちら)
●一般病棟等で、軽症の新型コロナウイルス感染症患者(確定患者のみ)を入院させた場合
→入院基本料等に加えて【救急医療管理加算】(1日につき+950点)・【二類感染症患者入院診療加算】(1日につき+250点)を算定可能(都合+1200点となる)(関連記事はこちら)
●一般病棟で、中等症の新型コロナウイルス感染症患者(確定患者のみ)を入院させた場合
→入院基本料等に加えて【救急医療管理加算】×2(1日につき1900点)・【二類感染症患者入院診療加算】(1日につき+250点)を算定可能(都合+2150点となる)(関連記事はこちら)
●ICU等で、重症の新型コロナウイルス感染症患者(確定患者のみ)を入院させた場合
→ICU等の入院料×2+【二類感染症患者入院診療加算】×4(または2)(例えば【特定集中治療室管理料1】のユニットでは、都合+1万5211点となる)(関連記事はこちら)
●訪問看護において、新型コロナウイルス感染症患者および疑い患者を看護した場合
→通常の点数(訪問看護療養費)に加えて、訪問看護ステーションでは【【特別管理加算】(2500円)を、医療機関では【在宅移行管理加算】(250点)を算定可能(関連記事はこちら)
また(b)は、▼新型コロナウイルス感染症患者の対応に伴い深夜勤務となる医療従事者▼基礎疾患を有する家族等と同居しており帰宅することが困難な医療従事者―のために「宿泊施設の確保」に係る費用を助成するものです。
さらに(c)は、医療従事者等について「自宅待機」「休職、離職」をせざるをえないような状況が発生しないよう、病院内保育所等が追加的に実施する学童保育に要する経費について財政支援を行うものです。併せて厚労省は、医療従事者等の子どもに対する保育所における預かりへの配慮(例えば、保育所等の規模縮小や臨時休園等を行う場合でも、医療従事者等の子ども預かりが必要な場合の対応を検討するなど)について「徹底」をするよう都道府県等に要請しています。
また(d)は、新型コロナウイルス感染症患者の治療にあたる医療従事者とその家族等に対し、「科学的根拠に基づかない誹謗中傷・いじめ・子どもの預かり拒否」などの嘆かわしい事例が各地で発生している点に鑑み、都道府県等に「住民に対し正確な情報に基づくメッセージを発信する」などの対応を依頼しています。
医療従事者が安心して業務に携われる環境を整備することが極めて重要となっており、こうした補助等について積極的に活用が進むことが期待されます。また、我々国民1人1人が「医療現場のご苦労」をきちんと理解し、正しい行動をとる(誹謗中傷などがあってはならないことは当然として、適切な受療行動をとるなど)ことも極めて重要です。今一度、自分自身の行動を振り返る必要があるでしょう。
ハローワークにおいて、潜在有資格者の現場復帰(職業紹介)を実施
また(2)「潜在有資格者の現場復帰促進」に向けては、「ハローワークにおける医療人材求人に対する積極的な職業紹介の実施」を活用するよう求めています。
厚労省では同日(5月8日)に、都道府県の労働局を通じて、ハローワークに対し「医療人材に係る求人について積極的に職業紹介を行う」ことを指示。さらに都道府県に対して、▼医療機関等に対しハローワークへの求人提出を働きかける▼既にハローワークとの連携が進められている「都道府県ナースセンター」「都道府県医師会」「都道府県看護協会」「都道府県臨床検査技師会」「都道府県臨床工学技士会」などの関係団体とハローワークとの適切な連携を支援する―よう求めています。
新型コロナ対応で厳しい状況にある救急医療機関などへの人員派遣等を支援
一方、(3)「医療現場の人材配置転換」に関しては、とりわけ次の4つの施策が重要となります。
(a)新型コロナウイルス感染症患者に対応する医療従事者の確保
(b)医師が新型コロナウイルスに感染した場合等の代替医師の確保
(c)看護職員が新型コロナウイルスに感染した場合等の代替看護職員の確保
(d)新型コロナウイルス感染症患者に対応する医療従事者の養成
まず(a)では、「新型コロナウイルス感染症患者の対応により医療ニーズが高まっている病院」への医療人材派遣の支援が重要となります。例えば、大学など「医療関係職種の養成機関」や、医師会・病院会・看護協会など「関係団体」と都道府県が協力し、医療人材の派遣を効果的かつ効率的に行うことが求められます。
この点については、主に「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業」の▼新型コロナウイルス重症患者を診療する医療従事者派遣体制の確保事業(上記参照)▼DMAT・DPAT 等医療チーム派遣事業(上記参照)▼新型コロナウイルス感染症の影響に対応した医療機関の地域医療支援体制構築事業▼新型コロナウイルス感染症対策事業交付金―、さらに「感染症予防事業費等負担金」での補助・助成が行われます。
「新型コロナウイルス重症患者を診療する医療従事者派遣体制の確保事業」と「DMAT・DPAT 等医療チーム派遣事業」に関しては上記をご参照ください。
また「新型コロナウイルス感染症の影響に対応した医療機関の地域医療支援体制構築事業」は、「新型コロナウイルス対応のために医療従事者が他医療機関に応援に行ってしまっている」「自院の新型コロナウイルス対応に医療従事者が従事している」などの事情で厳しい状況となっている▼救命救急センター▼二次救急医療機関▼へき地医療拠点病院▼総合周産期母子医療センター▼地域周産期母子医療センター▼小児中核病院▼小児地域医療センター▼小児地域支援病院―に対して、都道府県の定める計画に基づいて、都道府県の登録を受けた医師等を派遣する医療機関(派遣元)に補助を行うものです。医師について1人1時間当たり2265円、医師以外の医療従事者について同じく562円を上限に、必要な経費の2分の1が補助されます。
一方、新型コロナウイルス感染症対策事業交付金は、主に「入院病床の確保」等を支援するもので、新型コロナウイルス感染症患者の入院に当たって、▼病床確保▼消毒▼搬送▼患者対応に伴い深夜勤務となる医療従事者の宿泊施設確保等▼軽症・無症候の感染患者(以下、軽症者等)の宿泊施設確保や運営等―に関する経費について、次の額を上限として2分の1を補助することになります。
【病床確保】
▽ICU内の病床確保:1床・1日当たり9万7000円
▽人工呼吸器を使用して重症患者を受け入れるための病床確保:1床・1日当たり4万1000円
▽上記以外の:1床・1日当たり1万6000円
【宿泊施設借上げ費】
▽室料:1室・1日当たり1万3100円
▽食費:1食当たり1500円(飲料代・配送費は除く)、1日当たり4500円(飲料代・配送費は除く)
【対象外】
▽軽症者等に対して電話や情報通信機器による診療等を行うためのソフトウェア導入・使用に係る費用は対象経費から除かれる
また厚労省は、▼「宿泊療養・自宅療養」や「地域外来・検査センター」の運営を地域の実情に応じて、地域医師会等に委託することが可能である▼「宿泊療養・自宅療養」の運営委託については新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業における「新型コロナウイルス感染症対策事業」が活用可能である▼「地域外来・検査センター」の運営委託(人件費、備品費、消耗品等の費用等)については感染症予防事業費等負担金が活用可能である(検査に係る費用は診療報酬で請求)▼地域医師会等による「地域外来・検査センター等への医師等派遣」については、DMAT・DPAT等医療チーム派遣事業も活用可能である(ただし、地域外来・検査センター等が派遣された医師等に係る経費を支払う場合は、当該経費に係る収入分を差し引く)―ことを明確化しています。
(b)と(c)は、医療スタッフが新型コロナウイルスに感染等し、休業等を余儀なくされる場合の「代替スタッフ」派遣に係る費用を補助・助成するものです。▼医師については、新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業の「新型コロナウイルスに感染した医師にかわり診療を行う医師派遣体制の確保事業」(派遣元医療機関へ、医師1人1時間当たり7550円を上限として必要経費の2分の1を補助)を▼看護職員については、2020年度補正予算における「地域の医療提供体制確保のための看護職員の派遣調整事業」―が活用されます。
厚労省では、都道府県に対し、予めこうした事態を想定し、▼関連団体等と協力して状況を把握し、対応(代替スタッフをどの医療機関から派遣するのかなど)について関係者で確認しておく▼都道府県に設置されたドクターバンクやナースセンターを活用する―ことなどを求めています。
また(d)では、2020年度補正予算で実施予定の「ECMOチーム等養成研修事業」を活用するなどし、「重症患者診療や感染症診療、診療時の感染防止策について経験豊富な医療従事者」から、経験の浅い医療従事者が診療等の支援を受けられる連携体制を構築するものです。詳細は別途示されます。
各医療現場で「ICUへの人材集中」など効果的な人員配置を
さらに厚労省は、「医療従事者の配置転換の具体策」として、次のような職種別・職種共通の取り組みを例示しています。これらを参考に、各医療機関が、実情(新型コロナウイルス感染症による入院患者数の増加度合いや、地域の医療資源など)に応じて「診療科・担当分野の枠を超えた人員配置」を検討することが重要です。
【医師】
▽▼呼吸器内科▼集中治療科―に限らず、多くの診療科で連携して新型コロナウイルス感染症の治療に当たる。
【看護師等】
▽「新型コロナウイルス感染症対応の関係で休止となった外来・手術室に配置されている看護職員」が、新型コロナウイルス感染症患者受け入れ病棟で勤務する
▽医療機関内において「外来・病棟の看護業務全体を把握する担当者」を看護部に配置し、新型コロナウ イルス感染症患者の受け入れ状況を踏まえて▼病棟の受け入れ患者調整▼各病棟に適した看護職員の配置―を行う
【薬剤師】
▽「新型コロナウイルス感染症対応により薬剤師の確保が難しい病院や薬局」に対し、都道府県薬剤師会や都道府県病院薬剤師会等を通じて、近隣や系列病院、薬局から応援の薬剤師を派遣する
【臨床検査技師】
▽微生物室等他部門で従事しているが「採取された検体からPCR法で新型コロナウイルスの遺伝子を検出するための操作(PCR検査)に必要な技能を持つ」臨床検査技師について、病院内の状況に応じて「新型コロナウイルス感染症の判定のためのPCR検査」へ優先的に人員配置を行う
▽PCR検査は感染防御・検査に関する知識と十分な経験があれば研究者や大学院生においても実施可能であり、臨時的な雇用を検討する
【臨床工学技士】
▽透析 室や医療機器管理室等で従事しているが、例えば「人工呼吸器やECMO装置等を操作する技能を持つ」臨床工学技士について、病院内の状況に応じて「集中治療室」へ優先的に人員配置を行う
【その他医療従事者】
▽理学療法士等の職種においても、患者の体位交換など「医師、看護師等のサポートを行うような取り組み」を行うなど、より一層の多職種連携を進める
【職種共通】
▽人員の配置転換により生じた「派遣元の部門や関連病院等における人員不足」に対して、大学等の医療関係職種の養成機関や関係団体等から応援の医療従事者を派遣する
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新型コロナ患者増加状況踏まえ、一般医療機関での外来診療、一般病院の一般病床での入院医療を段階的に進める―厚労省
新型コロナ感染対策のための電話等による診療や薬剤処方、【電話等再診料】や【処方箋料】を算定―厚労省
基礎疾患持つ患者の新型コロナ感染避けるため、電話等による診療・処方、処方箋のFAX送信ルール明確化―厚労省
公立病院における新型コロナ感染症への医療提供体制の充実を要請―高市総務相
「互いに手を伸ばせば届く距離で、多くの人が会話等で一定時間以上続く」環境が新型コロナ感染リスクを高める―厚労省専門家会議
新型ウイルス感染拡大防止に向け、イベント開催の必要性検討、「社員等が休みやすい環境」整備を―加藤厚労相
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新型コロナウイルス患者等の受け入れ等で診療報酬の施設基準等満たさずとも、当面は変更届け出等は不要―厚労省
37.5度以上の発熱があり入院が必要な肺炎が疑われる患者、新型コロナウイルス検査の実施を―厚労省
37.5度以上発熱が4日以上続く、倦怠感や呼吸困難がある場合は「帰国者・接触者相談センター」に相談を―厚労省
新型コロナウイル患者の入院医療費は「公費負担」とするなど、治療体制を急ぎ整える―首相官邸
新型コロナウイルス関連での外出自粛患者への診療、往診料や訪問診療料の算定可能―厚生労働省
新型コロナウイルス患者、緊急やむを得ない場合には「感染症病床以外の病床」への搬送・入院も可能―厚労省
新型コロナウイルスの感染疑い例診察する特別外来を設置、相談センターから紹介―厚労省
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