医療機関での患者レセプト情報共有、「手術」は別に個別同意を共有要件に―健康・医療・介護情報利活用検討会(1)
2022.5.18.(水)
全国の医療機関において、患者同意の下で「レセプト情報を共有する」仕組みが始まっている。まず「薬剤」「特定健康診査」情報からスタートしており、この9月(2022年9月)から他の情報にも拡大が予定されている―。
ただし「手術」については機微性が一段高い点に鑑みて、「他の情報とは別個に同意をとる」仕組みを設け、来年(2023年)5月からの共有開始とする—。
5月17日に開催された「健康・医療・介護情報利活用検討会」(以下、検討会)で、こういった方針が固められました。
国民・患者に「診療情報の共有により、どういうメリットがあるか」を明確化していく
患者の同意を前提とした「医療機関間での診療情報の共有」が全国ベースで展開されます(患者の同意をもとに全国の医療機関で診療情報等を確認できるようになる)。「この患者はこれまでにどういった傷病について、どういった治療を受けている(きた)のか」という情報を共有することで、「医療安全の確保」(例えば併用禁忌薬剤投与の防止など)や「効果的・効率的な治療」(重複投薬の防止など)が可能となり、医療の質が向上すると期待されます。
医療機関等において「患者の情報を共有・閲覧する仕組み」としては、Gem Medでも報じているとおり、次の2つの仕組みがあります。(A)(B)のいずれも「オンライン資格確認等システム」のインフラを活用して情報共有を行います(関連記事はこちらとこちらとこちら)。あわせて、(A)のレセプト情報を、マイナポータルを活用して「患者自身が確認する」ことも可能となります。
(A)「レセプト」情報を共有・閲覧可能とする仕組み
(B)各医療機関の電子カルテ情報を共有・閲覧可能とする仕組み
このうち(A)は、「審査支払機関の保有するレセプトから共有に必要な情報を予め定めておき、患者の同意の下で医療機関が当該情報にアクセスすることを認める」というイメージです。すでに▼薬歴情報▼特定健康診査(40-74歳を対象とする、いわゆるメタボ健診)情報—についての共有が始まっています(関連記事はこちら)。
共有すべきレセプト情報については、▼手術(移植・輸血を含む)、短期滞在手術等基本料▼放射射線治療▼画像診断▼病理診断▼医学管理、在宅療養指導管理料▼人工腎臓、持続緩徐式血液濾過、腹膜灌流—などに拡大していく方向が固められています。医療現場において「この情報を共有すれば、より効果的かつ効率的な医療提供が可能となる」と考えられる情報に拡大していくものです(関連記事はこちら)。
現在、情報共有拡大に向けた準備が進められており、「本年(2022年)9月」から上記の拡大された情報についても、患者自身の同意を前提として医療機関で共有することが可能となる見込みです。
ところで、「病名」については現時点では「情報共有は時期尚早」と検討会で判断されています。かつてに比べて「病名の患者への告知」は進んでいますが、患者の状況等を踏まえて慎重に行われておりされ、「告知がなされないケース」「患者の医療知識を踏まえて、医師があえて『厳密には異なるが理解しやすい病名』を伝えるケース」なども存在します。
この場合、(A)の仕組みを通じて、患者が自身の病名をレセプトで確認した場合に、「告知されていないが、自分は●●(例えば「がん」)だったのか」と驚愕し、大きなストレスを受ける場面や、「先生に聞いた病名と異なる。あの先生は嘘をついている」と信頼関係が揺らいでしまう場面なども想定できます。このため検討会では、▼患者への告知を前提に病名情報を共有する▼今後、「レセプト上で告知状況を確認できる方法」を十分に議論し、あらためて具体的な仕組みを検討・実装する—という方針が定められたのです(関連記事はこちら)。
この点に関連して長島公之構成員(日本医師会常任理事)は「手術については、例えば『●●悪性腫瘍手術』など、病名が容易に推察されるKコードが設定されており、他の情報に比べて機微性が一段高い」ことを踏まえ、「手術情報について、他の情報と切り分けて、個別同意を求める仕組みとしてはどうか」と提案。例えば、がん患者に対し、医師の判断で「あえて告知をせずに治療を進めた」場合に、レセプトで手術名から「自分は胃がんである」などと把握できてしまえば、上述の「病名」と同様の問題が生じることを長島構成員は強く危惧しています。
この提案に対して「反論」「異論」は出ていませんが、▼放射線治療についても、一部、病名を推察可能な部分があると考えられ、確認・検討が必要ではないか(山本隆一構成員:医療情報システム開発センター理事長)▼閣議において「2022年夏から手術情報を含めたレセプト情報の共有を行う」旨が決定されており、それを修正するには明確な理由が必要と思われ、「同意」の在り方も含め、一度立ち止まって考えるべきではないか(宍戸常寿構成員:東京大学大学院法学政治学研究科教授)▼「患者の同意」を情報共有の必須事項と考えれば、診療情報提供についても、患者に内容を見せて「同意」を得なければいけなくなってしまう。「同意」についてはしっかり考える機会が必要であろう(大道道大構成員:日本病院会副会長)—との注文が付きました。
重要な指摘ですが、立ち止まってこれらの検討を行った場合には、「他の情報の共有を今年(2022年)9月から行う」ことが難しくなります(共有開始が遅れてしまう)。このため森田朗座長(東京大学名誉教授)をはじめ検討会では、「注文・指摘のあった事項について、その趣旨を十分に勘案してシステム構築・運用に努める」よう厚生労働省に強く求めたうえで、長島構成員の提案を了承しました。
その結果、情報共有の内容とスケジュールは次のようになります。
▼手術情報:「他の情報(薬剤や医学管理など)と切り離し、別画面で個別に同意を得る」仕組みを構築し、来年(2023年)5月から情報共有を開始する
▼手術以外の情報:予定どおり本年(2022年)9月から情報共有を開始する(個々の情報について同意を取得するのではなく、一括して「診療情報の共有」に関する同意を患者から得る仕組みとなる)
▼患者自身が「手術以外の情報」をマイナポータルを通じて確認する仕組み:予定どおり本年(2022年)9月から運用する
なお、厚労省大臣官房の大坪寛子審議官(医政、医薬品等産業振興、精神保健医療担当)(老健局、保険局併任)は「『患者による医療機関窓口での同意』の前に、『レセプト情報を含めた診療情報の共有によって、こうしたメリットがある』ということを厚労省として強くPRしていく」考えを強調しています。医療機関間での「診療情報の共有」により、具体的に「こういうメリットがある」という点を国民・患者に理解してもらうことこそが、円滑な情報共有にとって極めて重要であり、かつ最も近道である点を確認したコメントと言えるでしょう。この点は、前日(5月16日)の「医療情報ネットワークの基盤に関するワーキンググループ」でも、厚労省医政局研究開発振興課医療情報技術推進室の田中彰子室長から述べられています(関連記事はこちら)。
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