薬剤師が「患者情報」と「専門知識」とを組み合わせ「適切な処方内容へ変更」できた好事例多数—医療機能評価機構
2025.12.10.(水)
薬剤師が「患者情報」と「専門知識」とを組み合わせを組み合わせて、「禁忌薬剤の処方」をストップし、医師に情報提供・疑義照会して「適切な処方内容へ変更」とつなげられた事例が多数ある—。
日本医療機能評価機構が先頃公表した薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要知見が明らかになりました(機構のサイトはこちら)。
添付文書改訂などの最新情報もキャッチアップを
日本医療機能評価機構は、保険薬局(調剤薬局)における医療安全の確保・向上を目指した「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」も展開しています。全国の保険薬局から「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)の報告を求め、重要な事例の集積・解析・公表によって「再発防止」を目指すものです。
再発防止の一環として、ヒヤリ・ハット事例の中から医療安全確保のために有益な情報を「共有すべき事例」として定期的にピックアップ・公表しています(最近の事例に関する記事はこちら)。今般、新たに3つの事例が紹介されました。
1つ目は、薬剤師が患者の過去の疾患などを把握し「禁忌薬剤の処方」をストップできた好事例です。
60歳代の患者に整形外科から骨粗鬆症治療薬の「アレンドロン酸錠35mg『サワイ』」が処方されていました。しかし患者が胃部不快感を訴えたため、今般、同じく骨粗鬆症治療薬の「ラロキシフェン塩酸塩錠60mg『サワイ』」へと変更になりました。この点、薬局薬剤師が薬剤服用歴を確認したところ、患者は数か月前に下肢の浮腫により同じ医療機関の内科を受診し、深部静脈血栓症と診断されて血栓・塞栓形成の抑制に用いる「イグザレルト錠15mg」と浮腫治療に用いる「ルプラック錠4mg」が処方されていました。患者に確認したところ、深部静脈血栓症の治療は既に終了しているとのことでしたが、ラロキシフェン塩酸塩錠は「深部静脈血栓症の患者・その既往歴のある患者には禁忌」となるため、処方医に疑義照会。その結果、骨粗鬆症治療薬は「エルデカルシトールカプセル0.5μg『日医工』」へと変更になりました。
事例の背景には、処方医(整形外科)が「同じ医療機関の他科(内科)の治療歴」を把握していなかった可能性が考えられます。
機構では、▼薬剤師には「患者が服用している薬剤やこれまでに服用してきた薬剤から現病歴や既往歴を推測する」ことが求められるが、複数の効能・効果のある薬剤があるため、「患者から現病歴や既往歴の確認を行う」ことが重要である▼得られた情報は薬剤服用歴に記録して活用できるようにする必要がある—とアドヴァイスしています。
2つ目も薬剤師が専門知識を活かし、処方医(歯科医)に疑義照会の結果、適切な処方内容に変更できた事例です。
70歳代の患者が歯科診療所を受診し、鎮痛剤の「ロキソプロフェンNa錠60mg」 1回1錠・疼痛時が処方された。ところで患者にはアスピリン喘息の既往があり、かかりつけの医師から「アスピリンやその他の非ステロイド性抗炎症薬を服用しない」ように指示を受けていました。薬剤師が歯科医師に疑義照会を行ったところ「カロナール錠500」 1回1錠・疼痛時へ処方変更となりました。
しかし薬剤交付後に、薬剤師がカロナール錠の添付文書を改めて確認したところ「アスピ リン喘息・その既往歴のある患者に対する1回あたりの最大用量はアセトアミノフェンとして300mg以下とする」との記載があることに気付きました(2023年10月にカロナール錠の添付文書が改訂され、【禁忌】から「アスピリン喘息・その既往歴のある患者」が除外され、【用法・用量に関連する注意】に「アスピリン喘息・その既往歴のある患者に対する1回あたりの最大用量」の記載が追加された)。
薬剤師が再度、歯科医師に疑義照会を行い、「カロナール錠300」 1回1錠・疼痛時へ変更となったため、患者に連絡して「カロナール錠500」を回収し、「カロナール錠300」を手渡すことができました。
機構では、▼アスピリン喘息・その既往歴のある患者に解熱鎮痛薬が処方された際には注意が必要である▼薬剤師は日頃から添付文書やインタビューフォーム、診療ガイドラインなどを活用して薬剤に関する情報を正しく理解しておくことが重要である▼添付文書の改訂があった際は、改訂内容の把握とともに、改訂の理由や背景などについても理解する必要がある—とアドヴァイスしています。
3つ目も、薬剤師が患者の情報を把握し、また専門知識を生かして医師に情報提供し、「適切な処方内容」が確保できた好事例です。
薬剤師が医師の訪問診療に同行した際、90歳代の患者の家族から「帯状疱疹ワクチンの患者への接種」希望がありました。医師が▼生ワクチンの乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」▼組換えワクチンの「シングリックス筋注用」—について家族に説明し、どちらを希望するかを尋ねました。その際、薬剤師は「患者が関節リウマチの治療のためプレドニゾロンを長期間内服している」ために、「生ワクチンは患者に禁忌である」ことを医師に情報提供。その結果、患者にシングリックス筋注用を接種することになりました。
機構では、▼在宅医療の現場では、薬剤などの情報がすぐに入手しにくい環境下にあることから、「薬剤師が同行し医師に情報提供を行う」ことが有用である▼免疫不全・免疫機能低下者に生ワクチンを接種するとワクチンウイルスの感染を増強あるいは持続させる可能性があるため、免疫抑制作用のある副腎皮質ステロイド薬や抗リウマチ薬、抗悪性腫瘍薬による治療を受けている患者は、生ワクチンの接種が受けられないことに留意しなければならない▼2025年度から予防接種法が一部改正され、65歳の者などが帯状疱疹ワクチンの定期接種の対象となっている。定期接種対象の年齢に近い患者が免疫抑制作用のある薬剤を服用している場合は、帯状疱疹ワクチンを接種する際の注意点を予め説明し、服用している薬剤を医師に伝えることが重要である―とアドヴァイスしています。
薬局・薬剤師には「対物業務」から「対人業務」への移行が求められ、いわゆる「かかりつけ薬局・薬剤師」が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つことが重要です(関連記事はこちら)。
あわせて、2022年7月には「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」が、▼「対物業務のみ・対人業務に力を入れない」薬局経営が成り立たないような調剤報酬へ移管する必要がある▼「対物業務の効率化」のため、まず「一包化業務の他薬局」への外部委託認可を検討する▼「ICT化・DX対応」を進めるとともに、薬局薬剤師は「地域の多職種や、病院薬剤師と顔の見える関係」構築に努める必要がある—との考えをまとめています(関連記事はこちら)。
とりわけ高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高く(ポリファーマシー)、厚生労働省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、注意を呼び掛けています。とくに外来医療等では、患者のそばに常に医療従事者がいるわけではないことから、保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要となります(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
こうした考え方も踏まえて、2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経営的にサポートする基盤が整備され、前回の2020年度改定での充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)、今回の2022年度改定での充実(例えば「調剤料の処方日数に応じた評価の見直し」や「調剤管理料の新設」など)も図られています。
「疑義照会=点数算定」という単純構造ではないものの(要件・基準をクリアする必要がある)、今回の事例のような薬剤師の素晴らしい取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まり、診療報酬での評価にも結び付くでしょう。
さらに、患者から「あの薬局、あの薬剤師さんは親身に話を聞いてくれ、お医者さんに問合せまでしてくれる」との良い評判が立つことが、薬局経営の安定化に非常に効果的です。
なお、厚労省は昨年(2024年)7月22日に▼「病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」の改訂▼「地域における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」の策定—を行っています。病院、クリニック、薬局が連携して「地域ごとに、関係者が面でポリファーマシー対策を進める」ことの重要性を強調しています。医療安全確保のためにも「地域連携」が極めて重要です。
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