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薬剤師が専門知識を活かして薬剤の副作用を疑い、専門医へ受診勧奨した結果、適切な処方内容へ変更できた好事例—医療機能評価機構

2023.12.1.(金)

薬剤師が、専門知識を活かすとともに、製薬メーカーに確認を行うことで「併用禁忌の誤認」を是正できた—。

薬剤師が、患者・家族から相談を受けて検査結果を確認して「薬剤の副作用」を疑い、専門医への受診を勧奨。結果、適切な薬剤への処方変更を行うことができた—。

日本医療機能評価機構が11月27日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要知見が明らかになりました(機構のサイトはこちら)。

製剤量と成分量との誤認に留意を

日本医療機能評価機構では、保険薬局(調剤薬局)における医療安全の確保・向上を目指した「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」も展開しています。全国の保険薬局から「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)の報告を求め、重要な事例の集積・解析・公表を踏まえて「再発防止」を目指すものです。

再発防止の一環として、ヒヤリ・ハット事例の中から、医療安全確保のために有益な情報を「共有すべき事例」として定期的にピックアップ・公表しています(最近の事例に関する記事はこちら)。今般、新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。

1つ目は「散剤の用量間違い」事例です。

10歳代の患者に、鎮咳剤の「フスタゾール散10%」1日3g・1日3回毎食後が処方されました。薬剤師は、「フスタゾール散」の添付文書の「用法及び用量に関連する注意」の「1日投与量」にある「散10%としての1日投与量」の表に「成人300mg-600mg」との記載を確認しましたが、これを「成分量300mg-600mg」と思い込み、処方された「1日3gが適切である」と判断し、患者に交付しました。しかし、交付後に改めて確認した際に「製剤量であり、処方箋に記載された用量が不適切である」ことに気付きました(疑義照会を行うべきであった)。

事例の背景には、添付文書において▼「用法及び用量」には「クロペラスチン塩酸塩として、通常成人1日30-60mg」(成分量)▼「用法及び用量に関連する注意」には「散10%とし成人300mg-600mg」(製剤量)—と混在して記載されている点があるようです。

機構では「フスタゾール散10%の添付文書では、成分量と製剤量が同じ単位で記載されていることに注意する必要がある」とアドヴァイス。関連して「主要な鎮咳薬の供給不安が予測されるため、普段は取り扱わない鎮咳薬についても適切に調剤できるように対策を講じておくことが望まれる」とも付言しています。



2つ目は「併用禁忌の誤認」を是正できた好事例です。

高血圧症治療薬「オルメサルタンOD錠20mg『DSEP』」(成分名:オルメサルタン・メドキソミル)を服用中の患者が、▼抗菌剤の「フルコナゾールカプセル100mg『サワイ』」▼高血圧症治療薬の「カンデサルタン錠4mg『あすか』」—が記載された処方箋を持参しました。処方箋のコメント欄に「フルコナゾールとオルメサルタンが併用禁忌なため、オルメサルタンを中止し、カンデサルタンを服用するよう患者に説明してください」との記載がありました。薬剤師は「オルメサルタンとフルコナゾールカプセルは併用禁忌ではない」ため、処方医に疑義照会を行ったところ、「フルコナゾールカプセルの添付文書に『オルメサルタンが併用禁忌』との記載があり、院内の薬剤部にも確認した」との返答がありました。薬剤師が製薬企業に確認したところ「オルメサルタン・メドキソミルとアゼルニジピンの合剤である『レザルタス配合錠』(高血圧症治療薬)は、含有するアゼルニジピンとの相互作用のため『フルコナゾールカプセル』と併用禁忌であるが、オルメサルタン・メドキソミル単剤であれば問題ない」との回答がありました。薬剤師が改めて処方医に連絡し情報提供したところ、「カンデサ ルタン錠」が削除され、「オルメサルタンOD錠」を継続服用することになりました。

事例の背景には、処方医が「添付文書の禁忌欄に記載された薬剤名を誤認した」ことがあるようです。

機構では、▼添付文書には「併用禁忌に該当する薬剤の一般的名称」が記載されるが、配合剤の場合は併用禁忌に該当しない成分も併記されるため、誤認しないよう注意する必要がある▼併用禁忌を確認する際は、添付文書の相互作用にある「臨床症状・措置方法」「機序・危険因子」やインタビューフォームを確認し、併用禁忌の薬剤とその理由を把握したうえで判断することが重要である—とアドヴァイス。関連して「添付文書の記載見直し」の必要性も指摘しています。



3つ目は、「血液検査の結果を見た薬剤師が薬剤による副作用の発現を疑い、専門医への受診勧奨を行った」好事例です。

平素から来局している患者の家族に定期薬を交付する際、「内科での血液検査に異常値があり、医師から心当たりがあるか尋ねられたが思いつかなかった。検査結果を見て欲しい」との相談がありました。検査結果を見ると、好酸球が33.2%と基準値を大きく超えていました。薬剤師が症状を詳しく聴取したところ「背中の痒みが強いと訴えている」ことが分かりました。薬剤師は「内科で処方されている糖尿病治療薬『トラゼンタ錠5mg』による類天疱瘡の可能性がある」と考えました。皮膚科を受診し「医師にお薬手帳を見せて『トラゼンタ錠による副作用の可能性がある』と伝える」よう指示しました。数日後、皮膚科医から薬局に連絡 があり「DPP-4阻害剤(ここではトラゼンタ錠)による水疱性類天疱瘡と診断した。内科医に『トラゼンタ錠の服用を中止し、他剤に変更してほしい』と情報提供した。薬剤師から皮膚科を早期受診し、お薬手帳を持参するよう指示したことは良い判断であった」旨の報告がありましたその後、内科の処方箋は「トラゼンタ錠」が削除され、別の高血圧症治療薬「リベルサス錠3mg」に変更されました。

ちなみに、内科医は好酸球の値を見てアレルギー反応を疑ったものの、トラゼンタ錠による副作用とは考えなかったようです。

機構では、▼薬剤師がDPP-4阻害剤を服用している患者に対し「かゆみを伴う浮腫性紅斑、水疱、びらんの有無」などを定期的に確認することが有用である▼薬剤師が患者の薬物療法に適切に関与するためには、薬剤師の職能について患者や家族から理解を得て、何でも相談してもらえるような信頼関係を築いておくことが重要である—とアドヴァイスしています。





薬局・薬剤師には「対物業務」から「対人業務」への移行が求められ、いわゆる「かかりつけ薬局・薬剤師」が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つべきことが重要です(関連記事はこちら)。

あわせて、昨年(2022年)7月には「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」が、▼「対物業務のみ・対人業務に力を入れない」薬局経営が成り立たないような調剤報酬へ移管する必要がある▼「対物業務の効率化」のため、まず「一包化業務の他薬局」への外部委託認可を検討する▼「ICT化・DX対応」を進めるとともに、薬局薬剤師は「地域の多職種や、病院薬剤師と顔の見える関係」構築に努める必要がある—との考えをまとめています(関連記事はこちら)。

とりわけ高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高く(ポリファーマシー)、厚生労働省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、注意を呼び掛けています。とくに外来医療等では、患者のそばに常に医療従事者がいるわけではないことから、保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要となります(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。



こうした考え方を先取りし、2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤が整備され、前回の2020年度改定での充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)、今回の2022年度改定での充実(例えば「調剤料の処方日数に応じた評価の見直し」や「調剤管理料の新設」など)も図られています。

「疑義照会=点数算定」という単純構造ではないものの(要件・基準をクリアする必要がある)、今回の事例のような薬剤師の素晴らしい取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まり、診療報酬での評価にも結び付くでしょう。

さらに、患者から「あの薬局、あの薬剤師さんは親身になってくれ、お医者さんに問合せまでしてくれる」との良い評判が立つことが、薬局経営の安定化に非常に効果的です。



なお、厚労省は2021年3月31日に通知「『病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方』について」を示しており、病院はもちろん、地域のクリニックや薬局と連携して「ポリファーマシー対策」を進めることの重要性を指摘しています。医療安全確保のためにも「地域連携」が極めて重要です。



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