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GemMed塾 看護モニタリング

薬剤師が診療ガイドラインにまで遡り「処方内容の適正性」を確認した好事例—医療機能評価機構

2023.7.31.(月)

薬剤師が、診療ガイドラインにまで遡って処方内容の適正性を確認し、処方変更が実現できた—。

日本医療機能評価機構が7月26日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要知見が明らかになりました(機構のサイトはこちら)。

製薬メーカー情報なども活用し「自身の行った計算や判断を改めて検証する」ことも重要

日本医療機能評価機構では、保険薬局(調剤薬局)における医療安全の確保・向上を目指した「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」も展開しています。全国の保険薬局から「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)の報告を求め、重要な事例の集積・解析・公表を踏まえて「再発防止」を目指すものです。

再発防止の一環として、ヒヤリ・ハット事例の中から、医療安全確保のために有益な情報を「共有すべき事例」として定期的にピックアップ・公表しています(最近の事例に関する記事はこちら)。今般、新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。

1つ目は「一般名処方された薬剤をレセコンに入力する際に薬剤選択を誤り、効能効果が異なる他の薬剤を調剤してしまった」事例です。

ある薬局で子宮内膜症に伴う疼痛改善や月経困難症などの治療に用いる「【般】ドロスピレノン・エチニルエストラジオール(プラセボ無)」と記載された処方箋を応需しました。事務員がレセコンで薬剤を検索しましたが、その際、処方箋に記載された「プラセボ無」の意味を把握せず、処方薬の選択には関係ないと思い、上位に表示された「ヤーズ配合錠」(プラセボ有)を選択して入力してしまいました。また、処方監査をした薬剤師Aは「ヤーズフレックス配合錠」と「ヤーズ配合錠」を、プラセボの有無で区別する必要があることを把握しておらず、入力の間違いに気付きませんでした。別の薬剤師Bが薬剤を交付する際に、「処方すべき薬剤は、プラセボ無のヤーズフレックス配合錠である」ことに気付きました。

機構では、▼同一の有効成分・剤形を有する薬剤であっても効能効果、用法用量等の異なるものが存在する場合には、括弧書き等により区別を行う場合があり、処方箋記載内容に不明な点があれば調べて、解決してから調剤することが重要である▼ヤーズフレックス配合錠・ヤーズ配合錠が処方された際は「取り違えが起きやすい薬剤である」ことを意識する(過去にも注意喚起がなされている)▼製薬企業や医薬品医療機器総合機構(PMDA)などから発信される「薬剤の適正使用情報」を定期的に確認し、取り違えが起きそうな薬剤について薬局内で情報を共有することが大切である▼薬品棚やレセコンの検索画面に表示される薬剤名に「注意を促す対策」を行うことが、薬剤の取り違え防止に有用である—とアドヴァイスしています。



2つ目は、「薬剤師が代替薬への変更を処方医に提案する前に換算方法の間違いに気付き、適切な用量を提案できた」好事例です。

ある患者に、低カリウム状態時のカリウム補給に用いる「グルコンサンK錠5mEq」1日4錠が処方されました。処方箋を応需した薬局に在庫がなく、入手も困難であったため、カリウム補給に用いる「アスパラカリウム錠300mg」への変更を処方医に提案することにしました。薬局においてカリウム量が同等になるようにmEq数で換算したところ、「グルコンサンK錠5mEq 4錠(20mEq)は、1錠あたり1.8mEqであるアスパラカリウム錠300mg11錠に相当する」という結果になりました。しかし、アスパラカリウム錠300mgの添付文書に記載されている用量(最大10錠)を超過するため、カリウム製剤の換算方法を再確認したところ、生体内利用率の違いから「単純にmEq数での換算はできない」ことが分かりました。メーカーのQ&Aでは「グルコンサンKからアスパラカリウムに切り替える際には、mEq数の約4割を目安に開始する」ことと記載があり、この情報をもとに処方変更を提案したところ「アスパラカリウム錠300mg・1日4錠」へ変更となりました。

機構では、▼カリウム製剤は、製剤により生体内利用率や組織移行性等が異なるため「本来は薬局の都合等で安易に切り替えるべきではない」ことを理解する必要がある▼製薬メーカーの提供する情報や参考文献を適切に活用し、自身の行った計算や判断を改めて検証することは、患者に安全な薬物治療を提供するために有用である—とアドヴァイスしています。



3つ目も、「薬剤師が診療ガイドラインを参照して情報提供を行った」好事例です。

以前より「乳がん術後の薬物療法のために、医療機関Aからアナストロゾール錠1mgを処方され、当薬局で調剤している」患者が来局しました。お薬手帳を確認したところ、最近、別の医療機関Bから骨粗鬆症治療としてラロキシフェン塩酸塩錠60mg「サワイ」が処方され、他の薬局で調剤されていることが分かりました。薬剤師は乳癌診療ガイドライン2022年版を参照したうえで、「医療機関Bの処方情報」を医療機関Aの処方医に提供し協議。結果、ラロキシフェン塩酸塩錠60mg「サワイ」は中止になり、プラリア皮下注60mgシリンジに変更となった。

乳癌診療ガイドライン2022年版には「選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)であるラロキシフェンは閉経後女性への骨粗鬆症治療薬として挙げられる。しかし、『同様のSERMであるタモキシフェンとアナストロゾールの併用で有害事象増加と乳がん再発抑制効果阻害の可能性』が示されており、アロマターゼ阻害薬使用時のラロキシフェン併用は避けるのが妥当」との旨が記載されていますが、ここまで遡って処方内容の適正性を確認した薬剤師の行動に頭が下がります。

機構では、▼薬局・薬剤師は、専門性の高い情報発信や研修会を通じて地域の医療機関や薬局と連携し、地域包括ケアシステムの一員として患者の安全な薬物治療に貢献することが期待されている▼アロマターゼ阻害薬を服用中の患者は「骨量の低下」が懸念されるため、他院で骨粗鬆症の指摘を受ける可能性がある。「骨粗鬆症の薬物治療を開始する際には、乳がんの治療を受けている医療機関の主治医や薬剤師に相談する」よう、あらかじめ患者に説明しておくことが薬剤師の重要な役割の1つである—とアドヴァイスしています。





薬局・薬剤師には「対物業務」から「対人業務」への移行が求められ、いわゆる「かかりつけ薬局・薬剤師」が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つべきことが重要です(関連記事はこちら)。

あわせて、昨年(2022年)7月には「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」が、▼「対物業務のみ・対人業務に力を入れない」薬局経営が成り立たないような調剤報酬へ移管する必要がある▼「対物業務の効率化」のため、まず「一包化業務の他薬局」への外部委託認可を検討する▼「ICT化・DX対応」を進めるとともに、薬局薬剤師は「地域の多職種や、病院薬剤師と顔の見える関係」構築に努める必要がある—との考えをまとめています(関連記事はこちら)。

とりわけ高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高く(ポリファーマシー)、厚生労働省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、注意を呼び掛けています。とくに外来医療等では、患者のそばに常に医療従事者がいるわけではないことから、保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要となります(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。



こうした考え方を先取りし、2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤が整備され、前回の2020年度改定での充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)、今回の2022年度改定での充実(例えば「調剤料の処方日数に応じた評価の見直し」や「調剤管理料の新設」など)も図られています。

「疑義照会=点数算定」という単純構造ではないものの(要件・基準をクリアする必要がある)、今回の事例のような薬剤師の素晴らしい取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まり、診療報酬での評価にも結び付くでしょう。

さらに、患者から「あの薬局、あの薬剤師さんは親身になってくれ、お医者さんに問合せまでしてくれる」との良い評判が立つことが、薬局経営の安定化に非常に効果的です。



なお、厚労省は昨年(2021年)3月31日に通知「『病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方』について」を示しており、病院はもちろん、地域のクリニックや薬局と連携して「ポリファーマシー対策」を進めることの重要性を指摘しています。医療安全確保のためにも「地域連携」が極めて重要です。



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