定期処方薬剤についても患者とコミュニケーションとり、「副作用発現の有無」を確認せよ―医療機能評価機構
2020.6.4.(木)
継続的に処方されている薬剤についても、薬剤師が患者とコミュニケーションを十分にとり、「重大な副作用」発現の徴候に気づくことができた―。
薬剤師が添付文書を確認し、「必要な併用薬が処方されていない」ことに気づき、重大な副作用の発現を防止できた―。
日本医療機能評価機構は6月2日に、保険薬局(調剤薬局)からこのようなヒヤリ・ハット事例が報告されたことを公表しました(機構のサイトはこちら)。
重症の在宅療養患者が増加する中、薬局薬剤師にも「注射薬」の知識向上が重要
医療機能評価機構では、医療安全確保のために、全国の保険薬局(調剤薬局)から「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)を収集する「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」を展開。その一環として、収集いた事例の中から医療安全確保に向けてとりわけ有益な情報を「共有すべき事例」としてまとめ、公表しています(最近の事例に関する記事はこちらとこちらとこちら)。6月2日には、新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。
1つ目は、薬剤交付前に添付文書の確認を行ったことから、「薬剤併用上の留意点」に気づかなかった事例です。
画期的なC型肝炎治療薬である「ハーボニー配合錠」を朝食後に服用している患者に対し、新たに胃潰瘍や逆流性食道炎の治療に用いる「ネキシウムカプセル20㎎」が朝食後に処方されました。薬剤師が、患者に薬剤を交付した後にハーボニー配合錠の添付文書を確認したところ、「プロトンポンプ阻害剤(ネキシウムカプセルもこの1つ)と本剤(ハーボニー配合錠)とを併用する場合は、空腹時にプロトンポンプ阻害剤を本剤と同時投与する」旨の記載があることに気づきました。薬剤師が処方医に疑義照会を行った結果、「それぞれの用法が『朝食後2時間』に変更」となりました。
患者に薬剤を交付する前にハーボニー配合錠等の添付文書を確認すべきでしたが、これを怠ったためにヒヤリ・ハット事例が生じたもので、当該薬局では「調剤の際に、添付文書確認を徹底する」という対策をとっています。
機構では、▼プロトンポンプ阻害剤と同様に、胃内のpHを上昇させる薬剤である「水酸化アルミニウム」「水酸化マグネシウム」などの制酸剤、「ファモチジン」などのH2受容体拮抗剤との併用にも注意が必要である▼処方監査時に、重複投与、投与禁忌、相互作用、アレルギー・副作用歴、副作用の発現などを確認する必要がある―とアドバイスしています。
2つ目は、薬剤師が患者に聞き取りを行う中で「重大な副作用」が発現している可能性に気づき、処方医に疑義照会し、服用中止となった好事例です。
2年半前から高コレステロール血症治療薬である「アトルバスタチン錠」を服用している患者について、継続処方がなされました。薬剤師が患者に聞き取りを行ったところ「3か月前から筋肉痛の症状が現れている」「褐色尿も見られる」ことが分かりました。アトルバスタチン錠の重大な副作用として「横紋筋融解症」(ミオパチー、筋肉痛、脱力感、CK(CPK)上昇、血中・尿中ミオグロビン上昇が特徴)があり、この発現を疑った薬剤師が主治医に連絡。結果、「アトルバスタチン錠」が処方削除となり、残薬の服用も中止となりました。
継続している薬剤を交付する際には、「変わりないですか?」などと確認するのみならず、「気になっていることはありませんか?それは何ですか」といった質問をすることで患者から有用な情報を引き出すことが可能です。
機構では、▼薬剤師は、重篤な副作用の初期症状や発現しやすい時期について理解しておく▼副作用の発現について患者に確認を行う際、「起こりうる症状」を患者に具体的に伝えたうえで、それらの症状の有無を確認する(患者からの情報発信を待たずに、薬剤師サイドから積極的に情報収集する)▼副作用発現の確認は、服用初期だけでなく、患者が薬剤を服用している期間において定期的に行う―ことをアドバイスしています。事例であれば、薬剤師側から「筋肉痛はありませんか?だるさはないですか?」などと問いかけることが重要でしょう。
3つ目は、鑑査時の添付文書確認によって「重大な副作用」の発現を防止できた好事例です。
病院を退院して在宅療養を行うことになった患者に対し、薬局で無菌製剤処理が必要な薬剤を含む処方箋を受け付けました。そこには、▼高カロリー輸液である「ハイカリックRF輸液」▼高カロリー静脈栄養に頼らざるを得ない患者への亜鉛、鉄、銅、マンガン、ヨウ素の補給を行う「エレジェクト注シリンジ」▼ナトリウム欠乏時の電解質補給に用いる「塩化ナトリウム注10%」―が処方されていました。「ハイカリックRF輸液」の添付文書には、【警告】として「ビタミンB1を併用せずに高カロリー輸液療法を施行すると重篤なアシドーシスが発現することがあり、必ずビタミンB1を併用する」旨の記述がありますが、薬剤師が鑑査を行った際に「ビタミンB1製剤が処方されていない」ことに気づきました。処方医に疑義照会を行った結果、高カロリー静脈栄養に頼らざるを得ない患者のビタミン補給に用いる「ビタジェクト注キット」が追加となりました。
「ハイカリックRF輸液を投与する際にはビタミンB1製剤の併用が必須である」ことを、調剤した薬剤師は知らず、鑑査した薬剤師には輸液の知識があったことから、添付文書を確認し、疑義照会を行うことができました。もし鑑査時に添付文書確認がなされていなければビタミンB1投与がなされず、重大な副作用(アシドーシス)が生じていた可能性があります。
在宅医療においても、中心静脈栄養や人工呼吸療法が行われる患者が徐々に増加しており、保険薬局の薬剤師が「高カロリー輸液などの無菌製剤を含む調剤への参画」が進んできています。機構では「注射剤に関する知識の向上」を全薬剤師に求めています。
なお、今回の事例では、患者の入院中には「ビタジェクト注キット」が処方されており(診療情報提供書には入院中に使用していた注射剤の記録はなく、医療機関への確認で明らかとなった)、「処方漏れ」と考えられます。
2015年10月に「患者のための薬局ビジョン」がまとめられ、そこでは「かかりつけ薬局・薬剤師が、(1)服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導(2)24時間対応・在宅対応(3)かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—を持つべき」旨が強調されています。薬局・薬剤師がかかりつけ機能を強化・発揮し、「適正な薬学管理の実現」「重複投薬の是正」など医療の質を向上していくことが不可欠なためです。
また2018年度の前回調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤が整備され、さらに2020年度の今回改定でその充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)が図られています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
「疑義照会=点数算定」という単純な構図ではりません(要件・基準をクリアする必要がある)が、今回の事例(2つ目、3つ目の事例)のような薬剤師の取り組みが積み重ねられることにより、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まります。こうした現場の動きは、確実に報酬引き上げ論議等に結びついていくことから、「薬剤の専門家」という立場を踏まえて、積極的な疑義照会・処方変更提案などが行われることがさらに期待されます。
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