薬剤師も患者の状態を把握し、処方薬剤の妥当性などを判断せよ―医療機能評価機構
2018.2.21.(水)
医師が、高血圧症治療薬「セララ錠25mg」を、使用禁忌である「血清カリウム値が高い患者」に処方してしまった。幸い、高カリウム血症改善剤「アーガメイト20%ゼリー25g」が併せて処方されていたことから薬局薬剤師が疑義照会し、セララ錠の処方を中止できた―。
日本医療機能評価機構は2月7日、このようなヒヤリ・ハット事例が薬局から報告されたことを公表しました。(機構のサイトはこちら)。薬剤師には患者の状態を把握し、処方された薬剤が妥当かどうか判断する重要な役割を担っており、本事例はその役割を果たしたものと言えます。
目次
医療安全対策に有用な事例を公表
日本医療機能評価機構は、患者の健康被害などにつながりかねなかった事例を薬局から収集する「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」を行い、とくに医療安全対策に有用な情報となる「共有すべき事例」を毎月公表しています(関連記事はこちら)。2月7日には、次の5つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。
(1)薬剤師が処方箋を見間違え、異なる薬剤を処方してしまった事例
(2)薬剤師が処方箋の確認を十分に行わず、異なる薬剤を処方してしまった事例
(3)薬剤師が処方箋に記載された数量を十分に確認しなかった事例
(4)薬剤棚に別の薬剤が混入しており、処方箋と異なる薬剤を患者に渡してしまった事例
(5)使用禁忌の薬剤を処方してしまった事例
一般名処方の増加に伴い「見間違え」も増加している点を注意
このうち(1)と(2)は、一般名処方された処方箋の内容を、薬局薬剤師が見誤ったものです(▼(1)では「【般】ロキソプロフェンNaテープ100mg(10×14cm温感)」を「【般】ロキソプロフェンNaテープ100mg(10×14cm非温)」と見間違え、(2)では「【般】バルプロ酸Na徐放錠100mg」を「【般】バルプロ酸Na錠100mg」と見間違えた)。
診療報酬上、「一般名による処方」が推進されているため、薬剤を一般名で記載する処方箋が増えており、一般名の読み違えによる誤調剤も増加しています。機構では、▼一般名を末尾までしっかりと読み取る▼(1)のような貼付剤の場合、患者に「暖かいタイプでよいか」などと尋ね確認する▼(2)のように作用の持続時間が異なる薬剤がある場合、薬品棚に特徴を表示する—などの対策をとるよう提案しています。
慢性疾患患者でも処方内容が変更される点に留意
(3)は、高血圧症治療薬「アダラートCR錠10mg」の数量について、従前は「1回1錠」であったものが、「1回2錠」に変更されたことに薬剤師が気づかず、従前どおり調剤してしまった事例です(システムに誤入力したため、薬袋や薬剤情報提供文書にも誤記載)。
機構は、「多くの患者は、薬袋や薬剤情報提供文書を見て服薬する。処方箋内容が、薬袋や薬剤情報提供文書に正しく反映されているか確認すべき」と指摘しています。
もっとも、本事例では、当該薬剤師1人で業務を行ったため、他の薬剤師が誤りに気付くこともなかったもので、「勤務体制」の見直しをまず行う必要があるでしょう。
薬剤棚に薬剤を戻す際、複数人でのチェックを
(4)は、湿疹・皮膚炎群の急性期治療に用いる副腎皮質ホルモン剤「セレスタミン配合錠」21日分を患者に交付したところ、その中にL-システイン製剤「ハイチオール錠40」が混入したものです。患者は誤って服用してしまっています。
当該薬局の薬剤棚には両製剤が混在していました(以前にハイチオール錠を薬剤棚に戻す際、誤ってセレスタミン配合錠の場所に置いてしまった)。機構では、「一度取り出した薬剤を棚に戻す際は、業務が落ち着いたときに複数人でチェックしながら行う」ことなどを推奨しています。
もっとも調剤の段階で混入に気づけなかったことは、当該薬局のチェック体制に、より根本的な問題が存在していた可能性もあります。
処方箋から患者の状態を把握し、処方の妥当性を判断せよ
さらに(5)は、血清カリウム値が5.0mEq/Lを超えている患者に対して、使用禁忌である高血圧症薬「セララ錠25mg」を調剤してしまいそうになった事例です。同時に高カリウム血症治療薬である「アーガメイト20%ゼリー25g」が処方されていたため、薬剤師が疑義照会し、幸いにも使用禁忌薬剤を調剤することはありませんでした。
機構では、▼処方箋に患者の検査値が記載されている場合には、そこから患者の状態を把握▼検査値が不明な場合でも、処方箋やお薬手帳から患者が服用しているすべての薬剤を把握し、患者の状態を推測—し、処方された薬剤が適切かを判断し、有効で安全な薬物治療につなげることが薬剤師の重要な役割であると強調。本事例の薬剤師は、まさにその役割を果たした好事例であると言えるでしょう。
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