2016年に報告された医療事故は3882件、うち338件で患者が死亡―日本医療機能評価機構
2017.9.4.(月)
昨年(2016年)1年間に報告された医療事故は3882件あり、うち8.7%の338件では患者「死亡」している。また、同じく2016年の1年間に報告されたヒヤリ・ハット事例は85万6802件で、そのうち0.4%は仮に誤った行為を実施していた場合には「死亡」などに至っていた―。
このような状況が、日本医療機能評価機構が8月28日に発表した2016年の「医療事故情報収集等事業」の年報から明らかになりました(機構のサイトはこちら)。
目次
整形外科や精神科における「療養上の世話」で事故発生確率が高い
日本医療機能評価機構では、医療安全対策の一環として医療機関で発生した事故やヒヤリ・ハット事例を収集、分析する「医療事故情報収集等事業」を実施しており、定期的にその内容を公表しています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
まず2016年に報告された医療事故の状況を見てみましょう。報告された医療事故は合計で3882件(国立病院など報告義務のある医療機関に限ると3428件)となり、事故の程度別に見ると、「死亡」が338件(事故事例の8.7%、前年比べて0.9ポイント減少)、「障害残存の可能性が高い」ものが398件(同10.3%、同0.4ポイント増)、「障害残存の可能性が低い」ものが1101件(同28.4%、同0.2ポイント増)、「障害残存の可能性なし」が1008件(同26.0%、同1.0ポイント減)などとなっています。報告された事故の半数近くで患者に何らかの障害が残っており、事故防止対策の強化が急務となっています。
医療事故の概要を見てみると、最も多いのは「療養上の世話」で14030件(事故全体の36.8%、前年から1.3ポイント増)、次いで「治療・処置」1168件(同30.1%、同0.3ポイント減)、「薬剤」270件(同7.0%、同0.1ポイント減)、「ドレーン・チューブ」266件(同6.9%、同0.2ポイント減)などと続きます。前年より「療養上の世話」に関する事故が大きな増加を見せています。
事故の発生要因(複数回答)を見てみると、「確認の怠り」が最も多く、事故全体の11.3%(前年から0.7ポイント減少)を占めていますが、「患者側の要因」も11.2%(同0.1ポイント増加)となっている点に留意が必要です。また「観察の怠り」10.5%(同0.1ポイント増)、「判断の誤り」9.6%(同0.4ポイント減)も大きな事故発生要因となっています。確認や観察の怠り、判断誤りなど当事者側の行動に起因する事例は、依然として事故全体の4割強を占める最大要因と言え、すべての医療機関で、改めて「業務手順の見直しと手順遵守の徹底」を行う必要があります。
事故に関連した診療科(複数回答が可能)を見ると、従前同様に整形外科(614件)、外科(432件)、内科(323件)、消化器科(301件)などで多い状況です。整形外科では「療養上の世話」343件、「治療・処置」129件などに起因する事故が多くなっています。複数回答であり上記とは母数が異なりますが、診療科と事故の発生場面とをクロスで見てみると、▼整形外科における「療養上の世話」8.0%▼精神科における「療養上の世話」4.8%▼外科における「治療・処置」3.8%▼内科におけるに「療養上の世話」3.2%▼呼吸器内科における「療養上の世話」2.7%▼整形外科における「治療・処置」2.7%—などが目立ちます。該当診療科では、こうした場面での事故発生に特に留意する必要があります。
ヒヤリ・ハット事例は86万件弱、「薬剤」関連が4分の1を占める
ヒヤリ・ハット事例に目を移してみましょう。2016年の1年間に報告されたヒヤリ・ハット事例は合計85万6802件で、前年に比べて7万件超の増加となっています。事例そのものが増加している(ミスが増えている)というよりも、「ヒヤリ・ハット」事例の把握・報告をより的確に行える、つまり透明性が増していると考えられます。
内訳は「薬剤」が最も多く27万8376件(ヒヤリ・ハット事例全体の32.5%)、次いで「療養上の世話」18万7628件(同21.9%)、「ドレーン・チューブ」12万7319件(同14.9%)などで多くなっています。
「ヒヤリとした、ハットした」にとどまり、実際に患者に誤った行為などをしていないケースが全体の約3割に当たる25万8779件ですが、仮に誤った行為を実施していた場合には3847件では「死亡」もしくは「重篤な状況」に至り、また1万6440件では「濃厚な処置・治療が必要になった」と考えられます。改めて「十分な注意」「ミスが生じない体制づくり」(複数チェックなど)が必要と言えるでしょう。
事例の発生要因(複数回答)を見てみると、「医療従事者・当事者の確認の怠り」が圧倒的に多く、全体の4分の1(24.1%)を占めています。そのほか「観察の怠り」8.6%、「繁忙だった」8.1%、「判断の誤り」7.4%などが多くなっています。医療事故に比べて「確認の怠り」の割合が高くなっており、「念のためもう一度確認してみる」「同僚や専門知識を持つ他職種にも確認を依頼する」という業務フローの再構築が求められます。
院内ルールを構築するだけでなく、ルール違反を指摘しあえる環境整備を
今回の年報では、▼分娩誘発のためアトニン-O注を末梢静脈から投与するところ、硬膜外ルートから投与してしまった▼上級医が希釈した薬剤の指示をした際、レジデントは原液を準備し、投与してしまった▼アドリアシン注用総投与量を超えて投与してしまった▼チラーヂンS散を処方するところ、チラーヂン末を処方し、過剰投与となってしまった▼医師に「ATP」(アデシノンP)と指示された際、看護師がアトロピン硫酸塩注を準備し、投与してしまった▼抗凝固薬を予定より5日早く休薬し、患者が脳梗塞を起こしてしまった▼体外式ペースメーカのケーブルが断線しており、患者がペーシング不全を起こしてしまった▼永久気管孔にフィルムドレッシング材を貼付したことにより、患者の呼吸状態に影響があった―という8つの具体的な事故事例を取り上げて詳細に分析。再発防止策などを検討しています。
このうち「抗凝固薬を予定より5日早く休薬し、患者が脳梗塞を起こしてしまった」事例に注目してみます。ある医療機関では、外来診察室担当看護師が入院日を記載したメモ(電子カルテのプリントアウトではなく)を処置室担当看護師に渡し、外来処置室担当看護師が患者へ抗凝固薬などの休止期間の説明を行いましが、その際、誤って「休止開始の指示日」が5日早いメモを患者に渡しました。病棟看護師がそのメモを受け取り、患者からの聞き取りも踏まえて「抗凝固薬が5日早く休止されている」旨を電子カルテに記載。疑問を感じた病棟薬剤師が主治医に確認したところ、主治医は「循環器医に相談している」と返答しています。その後、日勤看護師も疑問を感じ病棟薬剤師に確認したところ、「主治医が循環器医に相談している」と返答したことが伝えられ、病棟看護師は「正しい」解釈。抗凝固薬の休止から5日後の朝に、患者の会話が混乱していることが分かり日直医師は「せん妄疑い」と判断し、経過観察を指示。翌日には主治医との会話も成立せず、現状認識困難であったため、主治医が脳外科クリニックを紹介受診させることを決定し、予定していた手術を中止とした。クリニックでの検査の結果、急性脳梗塞・出血性脳梗塞と診断され、専門治療のできる病院に転院搬送となりました。
事例の背景には、▼電子カルテ導入後、指示全般について「口頭での指示」が多かった▼院内ルールの遵守が徹底されておらず、ルール違反を指摘する風土もなかった▼情報交換・共有が不十分であった(例えば、病棟薬剤師は病棟看護師に「循環器に相談している」との医師の返答を伝えたが、「脳梗塞の発症の危険性」を含めた話し合いはしていない)▼早期に検査を行い、専門医に診断を委ねるという危機感がなかった―などさまざまな要因があります。事故が発生した医療機関では、院内ルールの改善などを行っていますが、やはり「ルールの遵守」「ルール違反を職種を超えて指摘しあえる」環境・風土の醸成がもっとも重要でしょう。
こうした個別事例の研究を進めるとともに、それを一般化し、各医療機関で運用しやすい形にカスタマイズすることが事故防止には不可欠です。
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