複数薬剤の処方日数を一括して変更する際には注意が必要―医療機能評価機構
2018.1.15.(月)
処方医が患者に処方する薬剤の処方日数をまとめて変更したために、週1回経口投与する骨粗鬆症治療剤「ボナロン経口ゼリー35mg」(一般名:アレンドロン酸ナトリウム水和物)を、35日分(35週分)も一度に処方してしまった。薬局でも、薬剤の用法を十分に確認せずにそのまま調剤して患者に交付してしまい、患者が毎日服用すれば健康被害を起こしかねなかった―。
日本医療機能評価機構は1月5日、このような事例が薬局から報告されたことを公表しました。公表された事例は全5例で、医療機関にも対策が求められる内容です(日本医療機能評価機構のホームページはこちら)。
医療事故予防のため、共有すべき5例を公表
日本医療機能評価機構は「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」として、患者の健康被害などにつながりかねなかった事例を薬局から収集し、医療事故の発生予防に有用な「共有すべき事例」をホームページで公表しています。1月5日には、(1)調剤前の処方せん内容などのチェック(処方監査)に見落としがあった(2)処方せんを出した医療機関とは別の医療機関での処方された薬剤のチェックに見落としがあった(重複処方)(3)併用禁忌薬剤が処方され、処方内容を変更した(4)薬剤数量を誤って交付した(5)薬剤の量を誤って交付しそうになった―の計5例が取り上げられました。それぞれ、どのような対策が必要か確認していきましょう。
高齢患者への重複処方、医療機関にも対策が求められる
まず、「処方監査に見落としがあったケース」として、(1)多量のボナロン経口ゼリーが処方され、薬局薬剤師がそのまま交付してしまった(2)精神安定剤「デパス錠0.5mg」(一般名:エチゾラム)の重複処方に、薬局薬剤師が気付くのが遅れてしまった―との2例が公表されました。
(1)は、服用が週1回でよいボナロン経口ゼリーを、処方医が誤って一度に35日分(35週分)も処方してしまい、薬剤師がそのまま調剤して患者に交付してしまったことから、患者が毎日服用し、健康被害を起こしかねなかった事例です。
処方医が35日分のボナロン経口ゼリーを一度に処方してしまった原因は、その患者に処方する複数の薬剤について、処方日数を一括して変更したことです。1日1回服用する薬剤のみであれば問題は生じませんでしたが、ボナロン経口ゼリーの処方日数まで35日分(35週分)に変更されてしまいました。
また、そうした誤りがあったとしても、処方せんを受け付けた薬局薬剤師が、「週1回服用する薬が35日分も処方されるのはおかしい」と気付いて疑義照会を行い、処方医に薬剤数量の変更を相談することが望ましいと言えます。しかし、処方監査を担当した薬剤師は「処方された薬剤の種類が今までと同じであること」を確認しただけで、ボナロン経口ゼリーを35日分交付してしまいました。
幸いにも、患者にとって使い慣れた薬剤であったため、毎日服用することはありませんでしたが、日本医療機能評価機構は「薬剤の服薬パターンが特殊な場合に、医薬品棚にその旨を表示する」といった工夫が求められると指摘しています。処方医にとっても、複数の薬剤の処方日数を一括して変更する際には、薬剤の用法の違いなどを念頭に置く必要があると言えます。
一方、(2)は、複数の医療機関を定期的に受診している高齢患者が、お薬手帳を活用しておらずデパス錠の重複処方の発見が遅れた事例です。この患者は、医療機関Aでデパス錠の処方を定期的に受けていましたが、手持ちが少なくなり、医療機関Bで臨時にデパス錠を処方してもらいました。しかし、医療機関Bでもデパス錠が定期的に処方されるようになり、重複処方の状態が数か月間続いてしまいました。
この事例では、患者が薬局にお薬手帳を持参した際、薬剤師が重複処方に気付きました。処方が重複している間、患者が倍量のデパス錠を服薬することは幸いにもありませんでしたが、医療保険財政が厳しい中で残薬などの解消が強く求められおり、重複処方の解消は、薬局の重要な業務です。この薬局では、▼他科受診の際には必ず併用薬を医師に伝える▼薬局にお薬手帳を毎回提出する―必要性を、患者・家族に説明しています。
高齢患者は、複数の慢性疾患を併発し、複数の医療機関を受診しているケースが少なくなりません。2014年度の診療報酬改定で、複数の慢性疾患を併発する患者の「主治医としての機能」を評価する【地域包括診療料】などが創設され、▼患者が受診する全医療機関の把握▼患者に処方された全医薬品の管理―などが算定要件に盛り込まれています。しかし、届け出医療機関数は2016年7月時点で6000施設未満と伸び悩んでおり、18年度の次期診療報酬改定で、施設基準緩和などが図れる見通しです(関連記事はこちら)。
併用禁忌などの確認、処方医も徹底を
(3)の「併用禁忌の薬剤が処方され、処方内容を変更した」事例では、免疫抑制剤である「イムラン錠50mg」(一般名:アザチオプリン)を定期的に服用する患者について、尿酸値が高くなったために、尿酸を抑える「フェブリク錠10mg」(一般名:フェブキソスタット)が処方追加されました。この点、イムラン錠とフェブリク錠の併用は、骨髄抑制などの副作用を増強する可能性があることから禁忌とされています。しかし、薬局の処方監査時に見落としてしまい、処方せん通りに調剤してしまいました。
幸いにも、患者への交付前に確認した電子薬歴システムによって使用禁忌に気付き、両剤が併用されることはありませんでした。処方監査時の見落としについて薬局側は、▼薬剤が追加されたにもかかわらず、確認が不十分だった▼取り扱いが少ない薬剤で、知識が不足していた▼忙しい時間帯であり、入念に確認できなかった―といった反省点を挙げています。
日本医療機能評価機構によれば、イムラン錠とフェブリク錠を医療機関で併用してしまった事例が、2011年11月から17年6月までの間に3例報告されており、「処方のオーダリング画面で使用禁忌のアラートが表示された際に、処方内容を確認すること」などの徹底が処方医にも求められます(関連記事はこちら)。
体調不良や作業中断によるヒヤリ・ハット事例も
そのほか、日本医療機能評価機構が公表した(4)と(5)のヒヤリ・ハット事例では、処方内容に誤りがなかったものの、調剤時にミスが起きています。このうち(4)の事例では、インスリン製剤「トレシーバ注フレックスタッチ」(一般名:インスリン デグルデク(遺伝子組換え))を2本処方されたにもかかわらず、1本のみ調剤して交付してしまいました。
薬局側は、▼処方せんに14種類の薬剤が記載されていたことや、残薬調整に気を取られたことから、調剤時に間違いに気付くことができなかった▼交付前に監査した者が体調不良だった―ことを要因に挙げた上で、体調不良によるエラーを防ぐために、「無理のないシフト調整を行う」といった対策を講じています。
この事例では、薬局が従前から、調剤した注射剤を写真に撮って記録していたことから、「どの患者の調剤内容に誤りがあったか」をすぐに突き止めることができました。そもそも薬剤数量などを間違えないような対策をとることはもちろんですが、仮に誤った場合でも、その間違いに気づけるような、二重、三重の防止策を設けることも重要です。この点、日本医療機能評価機構は、「ミスを100%なくすことは難しいため、調剤時の写真撮影のように、手間のかからない『事後対応の仕組み』を構築することが望ましい」と指摘しています。
(5)の事例では、ビタミン配合剤の「調剤用パンビタン末」(一般名:レチノール・カルシフェロール配合剤)と副交感神経亢進剤「ベサコリン散5%」(一般名:ベタネコール塩化物)を天秤で量って調剤していた薬剤師Aが、両剤の秤量作業中に患者に呼ばれ、作業を中断しました。薬剤師Aは中断前にベサコリン散を量り終え、ベサコリン散の重さを差し引いて調剤用パンビタン末を正しく秤量できるように天秤を設定していました。しかし、作業中断中に薬剤師Bが天秤を使ったことから、薬剤師Aが作業に戻ったときには設定が変わっており、危うく、正しく秤量できていない薬剤を患者に交付しそうになりました。
この事例では、薬剤師Aがすぐ誤りに気付いたことから、秤量をやり直し、正しい量の薬剤を患者に交付することができました。しかし、とくに機器を用いる作業では、中断して機器から離れている間に何らかの理由で設定が変わり、正しい結果を得られなくなる恐れがあります。日本医療機能評価機構は、「作業を中断しないことが、事故防止の大原則である」「やむを得ず作業を中断した場合は、機器の設定状態などを確認してから再開する必要がある」と注意を呼び掛けており、医療機関にとっても医療安全の観点から重要な指摘と言えます。
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