誤った人工関節を用いた手術事例が発生、チームでの相互確認を―医療機能評価機構
2017.12.26.(火)
今年(2017年)7-9月に報告された医療事故は873件、ヒヤリ・ハット事例は7067件となった。医療事故のうち8.0%・70件では患者が死亡しており、7.6%・66件では死亡こそしなかったものの、障害が残る可能性が高い—。
こういった状況が、日本医療機能評価機構が12月25日に公表した「医療事故情報収集等事業」の第51回報告書から明らかになりました(機構のサイトはこちら)。
また報告書では、(1)薬剤の疑義照会(2)食物アレルギーが影響する薬剤の投与(3)整形外科手術時のインプラント―に関連する医療事故を詳細に分析。人工関節置換術などのインプラント手術では、事前に情報をチームで共有し、確実な準備を行うことを要望。また食物アレルギーに関しては、薬剤の成分をすべて把握することが難しいため、薬剤成分のデータベース化と、処方時にアレルギー情報と照らし合わせてチェックできるシステムの構築が必要と提言しています。
目次
2017年7-9月、医療事故の8%、70件で患者が死亡
今年(2017年)7-9月に報告された医療事故873件を、事故の程度別に見ると、「死亡」が70件(事故事例の8.0%)、「障害残存の可能性が高い」が66件(同7.6%)、「障害残存の可能性が低い」が239件(同27.4%)、「障害残存の可能性なし」が265件(同30.4%)などとなっています。「障害残存の可能性なし」の比率が過去の調査結果と比べて高くなっていますが、これはあくまでも結果であり、安心することはできません。
医療事故の概要を見ると、最も多いのは「療養上の世話」で337件(同38.6%)、次いで「治療・処置」237件(同27.1%)、「薬剤」77件(同8.8%)、「ドレーン・チューブ」59件(同6.8%)などと続いています。
薬剤関連のヒヤリ・ハットが増加、院内チェック体制の確認を
ヒヤリ・ハット事例に目を移すと、今年(2017)年7-9月の報告件数は7067件となりました。概要を見ると、「薬剤」関連の事例が最も多く3274件(ヒヤリ・ハット事例全体の46.3%)、次いで「療養上の世話」1113件(同15.7%)、「ドレーン・チューブ」859件(同12.2%)などとなっています。薬剤関連事例が、過去調査に比べて増加しており、一歩間違えば重大な事故に結びつく可能性も考慮した院内のチェック体制の再確認が求められます(ダブルチェック、トリプルチェックなど)。
ヒヤリ・ハット事例のうち4373件についての影響度を見ると、「軽微な処置・治療が必要、もしくは処置・治療が不要と考えられる」事例が96.5%とほとんどですが、「濃厚な処置・治療が必要と考えられる」ケースも2.6%・113件(前四半期に比べて0.5ポイント増加)、「死亡・重篤な状況に至ったと考えられる」も0.9%・41件(同0.2ポイント減少)あります。レアケースとはいえ、重大な影響の出る可能性がある事例が存在することは事実であり、やはり院内のチェック体制の重要性を再確認できます。
誤った人工骨頭などを用いて手術し、再手術となった事例が発生
報告書では毎回テーマを絞り、医療事故の再発防止に向けた分析を行っています。今回は、(1)薬剤の疑義照会(2)食物アレルギーが影響する薬剤の投与(3)整形外科手術時のインプラント―の3点テーマについて、詳細な分析が行われています。
このうち(3)の「整形外科手術時のインプラント」に関連する医療事故事例は、2012年から今年(2017年)9月までに15件報告されています。うち7件は「インプラントの準備」に、8件は「手術中のインプラント選択」に関連するものです。
まず前者の「インプラントの準備」では、準備すべき人工関節について「種類を間違えた」「左右を間違えた」「メーカーを間違えた」という誤ったインプラントを準備していた事例が4件、「前回使用後に、インプラントを補充していなかった」などインプラントを準備していなかった事例が3件となっています。1件では手術開始後に「手術を中止」し、2件では「手術時間が延長」しており、当該患者はもちろん、他の患者やさまざまな院内業務への影響も大きく、機構では、少なくとも「麻酔導入前にインプラントが準備されていることを確認し、手術を開始する」よう求めています。
また後者の「手術中のインプラント選択」では、例えば「32mmの人工骨頭を用いるべきところ、誤って28mmのものを用いて手術を行ってしまった」事例などが報告されています。当然、誤って使用してしまったインプラントを取り外し、正しいインプラントを再装着するための手術(再手術)が必要となります。機構では「手術に関わる▼医師▼看護師▼メーカー▼業者が、使用するインプラントのサイズなどの情報を共有し、複数ある中から選び出す時や箱から術野に出す時に、適切なものであるか確認することが必要」と指摘しています。
院内処方においては、薬剤師の確認不足などで過剰な薬剤投与事例も発生
また(1)の「薬剤の疑義照会」に関連する医療事故事例は、2014年から今年(2017年)6月までに57件報告されており、うち32件は「院内処方で、薬剤師が疑義照会すべきところを、していなかった」事例です。特に多いのは「薬剤量が過剰であった」事例で20件、次いで「日数間違え」4件、「用法(投与方法)間違え」3件、「併用禁忌」2件などとなっています。
「薬剤量が過剰であった」事例では、医師が誤って過剰量のオーダーを出し、これに薬剤師が疑義を生じずに調剤してしまったことが原因です。この点、「添付文書に示された用量の範囲内であれば、過剰ではないかとの疑義を出すことは難しい」ケースもありますが、機構では「院内処方では確認不足が多い」点を指摘。例えば、▼処方監査の重要性を薬剤部で確認する▼薬剤師も患者情報を確認する▼薬剤部での監査責任者を明確化する▼薬剤を患者に渡す際には、薬剤名・規格・服薬量を説明し、患者と相互確認を行う▼一人体制である夜間勤務中に発行された時間外処方箋は、翌朝必ず再監査を行い、疑義照会すべき処方が見逃されていないか確認を行う—などの取り組み例を紹介しています。
食物アレルギーをもつ児に、アレルゲンを含む薬剤を投与してしまった事例発生
一方、(2)の「食物アレルギーが影響する薬剤の投与」に関連する医療事故は、2012年から今年(2017年)9月までに小児科において3件、発生しています(いずれもアナフィラキシーショックの状態に陥ってしまった)。内訳は、乳アレルギーを持つ患児に乳糖水和物が含まれた副腎皮質ホルモン剤(注射用ソル・メルコート40)を投与してしまった事例が2件、牛乳アレルギーを持つ患児にカゼインを含む経腸栄養剤(エンシュア・リキッド)を投与してしまった事例が1件です。
機構では、「食物アレルギーのある患者に投与する際に注意が必要な薬剤の一部」を紹介していますが、「薬剤に含まれる成分を全て把握することは難しい」点を確認し、「薬剤の食物に由来する成分のデータベース化と、処方時にシステムでチェックができる仕組みができることが望ましい」と提言しています。
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