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GemMed塾 看護モニタリング

薬剤師は添付文書等から「正しい服用方法」など確認し、当該情報を処方医にも共有せよ―医療機能評価機構

2020.5.1.(金)

処方医が「温度の高いお湯で懸濁すると、冷めた際に凝固し胃瘻チューブが詰まってしまう」薬剤であることを知らずに「お湯による簡易懸濁法」を指示したが、薬局薬剤師がその旨を指摘し、「水による懸濁法」を提案し、医療事故を未然に防ぐことができた―。

日本医療機能評価機構は4月28日に、保険薬局(調剤薬局)からこのようなヒヤリ・ハット事例が報告されたことを公表しました(機構のサイトはこちら)。

調剤薬局併設型ドラッグストアでは、各種の患者情報を共有できる仕組み作りに期待

従前より医療機能評価機構では、医療安全確保のために、全国の保険薬局(調剤薬局)から「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)を収集する「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」を実施。その一環として、収集いた事例の中から医療安全確保に向けてとりわけ有益な情報を「共有すべき事例」としてまとめ、公表しています(最近の事例に関する記事はこちらこちらこちら)。4月28日には、新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。

1つ目は、併用禁忌の薬剤に薬局スタッフが気づかずに調剤を行い、患者が重篤な出血で入院に至ってしまった事例です。

ある医療機関の口腔外科から口腔咽頭カンジダ症治療薬の「オラビ錠口腔用50mg」が、同じ医療機関の循環器内科から血栓塞栓症治療薬の「ワーファリン錠1mg」を含む10種類以上の薬剤が患者に処方されました。薬局において、2診療科の処方箋を受け付け、処方監査から薬剤調製、鑑査を行って薬剤を交付しました。「オラビ錠口腔用」と「ワーファリン錠」とは併用禁忌でしたが、薬局ではこれに気付かず、疑義照会を行いませんでした。後日、製薬企業の医療機関担当者から報告があり、「交付から数日後に重篤な出血により患者が入院した」ことがわかりました。

当該併用禁忌は2016年10月からですが、薬局の担当者全員がこれを見落としていました。機構では、▼薬局で初めて調剤する薬剤については、「成分」「効能・効果」「用法・用量」などの基本情報を十分理解したうえで調剤を行うことが重要である▼電子薬歴システムを利用する場合は、表示される「禁忌」などの情報を確認することを怠らない―ことを呼びかけています。

当該薬局では、「電子薬歴システムに表示される禁忌、相互作用などの情報は、▼処方監査▼鑑査▼交付―の際に必ず確認することを徹底する」としています。さらに、こうしたルールをスタッフ全員が遵守する風土の醸成や、ルールを遵守しているかを周囲が確認できる仕組み作りなども重要です。



2つ目は、薬剤処方に当たり添付文書を確認し、かつ処方医に疑義照会を行って、適正な服用方法に関する指示が行われた好事例です。

入院中に胃瘻を造設された患者が、退院後に在宅治療を受けていました。当該患者に胃潰瘍等治療薬である「ランソプラゾールOD錠15mg『JG』」を含む9種類の薬剤が処方されました。処方医は「簡易懸濁法(錠剤粉砕や脱カプセルをせずに、錠剤・カプセル剤をそのまま温湯(摂氏55度)に崩壊懸濁させて経鼻胃管、胃瘻、腸瘻より経管投与する方法)を用いて薬剤を服用する」旨を指示しています。OD錠(口内崩壊錠)であることから「簡易懸濁法の適用がある」と考えたと推察されます。しかし、薬局薬剤師は、「ランソプラゾールOD錠は、簡易懸濁法を用いると凝固して胃瘻チューブを詰まらせてしまう可能性があることから、『水で懸濁する必要がある』」旨を医師に伝え、了解を得ることができました。

「ランソプラゾールOD錠15mg『JG』」には、の凝固点が摂氏56-61度である「マクロゴール6000」が添加されており、それより高い温度の湯を簡易懸濁法に用いた場合にはマクロゴール6000が融解し、温度が下がった時に凝固してチューブを詰まらせる可能性があります。このため製薬メーカーでは「ランソプラゾールOD錠を簡易懸濁法に用いる場合は、摂氏55度よりも少し温度が低くなってから崩壊させることが望ましい」旨を提示しています。

事例では、こうした点について薬局薬剤師が確認し、より安全性の高い「水での懸濁」を医師に提案し、これを医師が受け入れたものです。薬剤師が薬剤の専門科としての能力を発揮した好事例と言えるでしょう。

機構では、▼製薬企業に問い合わせるなどして薬剤の情報を収集し、簡易懸濁法の適否を判断する▼薬局から処方医にも情報提供する―ことなどをアドバイスしています。



3つ目は、調剤薬局併設型のドラッグストアにおいて、医薬品購入情報を得ながら、それを調剤時等に十分活用できていなかった事例です。

末期腎不全の患者が、以前から一般用医薬品の「第一三共胃腸薬」を購入し、服用していたことがわかりました。患者は、当該薬局において処方箋により調剤された薬剤を受け取るとともに、一般用医薬品も購入していましたが、薬局サイドでは▼「第一三共胃腸薬」販売の際に、使用上の注意についての説明が十分でない▼調剤時点でも、患者に一般用医薬品の服用の有無を確認しない―という状況でした。

調剤薬局併設型のドラッグストアでは、患者が「医療用医薬品」の受け取りと、一般用医薬品の購入を同一店舗で行うケースも多くなります。機構では、さらなる医療安全確保のために▼要指導医薬品および一般用医薬品を販売する際は、使用者の年齢、症状、医療機関の受診の有無および現病歴・既往歴、他に服用している薬剤やサプリメント、副作用歴等の情報を確認する▼処方箋の応需により得た患者情報と一般用医薬品等の購入に関する情報を薬局内で共有できるような仕組みを構築する―ことをアドバイスしています。



2015年10月に厚生労働省がまとめた「患者のための薬局ビジョン」では、かかりつけ薬局・薬剤師が、(1)服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導(2)24時間対応・在宅対応(3)かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—を持つべきと提言しています。

また2018年度の前回調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤を整備し、さらに2020年度の今回改定でその充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)が図られています(関連記事はこちらこちらこちら)。

「疑義照会=点数算定」という単純な構図にはなっていません(要件・基準をクリアする必要がある)が、今回の事例(2つ目の事例)のような薬剤師の取り組みが積み重ねられることにより、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まっていきます。こうした現場の動きが、報酬の引き上げ等に結びついていくことから、「薬剤の専門家」という立場を踏まえて、積極的な疑義照会・処方変更提案などが行われることが期待されます。



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