薬剤師が併用禁忌情報等に気づき、処方医に疑義照会した好事例―医療機能評価機構
2018.8.8.(水)
お薬手帳が提示されなかったために、「患者が既に薬剤を使用している」ことに気付かず、併用禁忌等の薬剤を処方してしまった。薬剤師が患者情報や最新の添付文書から禁忌等に気づき、疑義照会を行った結果、事なきを得た―。
日本医療機能評価機構は8月7日に、保険薬局からこのようなヒヤリ・ハット事例が報告されたことを公表しました。薬剤師からの積極的な疑義照会が、処方内容の変更に結びついた3事例などが取り上げられています(機構のサイトはこちら)。
最新の添付文書をもとに、併用禁忌情報などの確認を
日本医療機能評価機構は、患者の健康被害などにつながる恐れのあった事例を薬局から収集する「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」を実施しています。あわせて、収集事例の中から、医療安全対策に有用な情報を「共有すべき事例」として公表しています(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。8月7日には、4つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。うち3例は「疑義照会」に関するものです。
1つ目は、患者が「お薬手帳」を提示しなかったため、担当医が併用薬の存在を知らず、禁忌の薬剤が処方されそうになったケースです。
統合失調症等の治療に用いるオランザピンを継続服用している患者から、薬剤師が「併用薬が変更になった」との話を聞きました。薬剤師が確認したところ、血糖値の上昇を踏まえて、内科から糖尿病治療薬「トラゼンタ」を処方されたことが分かりました。オランザピンには「著しい血糖上昇」の副作用があり、糖尿病の患者には「禁忌」とされています。
薬剤師は、オランザピンを処方した心療内科の担当医に疑義照会を行ったところ、オランザピンからリスペリドン(糖尿病患者では慎重投与)に処方変更となりました(併せてオランザピン中止による低血糖症状への注意を説明)。
2つ目も、担当医が患者の既往歴を知らず、禁忌の薬剤が処方されそうになったケースです。
70歳代の女性に更年期障害や子宮頚管炎などの治療に用いるエストリール錠・エストリール膣錠が処方されました。薬局の患者情報から、当該患者には乳がんの既往歴があることが分かり、薬剤師から処方医に疑義照会を行ったところ、両剤とも削除になりました。
エストリール錠等は、乳がんを再発させる恐れがあるため、乳がんの既往歴がある患者に対しては、禁忌または慎重投与となっています。
当該薬局では、日ごろから薬剤服用歴の患者メモ欄に既往歴などを記載しており、今般、禁忌であることに気づくことができました。同薬局では、患者情報に優先順位をつけ、より分かりやすい(どの薬剤師が見ても分かりやすい)記録に改善するとしています。
3つ目は、最新情報をもとに禁忌薬の処方を防ぐことができたケースです。
患者が、整形外科で、疼痛緩和に用いるサインバルタを処方されました。しかし、当該患者はパーキンソン病を患っており、エフピーOD錠を服用していました。患者はかかりつけ薬局を決めていましたが、レセコンでは併用禁忌が出ず、交付直前に、薬剤師が最新情報から両剤が併用禁忌であることに気づき、疑義照会を経てサインバルタが削除されました。
一方で、今回、「冠動脈CTを行う」患者に対し、ピグアノイド系の糖尿病治療薬エクメット配合錠が処方されたものの、薬剤師が「ピグアノイド系の糖尿病治療薬と、ヨード増絵剤が併用注意」であることを把握しながら疑義照会を行わなかった(検査当日に放射線技師画気づき、検査が中止となった)という事例も報告されています。
薬剤師には、患者と十分にコミュニケーションをとり、▼患者の状態(既往歴や併用薬)▼薬剤の服用状況▼処方量▼剤形▼最新情報―などを踏まえて、薬剤の専門家として、必要な疑義照会を処方医に行うことが求められます。
2015年10月にまとめられた「患者のための薬局ビジョン」では、かかりつけ薬局が(1)服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導(2)24時間対応・在宅対応(3)かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—を持つべきとされ、今般の3ケースは、(1)と(3)の機能を適切に果たした好事例です(関連記事はこちら)。
また2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)を新設する▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的に支える基盤が徐々に整備されてきています。
点数算定のためには、さまざまな要件や基準をクリアしなければならず、疑義照会が直ちに経済的な評価につながるわけではありませんが、こうした取り組みの積み重ねが「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価充実に結びつくことは疑いようがありません。薬剤師と処方医との積極的に連携に、ますます期待が集まっていると言えるでしょう。
【関連記事】
薬剤師が患者の腎機能低下に気づき、処方医に薬剤の減量を提案した好事例―医療機能評価機構
薬剤師が「検査値から患者の状態を把握」し、重大な副作用発生を防止した好事例―医療機能評価機構
薬剤師も患者の状態を把握し、処方薬剤の妥当性などを判断せよ―医療機能評価機構
複数薬剤の処方日数を一括して変更する際には注意が必要―医療機能評価機構
2017年10-12月、医療事故での患者死亡は71件、療養上の世話で事故多し―医療機能評価機構
誤った人工関節を用いた手術事例が発生、チームでの相互確認を―医療機能評価機構
薬剤師も患者の状態を把握し、処方薬剤の妥当性などを判断せよ―医療機能評価機構
医療関係職種が連携し、高齢者への医薬品投与の適正化を検討・実施せよ―厚労省
医師と薬剤師が連携し、高齢者における薬剤の種類・量の適正化進めよ―高齢者医薬品適正使用検討会
具体的薬剤名を掲げ、高齢者への適正使用促すガイダンス案―高齢者医薬品適正使用ワーキング
血糖降下剤や降圧剤など、高齢者への適正使用ガイドライン作成へ—高齢者医薬品適正使用検討会
ベンゾチアゼピンなどで高齢者に有害事象も、多剤投与適正化の加速目指す—高齢者医薬品適正使用検討会