2017年10-12月、医療事故での患者死亡は71件、療養上の世話で事故多し―医療機能評価機構
2018.4.6.(金)
昨年(2017年)10-12月に報告された医療事故は983件、ヒヤリ・ハット事例は7250件となった。医療事故のうち7.2%・71件では患者が死亡しており、10.7%・105件では死亡こそしなかったものの、障害が残る可能性が高い—。
こういった状況が、日本医療機能評価機構が3月30日に公表した「医療事故情報収集等事業」の第52回報告書から明らかになりました(機構のサイトはこちら)(2017年7-9月の状況はこちら)。
また報告書では、(1)集中治療部門のシステム関連(2)腎機能が低下した患者への薬剤投与量(3)開放式のドレーン・チューブの体内への迷入―に関連する医療事故を詳細に分析しています。
目次
2017年10-12月、医療事故の7.2%、71件で患者が死亡
昨年(2017年)10-12月に報告された医療事故983件を、事故の程度別に見ると、「死亡」が71件(事故事例の7.2%)、「障害残存の可能性が高い」が105件(同10.7%)、「障害残存の可能性が低い」が263件(同26.8%)、「障害残存の可能性なし」が271件(同27.6%)などとなっています。「障害残存の可能性が高い」事故が、前3か月と比べて増加しており、重大な事故が増えている可能性が伺えます。
医療事故の概要を見ると、最も多いのは「療養上の世話」で420件(同42.7%)、次いで「治療・処置」248件(同25.2%)、「薬剤」80件(同8.1%)、「ドレーン・チューブ」74件(同7.5%)などと続いています。
幅広い場面でヒヤリ・ハット事例が発生、院内チェック体制の確認を
ヒヤリ・ハット事例に目を移すと、昨年(2017)年10-12月の報告件数は7250件でした。
概要を見ると、「薬剤」関連の事例が最も多く2656件(ヒヤリ・ハット事例全体の36.6%)、次いで「療養上の世話」1212件(同16.7%)、「ドレーン・チューブ」1070件(同14.8%)などとなっています。薬剤関連事例が減少し、他の場面でもヒヤリ・ハット事例が増加していることから、「より広範な分野」において院内のチェック体制を再確認(ダブルチェック、トリプルチェックなど)する必要性が高まっていると言えます。
ヒヤリ・ハット事例のうち4322件についての影響度を見ると、「軽微な処置・治療が必要、もしくは処置・治療が不要と考えられる」事例が96.0%とほとんどを占めていますが、「濃厚な処置・治療が必要と考えられる」ケースも3.3%・142件(前3か月に比べて0.7ポイント増加)、「死亡・重篤な状況に至ったと考えられる」も0.7%・30件(同0.2ポイント減少)あります。レアケースではありますが、一歩間違えば重大な影響の出る可能性がある事例が生じていることから、院内のチェック体制の重要性を再確認する必要性は全医療機関にあると言うべきでしょう。
ここで留意しなければならないのは、「個人が気を付ける」ことだけでは事故やヒヤリ・ハットの防止が困難という点です。医療従事者は多忙であり、「複数人でチェックする」「ミスに気付きやすい仕組みを考慮する」「定められたルールを確実に遵守する風土を作り上げる」など、医療機関全体で対策を講じることが重要です。
薬剤関連指示等の多いICU等、システムを使いやすくする工夫なども必要
報告書では毎回テーマを絞り、医療事故の再発防止に向けた詳細な分析も行っています。今回は、(1)集中治療部門のシステム関連(2)腎機能が低下した患者への薬剤投与量(3)開放式のドレーン・チューブの体内への迷入―の3テーマについて、詳細な分析が行われました。
まず(1)の「集中治療部門のシステム」に関連する医療事故事例は、2013年1月から昨年(2017年)12月までに16件報告されています。うち15件は「薬剤」に、1件は「輸血」に関連するものです。
また医療事故16件のうち4件は「重症系システムの操作・端末画面に関連」する事例で、12件は「基幹システムと重症系システムの連携」に関連事例でした。このうち前者4件は、すべて薬剤に関連するものです。ICUなどでは1日ごとに薬剤関連指示が出されることが多く、「前日の指示から当日の指示を転記する際に、一括で転記し、投与期間や投与量の選択を誤った」ケースなどが報告されています。
報告書では、▼重症系システムを使用する医師、看護師、薬剤師がどのようなシステムであるか理解する▼職種ごとに必要な情報を整理して画面上でその情報が見やすく表示されるような工夫をする▼オーダに関しては、基幹システムと重症系システムの初期設定値を統一させることは難しいが、薬剤マスタを可能な限り一致させる―などの対策をとってはどうかと提案しています。
医師の知識不足、薬剤師の確認不足などで腎機能低下患者に過剰な薬剤投与事例も発生
また(2)の「腎機能が低下した患者への薬剤投与量」に関連する医療事故事例は、2012年1月から昨年(2017年)12月までに10件報告されており、▼新規処方7件▼継続処方2件▼持参薬から院内採用薬への変更1件―、また▼外来6件▼入院中4件―という内訳です。
関連する薬剤としては、▼バルトレックス錠500(抗ウイルス化学療法剤):3件▼バラシクロビル錠500mg(同):1件▼リリカカプセル(疼痛治療剤):1件▼リリカ(同):1件▼シベノール錠100mg(不整脈治療剤):1件▼ピルシカイニド塩酸塩カプセル(同):1件▼エディロールカプセル0.75μg(骨粗鬆症治療剤):1件▼クラビット錠500mg(広範囲経口抗菌製剤):1件―となっています。
ここで、上記薬剤を投与した医師のうち7割は「患者の腎機能」を認識しており、また10例中8例では薬剤師から医師への疑義照会が行われていませんでした。腎機能が低下すれば、薬剤排泄が不十分となるため、適切な用量を処方する必要があります。また薬剤によっては、この点を明確にし、添付文書に記載されているものものあります。なぜ「腎機能低下を認識」しながら、適切な用量設定が行われなかったのでしょう。
この点、事例を詳しく分析すると、処方医において「薬剤に対する知識不足」、薬剤師において「検査結果や患者状態の確認不足」、システムにおいて「透析患者であることが確認できない」など、さまざまな問題があることが浮かび上がってきています。医師が「当該患者は腎機能が低下している」と把握していても、「薬剤の用量を変更する必要がある」と知らなければ通常用量でオーダを出してしまいます。オーダを受けた薬剤師は、患者の状態を確認しなければ「腎機能が低下しており、用量を調整する必要がある」と気づけず、医師への疑義照会が行われることもありません。
こうした点を「コミュニケーション不足」と一言で片づけてしまうことは簡単ですが、それでは根本的な解決は難しいでしょう。院内のシステム改善(薬剤師が患者状態を確認できるようにする)など、医療従事者がミスをしてもカバーできる体制を構築していく必要があるのではないでしょうか。
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