ベンゾチアゼピンなどで高齢者に有害事象も、多剤投与適正化の加速目指す—高齢者医薬品適正使用検討会
2017.4.18.(火)
加齢に伴い生理機能が低下するが、薬物吸収能は低下しないため、高齢者では医薬品に関連する有害事象が生じやすい。にもかかわらず高齢者では多剤が投与されるケースが多く、高齢者の薬物療法に関する安全対策などを構築する必要がある—。
厚生労働省は17日に「高齢者医薬品適正使用検討会」の初会合を開催し、こうした議論を開始しました。今夏に検討の方向性に関する中間とりまとめを行い、2018年度末(2019年3月)を目途に、医薬品の適正使用加速化に向けた最終取りまとめを行います。
目次
高齢者になると「薬の効きすぎ」生じるが、依然として多剤投与の実態
高齢になると▼細胞内水分の減少▼血清アルブミンの低下▼肝血流や肝細胞機能の低下▼腎血流の低下―といった生理機能の変化(主に低下)が生じる一方、薬物吸収能に大きな変化がないため、「薬剤の血中濃度が高くなりやすい」などの薬物動態・薬力学の変化が生じることが知られています。国内外の調査研究では、「医薬品の関連する有害事象」の出現頻度が、高齢者では若人の1.5-2倍程度になることが分かっています。簡単に言えば「医薬品の効きすぎ」が生じ、「降圧剤摂取による低血圧」「利尿剤摂取による脱水や電解質異常」「抗うつ剤摂取による便秘・口渇・排尿障害などの抗コリン作用」「精神神経用剤摂取による興奮・混乱・せん妄」などの有害事象が発生することが知られています。
翻って高齢者に対する医薬品の投与状況を見ると、▼60歳以上では、60歳未満に比べ平均して併用薬が1剤程度多い▼2疾病以上の慢性疾患を有する高齢者では平均約6剤が処方されている▼認知症高齢者では約6剤以上の処方が行われている▼複数の医療機関から計10種類を超えて投薬されるケースが3割弱存在する—といったように、「多剤投与」が依然として多いことが分かっています。
こうした「高齢者への多剤投与」を是正するために、米国では「Beers Criteria」、欧州では「STOPP Criteria」、我が国では「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」などが定められています。また昨今の診療報酬改定でも、多剤投与是正に向けて▼処方箋料の減算(3種類以上の抗不安薬を投与した場合など)▼薬剤総合評価調整加算・管理料(減薬を行った場合の評価)▼重複投薬・相互作用等防止加算―などが行われています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
厚労省医薬・生活衛生局の武田俊彦局長は、こうした「減薬への取り組み」を加速するための仕組み・方策を構築するために、本検討会を設置したものです。17日の会議冒頭で武田医薬・生活衛生局長は「高齢化が進展する中で、医薬品の適正使用は喫緊の課題である。具体的にどのような薬がどのように処方され、どのような問題が生じているかを把握し、どう対応していくのかを専門家の視点で議論してほしい。我が国は未曽有の高齢社会であるとともに、皆保険体制のよりほぼすべての医薬品にアクセスできる。このため、世界の先陣を切って多剤投薬是正に取り組む意義が大きい」とし、▼医薬品の相互作用・安全性・適正使用に関する情報提供▼臨床現場に向けた指針▼多職種連携―など幅広い視点での議論を要請しました。
今夏に検討方針に関する中間まとめ、2018年度末に安全性情報などの最終まとめ
検討会では、臨床現場における処方状況の実態や減薬に向けた取り組みの実態、さらに高齢者の薬物動態などを把握するために構成員や有識者(参考人)から意見を聴取し、今夏に「検討課題と検討の方向性」に関する中間とりまとめを行います。その後、2-3か月に1回程度のペースで▼特定の薬剤分野についての課題▼具体的な対策▼追加データ—などを検討し、2018年度末(2019年3月)を目途に最終とりまとめを行う予定です。
厚労省医薬・生活衛生局安全対策課の佐藤大作課長は、▼高齢者の薬物動態や、多剤服用の実態と副作用との関係などにおけるエビデンスの収集▼糖尿病・循環器(血栓・心疾患)・認知症・不眠など対策な必要な薬物(疾患)領域▼多職種に役立つガイドラインなど▼多様な現場の状況を踏まえた多剤複合的な安全性情報提供―などを論点として掲げました。さらに「高齢者に対する用法・用量の設定(小児では用法・用量が設定されているが、高齢者は成人と一括り)」(樋口恵子構成員:高齢社会をよくする女性の会理事長)、「さまざまな場面を想定した対策」(水上勝義構成員:日本精神神経学会)、「高齢者への情報提供の在り方(多剤投与が必要との不安を煽る情報が散乱している)」(北澤京子委員:京都薬科大学客員教授)など、幅広い議論を求める意見も出ています。
また多剤投与の結果として「残薬」が生じている実態もあります。「医薬品の適正使用」というミッションに照らせば、「残薬」対策も検討テーマに含まれる可能性があります。
なお検討会のゴールが「2018年度末」に設定されていることから、2018年度診療報酬改定に向けて特段の提言などが行われる可能性は低いでしょう(関連記事はこちら)。
ベンゾチアゼピン系やNSAIDs、高齢者への使用では特に注意を要する
17日の初会合では、多剤投与適正化に向けて、秋久雅弘座長(日本老年医学会理事、東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座教授)と平井みどり委員(神戸大学名誉教授)から意見陳述も行われています。
平井委員は、「6剤を投与され要介護5・認知症終末期と判断されていた高齢女性について、薬剤を1剤に整理したところ要介護1に改善した」実例などを紹介し、投与される薬剤が不必要に多い状態(いわゆるポリファーマシー)を適正化することの重要性・必要性を強調。また神戸大病院において、薬剤部が中心となって「ポリファーマシーの危険性」などを丁寧に説き、欧州の多剤投与適正化ツールである「STOPP Criteria」を用いて薬剤の変更・停止を実施していることを紹介しました。そこでは、STOPP Criteria に該当した薬剤(つまり高齢者に不適切な医薬品:PIMs)として▼非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)▼カルシウムチャネル拮抗薬▼ベンゾチアゼピン系薬▼βブロッカー—などがピックアップされ、PIMsの45%は処方変更や処方中止になったといいます。平井構成員はこうした研究結果などを踏まえ、▼ベンゾジアゼピン系の適正使用が望まれる▼H2 遮断薬・マグネシウム製剤の使用には注意が必要である—との提言を行いました。
もっとも、神戸大病院で減薬を行っても、退院後に元の処方内容に戻ってしまうケースもあり「多職種連携」「地域連携」が極めて重要であるとも平井構成員は訴えています。
連携に関連して池端幸彦構成員(日本慢性期医療協会副会長)や美原盤構成員(全日本病院協会副会長)は、「急性期入院の前の時点で多剤投与が生じている」と指摘、点ではなく面での多剤投与適正化対策の必要性を強調。また松本純一構成員(日本医師会常任理事)や山中崇構成員(日本在宅医学界理事)は「学生のうちから、多剤投与の危険性を学ぶ必要がある」と要請しています。
「高齢者向け用法・用法」設定にあたり、機能低下などの事項を検討
秋久座長は、医薬品の処方に当たっては、日本老年医学会が作成した、我が国の多剤投与適正化ツールである「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」について詳説。そこでは、例えば「認知機能低下のリスクがあり、特に慎重な投与を要する薬物」として▼抗精神病薬▼ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬▼パーキンソン病治療薬(抗コリン訳)▼H2受容体拮抗薬—などがリスト化されています。さらに、「リストに掲載された薬物を処方しているか」→「推奨される使用法の範囲内か」→「減量・中止は可能か」→「代替薬はあるか」といったフローチャートに沿って、当該薬物を継続するのか、別の医薬品に変更するのかなどを決定することができます。
さらに秋久座長は、前述した検討会のテーマとなる可能性のある「高齢者の用法用量」設定に向けて、▼向精神薬・抗コリン薬・抗血栓薬▼低体重・BMI低値▼腎機能低下▼肝機能低下▼認知機能低下▼認知機能低下・ADL低下▼多疾患併存、多剤併用▼年齢—などを検討する必要があると指摘しています。
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