血糖降下剤や降圧剤など、高齢者への適正使用ガイドライン作成へ—高齢者医薬品適正使用検討会
2017.7.14.(金)
高齢者への多剤投与に起因する有害事象の発生などを抑える観点から、▼経口血糖降下剤▼循環器用薬(高血圧治療剤、高脂血症治療剤、経口抗凝固剤、抗血小板剤)▼認知症治療剤▼睡眠導入剤・抗不安薬▼抗菌剤—などの薬効群を主な対象として、高齢者への適正使用ガイドラインを国レベルで作成していく必要がある—。
14日に開催された高齢者医薬品適正使用検討会(以下、検討会)では、こういった内容を盛り込んだ中間とりまとめ「高齢者の医薬品適正使用に関する検討課題と今後の進め方について」を概ねで了承しました(文言修正を8月初旬に公表予定)。今夏にもワーキンググループを立ち上げてガイドライン案作成に向けた検討を進め、2018年度末には正式決定する構えです。
目次
高齢者の医薬品適正使用に向けたガイドライン、2018年度末までに作成
高齢になると▼細胞内水分の減少▼血清アルブミンの低下▼肝血流や肝細胞機能の低下▼腎血流の低下―といった生理機能の低下が生じる一方、薬物吸収能力に大きな変化がないため、薬剤の血中濃度が高くなりやすいことが知られています。これは「医薬品の効き過ぎ」が生じることを意味しますが、一方で、高齢者には「多剤投与」が行われがちです。
このため、▼降圧剤摂取による低血圧▼利尿剤摂取による脱水や電解質異常▼抗うつ剤摂取による便秘・口渇・排尿障害などの抗コリン作用▼精神神経用剤摂取による興奮・混乱・せん妄―などの有害事象が少なからず発生しています。逆に、思い切った減薬によって有害事象が減り、健康状態が改善するとの報告もあります(関連記事はこちら)。
検討会では、第1回(4月17日開催)・第2回(6月23日開催)の会合で有識者から、こういった有害事象などに関する現状を聴取しており、今般、今後の目指すべき方向を中間とりまとめとして整理しました。そこでは、(1)ガイドラインの作成(2)多職種連携による情報管理と、医薬関係者の意識向上—の2点を進める方針を示しています(関連記事はこちら)。
まず(1)のガイドラインは、上記のような多剤投与による弊害を是正するために「高齢者に対する医薬品適正使用」情報(投与量の調整や副作用防止策など)を医師・薬剤師・看護師などの医薬関係者に提供するものです。
有識者から報告された「有害事象が発生しやすい領域・薬効群」である▼経口血糖降下剤▼循環器用薬(高血圧治療剤、高脂血症治療剤、経口抗凝固剤、抗血小板剤)▼認知症治療剤▼睡眠導入剤・抗不安薬▼抗菌剤—などを主な対象として、「急性期から在宅まで、各医療現場の特徴に応じた薬剤数調整/処方変更の考え方」「院内の病棟間における薬剤数調整の考え方(医師→医師、薬剤師→薬剤師)」「複数医療機関間・薬局での薬剤数調整の考え方」を整理していきます。薬剤投与の適正化には、ミクロ(各病棟)からマクロ(地域)までの幅広い視点で取り組むことが必要との考えが伺えます。
厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課の佐藤大作課長は、ガイドライン案を作成するために、検討会の下にワーキンググループ(高齢者医薬品適正使用ガイドライン作成ワーキンググループ)を設置する考えを示し、了承されました。今夏にも稼働する見込みです。
ワーキンググループでガイドライン案を作成し、これをベースに検討会で決定する(ガイドラインとなる)形となり、2018年度末にはガイドラインが決定します(第1版)。なお、別途▼高齢者における適切な用法・用量に関する薬学的エビデンス▼「内服薬の多剤服用」と「副作用の増加など」との関係を示すデータ▼内服薬の処方種類が増加しやすい患者・治療環境の事例—なども収集していき、これらに沿ってガイドラインは段階的に増補・改訂されることになります。
なお勝又浜子構成員(日本看護協会常任理事)は、「ガイドラインを参照し、遵守させる仕組みが重要ではないか」と指摘しています。確かに「絵に描いた餅」で終わらせないためにも、勝又構成員の指摘を踏まえた検討も求められるでしょう。
総合診療医が中心となり、多職種で高齢者の医薬品適正使用を進めるチーム構築を
後者(2)は、医療現場などにおける医薬品適正使用を「実践」するための方策に言及するものです。
この点、検討会では、1人の患者が「急性期→回復期→慢性期→在宅」などの病期を辿ることから、▼医療機関間▼医療機関・薬局間▼医師・医師間▼医師・他職種間▼薬剤師・薬剤師間—などで、それぞれ「患者の薬剤・服薬・疾病などの状況に関する基本情報」を管理・共有するシステムの構築が必要との考えを示しました。
管理・共有すべき基本情報としては、▼患者の状況(薬剤管理の方法、転倒・睡眠・体調などの状況も含む)▼処方情報・服薬アドヒアランス(患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けること)の状況▼「継続的な投薬が必要」と考えている医薬品、また「将来的な投薬中止も考えられる」医薬品に係る処方委の認識▼処方量の適切性の評価に資する診断情報(腎クリアランス値など)―が例示されています。この点、林昌弘構成員(日本病院薬剤師会常務理事)は、入院時における▼アレルギー▼副作用▼中止状況—などのヒストリー情報を、在宅医療など地域包括ケアの現場に伝達することの重要性を強調しています。
また情報共有の方向性としては、「急性期病院→診療所/在宅医療機関」だけではなく、「診療所/在宅医療機関→急性期病院」という具合に、「双方向」で行われることが必要と強調します。
さらに、院内・在宅現場で多職種による「高齢者薬物療法適正化チーム」を形成し、横断的・一元的な多剤投与対策を図ることが重要となります。この点について池端幸彦構成員(日本慢性期医療協会副会長)や秋下雅弘座長代理(日本老年医学会副理事長、東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座教授)、伴信太朗構成員(日本プライマリ・ケア連合学会理事)らは、「総合診療医がまとめ役となって、チームで高齢者の多剤投与適正化に向けた議論を進めていくことが望ましいのではないか」との見解を示しています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
2016年度の前回診療報酬改定では、6種類以上の多剤投与入院患者の内服薬を2種類以上減少させる取り組みを評価する「薬剤総合評価調整加算」が新設されており(関連記事はこちらとこちら)、佐藤医薬安全対策課長は「好事例の情報発信やモデル事業」なども検討していく考えを述べています。
多剤投与を進める第一歩として、医薬関係者・患者自身の意識向上が重要
ところで、多剤投与の適正化を進めるためには、その第一歩として医師・薬剤師・看護師ら医薬関係者が「高齢者の多剤投与」について問題意識を持ち、「適正化が必要である」との意識を向上させることが必要となり、検討会では「医学生の頃からの意識付け」が重要と訴えています。また在宅医療の現場では、訪問看護を行う看護師の観察や取り組みが重要となるため、「高齢者の薬物療法を理解する人材の育成・確保」にも力を入れるよう求めています。
また、医薬関係者がどれだけ適正使用を心がけても、患者側が「もっと薬がほしい」「薬をたくさん処方してくれる医師が良い医師だ」などと考えていたのでは、適正使用は思うように進みません。検討会では「患者に分かりやすい情報提供」に努めるよう、医薬関係者に求めています。この点、唯一の患者・国民代表として検討会に参加している樋口恵子構成員(高齢社会をよくする女性の会理事長)は「高齢者も医療機関を受診する際に、日本の医療が置かれている状況や、自身の健康状態についての認識を持つべき」と述べています。医薬関係者だけでなく、患者も含めた国民全体で「多剤投与の適正化」に取り組むことが必要でしょう。
なお、高齢化の進展で独居高齢者・老老介護世帯が増えていることから(関連記事はこちら)、在宅医療の現場も大きく変化しています(従前は同居家族が服薬管理をしてくれたが、判断力の衰えた自分でしなければならない)。樋口構成員は「在宅の高齢者が医薬品使用をどのように考えているのか、意見を聴いてほしい」と要望しており、佐藤医薬安全対策課長もこれに応えたい考えを示しています。
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