薬剤師は「薬剤添付文書の確認」「患者の服用歴確認」「医師への既往歴確認」などを―医療機能評価機構
2020.3.16.(月)
薬剤師が、「薬剤の添付文書の確認」「患者の服用歴の確認」「医師への既往歴の確認」などを行ったことで、医療事故の発生を防止できた―。
日本医療機能評価機構は3月12日に、保険薬局(調剤薬局)からこのようなヒヤリ・ハット事例が報告されたことを公表しました(機構のサイトはこちら)。
薬局等において「調剤の手順を定め、その遵守」の徹底を
医療機能評価機構では、医療安全の確保に向けて、患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例(「ヒヤリとした、ハッとした」事例)を薬局から収集する「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」を実施。その一環として、収集事例の中から医療安全確保に向けてとりわけ有益な情報を「共有すべき事例」として公表しています(最近の事例に関する記事はこちらとこちらとこちら)。3月12日には新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。
1つ目は、多忙なために薬剤師が調剤ルール遵守を怠ってしまった事例です。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)の気道閉塞性障害に基づく諸症状の緩解に用いる「スピオルトレスピマット60吸入」が患者に処方され、薬剤が交付されました。しかし、患者が「使用時に薬剤が噴霧されない」ことに気づき、薬局に来局。薬局では、レスピマット製剤を調剤する場合には「カートリッジをセットしてから患者に交付する」ルールがありましたが、非常に繁忙な時間帯であったことから、事例ではセットをし忘れていました。なお、目盛りがずれて残量が正確に表示されないため、新しい薬剤と交換しています。
レスピマット製剤などの吸入薬は、患者の操作手技やアドヒアランス(患者が納得して自分の意思で薬剤を服用等すること)によって治療効果が大きく左右されることから、「毎回、同じ状態で薬剤を提供する」必要があります。このため、薬局等においては「調剤の手順を定め、それを遵守する」ことが強く求められます。本事例について機構では、「カートリッジのセットの有無が見た目にもはっきりわかる形状であると、薬剤師・患者の双方が確認しやすい」とメーカーへのアドバイスも行っています。
2つ目は、薬剤処方に当たり必要な研修を処方医が受けていないことに薬剤師が気づき、処方削除になった事例です。
咳がひどいため内科を受診した患者に対し、咳止めに用いる「フスコデ配合シロップ」が処方されました。その際、薬局で「患者が緑内障である」との情報を得ましたが、詳細が不明なため、かかりつけの眼科医に問い合わせ。その結果、「閉塞隅角緑内障」であることが判明し、内科の処方医に患者情報を伝えたところ、フスコデ配合シロップが削除となりました。
フスコデ配合シロップについては、添付文書で「開放隅角緑内障の患者は、抗コリン作用により眼圧が上昇し,症状を悪化させることがあることから、慎重投与する」旨が記載されています。薬局薬剤師が、この添付文書情報を確認するとともに、患者とのコミュニケーションをベースに「眼科医に確認する」という重要アクションをとることで、医療事故につながる可能性を排除できた好事例と言えます。
3つ目も、薬剤師が添付文章情報・患者に服用歴を確認して、医療事故の発生を未然に防いだ事例です。
定期薬として、▼気管支喘息▼慢性気管支炎▼肺気腫―の治療薬「テオフィリン徐放U錠200㎎」を2錠分、朝夕食後に服用している患者に対し、新たに、ニコチン依存症の喫煙者に対する禁煙補助剤である「チャンピックス錠」が処方されました。ところで、「テオフィリン徐放U錠」の添付文書には、【相互作用】の項に「禁煙(禁煙補助剤であるニコチン製剤使用時を含む)によりテオフィリンの中毒症状が現れる」ことがある旨の記載があります。そこで薬剤師は処方医に「テオフィリン徐放U錠を2錠服用継続したまま禁煙することにで、テオフィリンの血中濃度が上昇する可能性がある。減量する必要性はないのか」と確認したところ、テオフィリン徐放U錠が減量となりました。
本件も、薬局薬剤師が添付文書情報を確認するとともに、患者とのコミュニケーションをベースに「処方医に確認する」というアクションをとることで、医療事故につながる可能性を排除できた好事例です。機構では、▼併用薬との相互作用だけではなく、禁煙によって起こる生理的変化も考慮し、患者がタバコと相互作用のある薬剤を服用しているかを確認する必要がある▼タバコと相互作用がある薬剤が処方された患者には、喫煙の有無を確認するとともに、喫煙・禁煙による影響を説明する必要がある―旨をアドバイスしています。
2015年10月にまとめられた「患者のための薬局ビジョン」は、かかりつけ薬局・薬剤師が、(1)服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導(2)24時間対応・在宅対応(3)かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—を持つべきと提言。また2018年度の前回調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤の整備も行い、2020年度の今回改定でその充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)が図られています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
「疑義照会=点数算定」という単純構図ではありませんが(要件・基準をクリアする必要がある)、事例2・事例3のような薬剤師の取り組みの積み重ねによって「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)がさらに高まり、それが報酬引き上げ等に結びついていきます。「薬剤の専門家」という立場をいかんなく発揮し、積極的な疑義照会・処方変更提案が行われることが期待されます。
【関連記事】
骨粗鬆症治療、外来での注射薬情報なども「お薬手帳」への一元化・集約化を―医療機能評価機構
薬剤師が患者の服用状況、添付文書内容を把握し、医療事故を防止した好事例―医療機能評価機構
薬剤師が患者とコミュニケーションをとり、薬剤の専門的知識を発揮して医療事故を防止した好事例―医療機能評価機構
薬剤師が「患者の処方歴やアレルギー情報」を十分に把握し、医療事故を防止できた好事例―医療機能評価機構
薬剤師が「薬剤の用法用量や特性に関する知見」を活用し、医療事故を防止した好事例―医療機能評価機構
薬剤師が患者とコミュニケーションとり、既往歴や入院予定を把握して医療事故防止―医療機能評価機構
薬剤師が薬剤の添加物を把握し、患者とコミュニケーションをとってアレルギー発現を防止―医療機能評価機構
薬剤の専門家である薬剤師、患者の検査値・添付文書など踏まえ積極的な疑義照会を―医療機能評価機構
高齢患者がPTPシートのまま薬剤を服用した事例が発生、服用歴から「一包化」等の必要性確認を―医療機能評価機構
薬剤師の疑義照会により、薬剤の過量投与、類似薬の重複投与を回避できた好事例―医療機能評価機構
薬剤師が多職種と連携し、薬剤の過少・過量投与を回避できた好事例―医療機能評価機構
薬剤師が患者の訴え放置せず、メーカーや主治医に連絡し不整脈など発見できた好事例―医療機能評価機構
薬剤師が併用禁忌情報等に気づき、処方医に疑義照会した好事例―医療機能評価機構
薬剤師が患者の腎機能低下に気づき、処方医に薬剤の減量を提案した好事例―医療機能評価機構
薬剤師が「検査値から患者の状態を把握」し、重大な副作用発生を防止した好事例―医療機能評価機構
薬剤師も患者の状態を把握し、処方薬剤の妥当性などを判断せよ―医療機能評価機構
複数薬剤の処方日数を一括して変更する際には注意が必要―医療機能評価機構
どの医療機関を受診しても、かかりつけ薬局で調剤する体制を整備―厚労省「患者のための薬局ビジョン」
外来や在宅、慢性期性期入院医療など療養環境の特性踏まえ、高齢者への医薬品適正使用を―厚労省
外来・在宅、慢性期医療、介護保険施設の各特性に応じた「高齢者の医薬品適正性」確保を―高齢者医薬品適正使用検討会
医師と薬剤師が連携し、高齢者における薬剤の種類・量の適正化進めよ―高齢者医薬品適正使用検討会