薬剤師が患者とコミュニケーションをとり、薬剤の専門的知識を発揮して医療事故を防止した好事例―医療機能評価機構
2020.1.7.(火)
薬剤師が、患者と十分にコミュニケーションをとり、また薬剤に関する情報を的確に把握していたため、「不適切な処方」であることを見抜き、医療事故の発生を未然に防いだ―。
日本医療機能評価機構は12月25日に、保険薬局(調剤薬局)からこのようなヒヤリ・ハット事例が報告されたことを公表しました(機構のサイトはこちら)。
添付文書の「使用上の注意」や「副作用」に関する情報も確認を
医療機能評価機構は、医療安全確保に向けて、患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例(「ヒヤリとした、ハッとした」事例)を薬局から収集する「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」を実施。収集事例の中から医療安全確保に向けてとりわけ有益な情報を「共有すべき事例」として公表しており(最近の事例に関する記事はこちらとこちらとこちら)、12月25日には新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。
1つ目は、薬剤の専門的知識と患者とのコミュニケーションにより、適切な薬剤処方への変更が可能となった好事例です。
痛風と診断された患者に対し、「痛み止め」の痛風治療薬「フェブリク錠20㎎」が処方されました。患者から「痛風治療薬処方は初めてである」こと「処方医から2剤を同時に服用開始するように指示された」ことを聴取した薬剤師は、「フェブリク錠の『使用上の注意』に『治療初期には、血中尿酸値の急激な低下により痛風関節炎(痛風発作)が誘発されることがあり、10㎎1日1回から開始し、2週間以降に20㎎1日1回とするなど、徐々に増量する』旨が記載されている」点につい処方医に疑義照会。結果、フェブリク錠は20㎎から10㎎へ変更となり、痛みが治まってから服用を開始することになりました。
処方通り服用していれば発作が悪化した可能性もあり、薬剤師の、患者とのコミュニケーションおよび薬剤に関する専門的知識から、増悪が抑えられた好事例と言えるでしょう。
機構では「安全で有効な薬物療法を提供するためには『用法・用量』だけではなく『使用上の注意』についても十分把握し、理解したうえで、患者への聞き取りを行い、その情報に基づいた処方監査を行うことが重要」とコメントしています。
2つ目も1つ目と同じく、薬剤師の疑義照会によって副作用発症が未然に抑えられた事例です。
患者には、高血圧症治療薬の「スピロノラクトン錠25㎎『CH』」が継続して処方されており、今回も7日分が処方されていました。薬剤師が患者に血液検査の結果を確認したところ、今回の血清カリウム値は5.6mEq/Lで、前回(4.2mEq/L)よりも上昇していることがわかりました。同剤の添付文書には、【重大な副作用】として「高カリウム血症等の電解質異常」が記載されていたことから、薬剤師が処方医に疑義照会。結果、同剤の処方は削除されました。
このケースも、1つ目と同じく、薬剤師が患者とのコミュニケーションおよび薬剤に関する専門的知識から、症状悪化を抑えた好事例です。機構では、▼処方薬の副作用や検査値異常について把握したうえで、患者から「副作用の初期症状の有無」「検査値」などの情報を収集し、処方監査を行うことが重要▼患者に関する情報は薬剤服用歴などにその都度記録し、継続的に管理することが望ましい―とアドバイスしています。
3つ目は、薬剤師の役割を考えるうえで重要な事例です。
来局者からの「頭痛があり一般用の鎮痛剤『ロキソニンSプレミアム』とガーゼを購入したい」と申し出を受け、販売しました。薬剤師がガーゼの使用目的を確認すると「市販の鎮痛薬を服用後に腋下が赤くなり、水疱ができて皮膚がめくれてしまった」とのことでした。服用した市販の鎮痛薬は2種類あり、両者に「アリルイソプロピルアセチル尿素」が共通成分として含まれていました。ロキソニンSプレミアムにも同成分が含まれていたため、これを含まない「ロキソニンS」への変更を患者に提案。さらに、過去にロキソニンSを服用した際には異常がなかったことも確認して販売しました。2日後に患者から「皮膚症状改善」の報告を受けています。
機構では、▼一般用医薬品はいくつかの成分を配合した製剤が多く販売されているため、副作用の原因となる成分特定が難しい場合がある▼薬剤の服用により生じる薬疹には、生命予後を脅かす重症薬疹も含まれ、症状や経緯などを聴取して皮膚科専門医受診を勧めるべきか判断することは、薬剤師に求められる重要な役割の一つである▼要指導医薬品や一般用医薬品の副作用歴を確認することはもちろんであるが、同成分や同効薬を含む他の一般用医薬品や医療用医薬品の副作用歴についても確認することが重要―とアドバイスしています。
2015年10月にまとめられた「患者のための薬局ビジョン」は、かかりつけ薬局・薬剤師に対し、(1)服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導(2)24時間対応・在宅対応(3)かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—を持つべきと提言しています。
さらに2018年度の前回調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤の整備も行っています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
「疑義照会=点数算定」という単純な構図ではありません(要件・基準をクリアする必要がある)が、事例のような薬剤師の取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)がさらに高まり、それが報酬引き上げに結びついていきます。「薬剤の専門家」という立場をいかんなく発揮し、積極的な疑義照会・処方変更提案が行われることが期待されます。
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