薬剤師の疑義照会により、薬剤の過量投与、類似薬の重複投与を回避できた好事例―医療機能評価機構
2019.4.9.(火)
薬剤師が患者のもとを訪問した際、お薬カレンダーに「同じ治療目的の内服薬」が複数投与されていることに気付き、さらに家族への確認で「同じ治療目的の注射薬」も投与されたことが判明し、かかりつけ医と相談のうえ、薬剤の整理(中止)を行うことができた―。
日本医療機能評価機構は3月29日に、保険薬局(調剤薬局)からこのようなヒヤリ・ハット事例が報告されたことを公表しました。今回も、薬剤師からの積極的な疑義照会が、処方内容の変更に結びついた重要事例です(機構のサイトはこちら)。
散剤の誤りは鑑査では気付きにくい、調剤手順の遵守徹底を
日本医療機能評価機構は、患者の健康被害などにつながる恐れのある「ヒヤリとした、ハッとした」事例(ヒヤリ・ハット事例)を薬局から収集する「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」も実施しています。あわせて、収集事例の中から医療安全対策に有用な情報を「共有すべき事例」として公表しています(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。3月29日には3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。
1つ目は、異なる薬剤を調剤してしまった事例です。
患者Aに気管支喘息等の症状緩和に用いる「メプチンドライシロップ」が処方されました。しかし薬剤師が監査したところ、「調整された薬剤の色調がメプチンドライシロップと異なる」ことに気付き、確認したところ、別の患者Bに処方された「カルボシステインDS」(気管支喘息等における去痰などに用いる)であることが分かりました。繁忙な時間帯で調整された薬剤の十番が入れ替わって鑑査にまわっていたこと、「メプチンドライシロップ」「カルボシステインDS」ともに白い散剤であったことから、患者Bに処方された薬剤が異なっていたことを見逃してしまったようです。患者Bにはすでに薬剤を交付されていましたが、連絡を取り薬剤を交換することができました。
機構では、本事例について「散剤を秤量するところまでは正しく行われたが、分包から鑑査にまわる工程のどこかで他の患者に調製された薬剤と入れ替わった」と推測。特に散剤では、鑑査での誤りを発見することが困難であることから、▼調製者による一貫した作業と確認を行う▼散在の鑑査手順(例えば、調製者は散剤鑑査システムで印字された秤量記録紙を処方箋と分包された薬剤に添付し、鑑査者はその秤量記録紙に印字された薬剤名および秤取量と処方内容を照合する、など)を常に遵守する―ことの徹底が重要と強調しています。
2つ目は、薬剤師の疑義照会により、適正な用法・用量が確保されたケースです。
50歳代の女性患者に、パーキンソン病や乳汁漏出症、下垂体線腫等の治療に用いる「カバサール錠」が処方されました。処方箋には「1.0mg・1錠、就寝前、49日分」とありましたが、当該患者は下垂体腺腫に罹患しており、当該疾病の用法用量は添付文書では「連日服用ではなく、1週間に1回の服用」とされています。薬剤師が処方医に疑義照会を行ったところ、「週に1回、7日分」へ処方内容が変更されました。
本事例では、他に処方された薬剤が49日分であったため、「カバサール錠」も49日分で処方されてしまいました。
休薬期間が設定されている薬剤(カバサール錠のほか、メトトレキサート製剤や抗がん剤、高用量のビスホスホネート製剤など)を誤って連日服用すれば、過量服用で重大な副作用が生じる恐れがあることから、機構では「休薬期間が設定されている薬剤が処方された際は、患者に病名を確認し、処方内容と照合することが必須である」と薬剤師に提言しています。
3つ目は、薬剤師の疑義照会により、同じ治療目的の複数の薬剤投与を整理できた事例です。
薬局の薬剤師が、往診で処方された薬剤を90歳代の患者に届けるために施設を訪問しました。その際、当該患者が、骨粗鬆症治療薬の「リカルボン錠50mg」を月に1回服用しているものの、お薬カレンダーに低カルシウム血症の治療・予防に用いる「デノタスチュアブル配合錠」が入っていることに気付きました。両剤は併用禁忌ではありませんが、併用が必要なのか検討することが必要です。家族に確認したところ、整形外科を受診した際、骨粗鬆症治療のためプラリア皮下注60mgシリンジ(一般名:デノスマブ(遺伝子組換え))が投与されたことも分かりました。薬剤師が往診している主治医に相談し、以前から服用していた「リカルボン錠50mg」を中止することになりました。
骨粗鬆症の治療は、内科や整形外科などさまざまな診療科で行われるため、治療薬が重複する可能性があります。機構では「外来で投与された『注射薬』についてもお薬手帳に記録され、患者に投与された注射薬なども含めた全ての薬剤を一元的に管理できるような取り組みが必要」と強調しています。
2015年10月にまとめられた「患者のための薬局ビジョン」では、かかりつけ薬局が(1)服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導(2)24時間対応・在宅対応(3)かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—を持つべきと提言されています(関連記事はこちら)。
また2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)を新設する▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的に支える基盤が整備されてきています。
「疑義照会イコール点数算定」という構図ではありません(要件・基準をクリアする必要がある)が、こうした取り組みの積み重ねによって、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価が高まり、それが報酬の引き上げなどに結びつくと考えられます。
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