薬剤師が患者の訴え放置せず、メーカーや主治医に連絡し不整脈など発見できた好事例―医療機能評価機構
2019.1.8.(火)
「購入した血圧計に不具合がある」との患者の訴えを薬剤師が真摯に受け止め、薬局スタッフでの確認、機器メーカーへの問い合わせ、主治医・患者への連絡を行った結果、患者に「高血圧や不整脈の可能性がある」ことが判明した―。
日本医療機能評価機構は12月26日に、保険薬局(調剤薬局)からこのようなヒヤリ・ハット事例が報告されたことを公表しました。薬剤師からの積極的な疑義照会が、処方内容の変更に結びついた事例などが取り上げられています(機構のサイトはこちら)。
患者の疑問を放置せず、薬剤師から主治医等へ積極的な疑義照会を
日本医療機能評価機構は、患者の健康被害などにつながる恐れのある「ヒヤリとした、ハッとした」事例(ヒヤリ・ハット事例)を薬局から収集する「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」を実施しています。あわせて、収集事例の中から、医療安全対策に有用な情報を「共有すべき事例」として公表しています(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。12月26日には5つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。
1つ目は、薬剤の予製ボトルに他の薬剤が混入してしまい、複数の患者に影響が及んだ可能性のある事例です。
ある薬局では、経口抗凝固剤の「ワーファリン錠1mg」の半錠を一包化調剤するに当たり、「予め半錠に分割した錠剤をボトルに保管(予製剤)し、そこから使用する」というルールを設けていました。しかし一包化調剤した薬剤を鑑査した折に、別の薬剤(うっ血性心不全治療に用いる劇薬の「メチルジゴキシン錠」)が混入していることが分かり、調査の結果、予製ボトルに別の薬剤が混入していました。複数名の患者に別の薬剤が調剤された可能性があります。混入の原因としては、「払い出されなった薬剤を予製ボトルに戻す際に確認が不十分であった」ことが考えられます。
機構では、▼バラ錠や半錠に分割した薬剤は、PTPシートの薬剤に比べ鑑別しにくく、取り扱いには細心の注意が必要である▼予製剤の必要性を十分に考慮する必要がある▼ハイリスク薬を半錠に分割するような予製剤を行う場合は、充填時や薬剤を戻す時に取り違えの危険性があることを十分に認識し、作業時は複数人で確認することが望ましい―と指摘しています。
2つ目は、薬剤師がお薬手帳から「異なる医療機関で同じ効能効果を持つ薬剤が処方されている」ことに気付き、疑義照会の結果、一方が中止されたケースです。
A薬局では、胃潰瘍等の治療薬「ランソプラゾールOD錠」を継続して調剤している患者のお薬手帳に、B薬局からの、やはり胃潰瘍等の治療薬「ラフチジン錠」の調剤記録があることに気付きました。A薬局からB薬局に問い合わせたところ、「お薬手帳の提示がなく、併用薬が確認できなかった」ことが判明。自薬局での服用薬を伝え、「ラフチジン錠が継続して処方される場合には、処方医に疑義照会して中止してもらう」よう依頼しています。
機構では、複数の医療機関を受診している患者は、それぞれで異なる薬局を利用している場合があり、お薬手帳が十分に機能せずとも「薬局間の連携で患者を守れる」好事例である旨をコメントしています。
3つ目は、注射薬について「患者が正しく使用できていない」ことに薬局薬剤師が気付いた事例です。
ある薬局では、骨粗鬆症治療薬の「フォルテオ皮下注キット」を初めて処方する患者がいましたが、「病院で習ったので大丈夫」とのことであったため、使用法(手技)の詳しい説明をしませんでした。数日後、「注射液が出ない」との患者からの訴えがあり、「使い切るには早すぎる」と思い、確認したところ、誤った使い方をしていることが分かりました。
機構では、▼注射薬や吸入薬等では、患者が正しく使用できることが処方の前提となる▼患者が器具の間違った使い方を覚えてしまうと、それ以降は修正が難しい―ことを指摘した上で、「初回に限らず、また患者が『分かっている』と言っても、正しく使用できているか、使用方法を時々再確認することが必要」と提案しています。
4つ目は、長期間の薬剤投与について薬局薬剤師が処方医に疑義照会し、中止されたケースです。
ある薬局で、末梢性神経障害やビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血の治療に用いる「メチコバール錠」が処方されていましたが、薬剤師が「ビタミンB群製剤は長期にわたり漫然と使用すべきではないのではないか」と考え、処方医に疑義照会を行ったところ、当該薬剤が削除されました。
機構では、「特に高齢者で、必要性が乏しいにもかかわらず、漫然と同一処方が繰り返されるケースもある」とし、本事例のように薬剤師から積極的な処方提案を行うよう求めています。もっとも、併せて、処方変更後の患者の体調変化などに留意することが求められます。
5つ目は、薬局薬剤師が、患者に高血圧・不整脈の可能性があることに気付き、医療機関の受診勧奨を行った事例です。
ある薬局で、高血圧症治療薬の「イルベサルタン錠」と「アゼルニジピン錠」を調剤している患者に、併せて血圧計を販売しました。患者から「血圧計に不具合がある」との訴えがあり、薬局で確認したところ問題は見つかりませんでした。薬局薬剤師は血圧計の販売メーカーに問い合わせたところ「不整脈や徐脈がある場合に、訴えのような動作が生じることがありうる」との返答がありました。患者と主治医にその旨を伝え、患者は再受診し、高血圧症治療薬「ドキサゾシン錠」が追加され、不整脈についても経過観察することになりました。
機構では、「患者の疑問を放置せず、スタッフでのテスト、メーカーへの問い合せ、主治医への連絡など、患者本位の行動ができている」と当該薬局の取り組みを高く評価。さらに薬剤師に対し、「薬剤だけでなく、医療機器に関する知識も習得する」よう提案しています。
今回も、薬剤師の積極的な疑義照会によって患者の健康・生命が守られた事例が散見されます。2015年10月にまとめられた「患者のための薬局ビジョン」では、かかりつけ薬局が(1)服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導(2)24時間対応・在宅対応(3)かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—を持つべきとされ、その好事例と言えるでしょう(関連記事はこちら)。
なお、2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)を新設する▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的に支える基盤が整備されてきています。
もちろん、これらの点数を算定するためには、各種の要件・基準が設定されており、「疑義照会を行えば報酬が算定できる」わけではありません。ただし、こうした取り組みの積み重ねにより、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価が高まり、それが報酬の引き上げなどに結びつきます。
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