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総投与量上限を超えた抗がん剤投与で、心筋障害が生じた事例が発生―医療機能評価機構

2018.7.17.(火)

 総投与量上限を超えた量の抗がん剤を患者に投与してしまい、心筋障害などの害が患者に発生してしまった―。

 こうした事例が、2014年1月から2018年5月までに2件報告されていることが、日本医療機能評価機構の調べで明らかになりました(機構のサイトはこちら)。各医療機関において確実に「抗がん剤の累積投与量」を把握・記録し、院内はもちろん連携医療機関等と情報共有する体制が整っているか、再確認する必要があります。

抗がん剤の中には、心筋障害リスク避けるため「生涯の投与量」が決まっているものも

 日本医療機能評価機構は、全国の医療機関(国立病院や特定機能病院等は義務づけ)から医療事故やヒヤリ・ハット事例(事故に至る前に気づいたものの、ヒヤリとした、ハッとした事例)を収集。その内容や背景を分析して、事故等の再発防止に向けた提言等を行っています(医療事故情報収集等事業、関連記事はこちらこちらこちら)。また事故事例などの中から、毎月、とくに注意すべき事例等をピックアップし、「医療安全情報」として公表しています(最近の情報はこちらこちらこちら)。7月17日に公表された「No.140」では「腫瘍用薬の総投与量の上限を超えた投与」がテーマとなりました。

 腫瘍用薬(抗がん剤)の中には、長期間の投与により心筋障害や心毒性が伴うものがあります。このため、「当該患者に対して、障害にわたって投与できる上限(総投与量上限)」が定められていることがあります。

抗がん剤の中には、「生涯にわたっての投与量上限」が定められているものもある。上限を超えた投与の結果、心筋障害が発生してしまった事例が実際に報告されている

抗がん剤の中には、「生涯にわたっての投与量上限」が定められているものもある。上限を超えた投与の結果、心筋障害が発生してしまった事例が実際に報告されている

 
ある病院では、2年前に子宮体がんの再発でAP療法(▼ドキソルビシン(アドリアマイシン)▼シスプラチン―という異なる作用を持つ2種類の抗がん剤を組み合わせた治療法)を6コース実施した患者に対し、1年前にがんが再発したため、腫瘍摘出術後にAP療法を3コース実施しました。この時点で、ドキソルビシンの累積投与量は470mg/平米(体表面積)でした。医師はドキソルビシンの総投与量上限が500mg/平米(体表面積)であると知っていました。しかし、患者に対する抗がん剤投与量の正確な記録がなく、さらにAP療法を6コース実施してしまいました。その後、患者は心筋障害を発症し、ドキソルビシンの累積投与量を調べたところ、上限を超える620mg/平米(体表面積)に達していました。

症候が現れてからは心筋障害からの回復は困難とされており、事前に抗がん剤の投与量を適切かつ確実に把握し、こうした事態を避ける必要があります。

機構では、事態を重くみて「腫瘍用薬(抗がん剤)の累積投与量を把握する仕組みを医療機関内で検討する」よう提言。例えば、▼他院からの紹介状や患者からの情報などで過去の治療歴を確認し、投与量を記録する▼医師が処方する際に添付文書の総投与量上限を超えるとアラート(警報)が出るように電子カルテなどのシステムを改善する▼薬剤師が、レジメンのチェックリストに総投与量を記載し、確認する―ことなどが考えられそうです。

がん治療の高度化により、患者の予後が向上し、抗がん剤治療を2度、3度と受ける患者が増加しています。また、地域医療連携の進展や、がん診療連携拠点病院等の拡大が進む中では、複数の医療機関で連携してがん治療を行うケースも増えてきています。こうした中では、事例のような総投与量上限を超えた抗がん剤投与のリスクも高まっています。抗がん剤治療を計画する際には、当該患者について「これまでに、どれだけの量の抗がん剤を投与しているのか」を適切かつ確実に把握し、その情報を関係者で確実に共有することが不可欠と言えます。
 
 
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