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診療報酬改定セミナー2024 新制度シミュレーションリリース

薬剤の専門家である薬剤師、患者の検査値・添付文書など踏まえ積極的な疑義照会を―医療機能評価機構

2019.6.19.(水)

 患者の検査値、添付文書を踏まえ、薬剤師から医師に疑義照会を行い、適切な医薬品投与が可能となった―。

 日本医療機能評価機構は6月17日に、保険薬局(調剤薬局)からこのようなヒヤリ・ハット事例が報告されたことを公表しました(機構のサイトはこちら)。

薬剤服用歴だけでなく、残薬の有無なども確認し、十分な情報提供を

 日本医療機能評価機構は、医療安全確保の一環として、患者の健康被害などにつながる恐れのあった「ヒヤリとした、ハッとした」事例(ヒヤリ・ハット事例)を薬局から収集する「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」を実施しています。さらに収集事例の中から医療安全対策に有益な情報を「共有すべき事例」として公表しています(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。6月17日には3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。
 
 1つ目は、患者が残薬確認などをせず、同じ薬効を持つ薬剤が併用されてしまった事例です。

 気管支のβ2受容体を刺激し気管支を拡張させることで喘息などによる咳や息苦しさなどを改善する「ホクナリンテープ」(一般名:ツロブテロール)を以前使用していた患者に対し、同じくβ2受容体刺激作用によって気道の炎症を抑え長時間にわたり気管支を拡げることで喘息の発作や症状が出にくい状態を維持する「アドエア50エアゾール120吸入用」(一般名:サルメテロールキシナホ酸塩、フルチカゾンプロピオン酸エステル)が処方されました。薬剤師は、以前のホクナリンテープの残りを確認せずにアドエア50エアゾール120吸入用を交付しましたが、その後に、患者が「調子が悪くなると手元に残っていたホクナリンテープを併用していた」ことが分かったといいます。

 同じ薬効を持つ薬剤と併用する場合、医師・薬剤師が十分に管理しなければ、「過剰な投与」「効きすぎ」が生じ、健康被害につながる可能性もあります。機構では、▼患者の薬剤服用歴を確認する▼薬剤の服用期間を通じて服薬アドヒアランス(薬物治療への患者自身の積極的な参加)や有効性を確認し、有害事象の発現の有無などを把握する―ことが重要と指摘しています。この事例でも、薬剤師が患者に「残薬がないか」を確認し、また「残薬を併用すれば健康被害が生じかねない」と情報提供することで、回避できた可能性があります。

 
 
 2つ目は、薬剤師が患者の検査値、添付文書を踏まえて医師に疑義照会し、適正な処方が実現できた好事例です。

 ある患者に対し、血栓塞栓症の治療・予防薬である「ワーファリン錠1mg」(一般名:ワルファリンカリウム)・4錠が中止となり、代わりに静脈血栓塞栓症の治療・再発抑制などに用いる「リクシアナOD錠60mg」(一般名:エドキサバントシル酸塩水和物)・1錠が処方されました。リクシアナOD錠の添付文書には「ワルファリンから本剤に切り替える場合は、ワルファリンの投与を中止した後、PT-INRなどの血液凝固能検査を実施し、治療域の下限以下になったことを確認した後、可及的速やかに本剤の投与を開始する」ことが記載されていましたが、休薬期間が設けられていなかったため、薬剤師が医師に疑義照会。その結果、処方が削除され、7日後に再検討することになりました。PT-INRは当初の「3.88」から7日後に「0.98」に低下したことが確認され、ここでリクシアナOD錠60mgが投与開始となりました。

これは、まさに薬剤の専門家である薬剤師が、▼添付文書▼患者の状態(検査値)―を踏まえて、疑義照会を行った好事例と言えます。医師に「添付文書の隅々まで確認して処方せよ」と求めることが難しいケースも少なくありません。医師と薬剤師とで役割分担をする一方で、薬剤師側が「患者に検査値等を確認する」などの相互支援し、他職種がカバーしあうことでミスを防止できるという「お手本」事例と言えるでしょう。

 
 
 3つ目は、患者側の状況を薬剤師が受け止め、医師に疑義照会を行った事例です。

 ある患者は、施設に入居し、てんかんや片頭痛、躁うつ病などの治療に用いる「デパケンR錠200mg」(一般名:バルプロ酸ナトリウム)を服用していました。しかし施設職員から、「当該患者は錠剤を口に入れても吐き出してしまうため、これまで粉砕して飲ませてきた。しかし我々にはつぶしにくいので、薬局で粉砕してもらえないか」との依頼がありました。薬剤師が処方医にその旨を連絡した結果、効能や主成分が同じで、既に細かい粒となっている「セレニカR顆粒40%」(一般名:バルプロ酸ナトリウム)に処方変更となりました。

 薬剤師が、患者側の状況を十分に把握し、医師に疑義照会した好事例と言えるでしょう。患者サイドは、どうしても医師に「自分の思い」などを伝えきれない(「このようなことを聞いたり、お願いしたりしてよいのか」と躊躇してしまう)ことがあります。こうしたことを見越し、薬剤師等には、患者の思いを受け止め(ときには積極的に聞き出す)、さらに医師に伝えるという役割を果たすことも極めて重要です。

 なお、機構では「錠剤を粉砕する場合は、製剤の特性を考慮したうえで可否を判断する必要がある。有効かつ安全な薬物治療のためにも、安易な粉砕は避けなければならない」と述べており、医療安全の面でも薬剤師が患者側の状況を十分に聞き出すことが求められます。

 
 
 2015年10月にまとめられた「患者のための薬局ビジョン」では、かかりつけ薬局が(1)服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導(2)24時間対応・在宅対応(3)かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—を持つべきと提言されています(関連記事はこちら)。

かかりつけ薬局には、(1)服薬情報の一元的・継続的管理(2)24時間対応・在宅対応(3)医療機関などとの連携―という3つの機能が求められる

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薬局には、医療機関や看護施設などと連携し、患者の健康を総合的にサポートする機能も期待されている

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がん患者やHIV患者に対応するために、高度かつ専門的な知識・技術を持つ薬剤師の配置が求められるケースもある

がん患者やHIV患者に対応するために、高度かつ専門的な知識・技術を持つ薬剤師の配置が求められるケースもある

 
また2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)を新設する▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的に支援する基盤が整備されてきています(関連記事はこちらこちらこちら)。
 
 「疑義照会イコール点数算定」という単純な構図ではありませんが(要件・基準をクリアする必要がある)、事例のような薬剤師の取り組みが積み重ねられることによって、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価が高まり、それが報酬の引き上げなどに結びついていきます。薬剤師の専門家の立場、患者に比較的身近な立場を活用した、積極的な疑義照会などを実施していくことに期待が集まります。

 

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