薬剤師が「患者の処方歴やアレルギー情報」を十分に把握し、医療事故を防止できた好事例―医療機能評価機構
2019.12.9.(月)
薬剤師が、患者の処方歴やアレルギー情報を十分に把握し、併せて薬剤に関する情報を的確に把握していたため、「不適切な処方」であることを見抜き、医療事故の発生を未然に防いだ―。
日本医療機能評価機構は11月29日に、保険薬局(調剤薬局)からこのようなヒヤリ・ハット事例が報告されたことを公表しました(機構のサイトはこちら)。
鑑査システムでエラーが出た場合、レセコンへの入力に誤りがないかも確認を
医療機能評価機構は、医療安全確保に向けて、患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例(「ヒヤリとした、ハッとした」事例)を薬局から収集する「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」を実施。さらに収集事例の中から医療安全確保に向けてとりわけ有益な情報を「共有すべき事例」として公表しており(最近の事例に関する記事はこちらとこちらとこちら)、11月29日には新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。
1つ目は、レセコンへの入力誤りを「調整の誤り」と判断してしまった事例です。
去痰剤である「カルボシステイン錠250㎎」を3錠5日分と記載された処方箋を受け取った薬剤師が、カルボシステイン錠250㎎「テバ」を調製しました。鑑査者が調製された薬剤をピッキング鑑査支援システムで読み取ったところ、エラー音が鳴り、確認するとシステムにはカルボシステイン錠500㎎「トーワ」と表示されていたため、鑑査者はカルボシステイン錠500㎎「トーワ」を調製し直して交付しました。交付後に事務員が入力チェックを行った際に「レセコンの入力内容に誤り」があることに気づき、患者に処方と異なる薬剤を交付してしまったことがわかりました。
このケースは、「レセコンに処方薬を入力する際に誤りがあり、正しい調整を行ったにもかかわらず、ピッキング鑑査支援システムがエラーと判断した」ものです。機構では▼システムを有効に活用するためには処方内容を正しく入力することが前提である▼システムでエラーが表示された際は、必ず処方箋を見直し、エラーの原因を確認したうえで対応することが必要である―と指摘しています。
2つ目は、薬剤師が「患者の処方歴」と「薬剤の効能効果」とにズレのあることに気付き、疑義照会のうえ処方変更が行われた事例です。
患者は、皮膚科で処方されたイボ(青年性扁平疣贅、尋常性疣贅)の治療薬であるヨクイニンエキス錠「コタロー」を服用していました。手持ちの薬剤がなくなったため、かかりつけの内科医に処方を依頼したところ、「ツムラ薏苡仁湯エキス顆粒」(医療用)が処方されました。薬局では当該患者の皮膚科処方箋も応需していたため、皮膚科医がイボ治療のためにヨクイニンエキス錠を処方していることを把握しており、「ツムラ薏苡仁湯エキス顆粒」にはイボへの効能効果がないことから内科医に疑義照会。結果、ヨクイニンエキス錠「コタロー」に変更となりました。
本ケースは、薬剤師が「患者の処方歴」を十分に把握していたこと、さらに薬剤の効能効果を確認したことから、「処方誤り」に気づけたものと言えます。まさに「かかりつけ薬局・薬剤師」としてのお手本とも言える好事例と言えるでしょう。
機構では、▼漢方製剤や生薬製剤は名称が類似していることが多く、処方間違いが生じやすいことを考慮して「治療目的にあった薬剤が処方されているか」確認する必要がある▼漢方製剤の多くは複数の生薬から構成されており、「生薬名や含有量、効能・効果を把握したうえで調剤を行う」ことが重要である―とアドバイスしています。
3つ目も、薬剤師が「処方薬剤の適正性」に疑問を持って処方変更を提案し、医師がこれを受け入れて処方変更となった事例です。
患者にA型・B型インフルエンザ治療薬である「イナビル吸入粉末剤20㎎」が処方されましたが、患者のアレルギー歴に「牛乳アレルギー」の記載があったため本人に確認したところ、「軽度の下痢が生じる時もあれば、全身に湿疹が出る時もある」ことが分かりました。イナビル吸入粉末剤20㎎には乳タンパクを含む乳糖水和物が使用されていることから、処方医に処方変更を提案したところ、添加物に乳糖水和物を含まないオセルタミビルカプセル75㎎「サワイ」に変更となりました。
本事例においても、薬剤師が患者の状態を十分に把握し、また薬剤の使用上の注意に関する知識を動員して医療事故を防止できた好事例です。
機構では「牛乳アレルギーがある患者にイナビル吸入粉末剤20㎎が処方され、そのまま薬剤を交付したために、吸入後に呼吸困難となった」事例が報告されていることを紹介。「薬剤の有効成分だけでなく『添加物』についても把握したうえで、患者から収集したアレルギー歴や副作用歴等と照合して処方監査を行うことが重要である」と強調しています。
2015年10月にまとめられた「患者のための薬局ビジョン」は、かかりつけ薬局・薬剤師に対し、(1)服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導(2)24時間対応・在宅対応(3)かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—を持つべきと提言しています。
さらに2018年度の前回調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤の整備も行っています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
「疑義照会=点数算定」という単純な構図ではありません(要件・基準をクリアする必要がある)が、事例のような薬剤師の取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)がさらに高まり、それが報酬引き上げに結びついていきます。「薬剤の専門家」という立場をいかんなく発揮し、積極的な疑義照会・処方変更提案が行われることが期待されます。
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