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薬剤師が専門知識を十分に発揮し「同時併用が適切でない薬剤の処方」を是正できた好事例—医療機能評価機構

2023.2.8.(水)

薬剤師が専門知識を十分に発揮し「同時併用が適切でない薬剤の処方」を是正できた—。

日本医療機能評価機構が2月7日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要知見が明らかになっています(機構のサイトはこちら)。

地域住民等が一般用医薬品の相談を気軽に相談でき、これに応えられる体制整備も重要

日本医療機能評価機構では、保険薬局(調剤薬局)における医療安全の確保・向上を目指した「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」も展開しています。全国の保険薬局を対象に「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)の報告を求め、重要な事例の集積・解析・公表を踏まえて「再発防止」を目指すものです。

再発防止の一環として、ヒヤリ・ハット事例の中から、医療安全確保のために有益な情報を「共有すべき事例」として定期的にピックアップ・公表しています(最近の事例に関する記事はこちらこちら)。今般、新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。

1つ目は、誤発注の結果「薬剤の取り違え」が生じてしまった事例です。

ある患者に交付された「プリビナ液0.05%(血管を収縮させ、鼻づまりなどを解消させる効果あり)10mL、鼻閉時に点鼻」と処方箋を応需しましたが、自薬局に在庫がなかったため、患者には翌日渡すことになりました。薬剤師Aは誤って「プリビナ点『眼』液0.5mg/mL」を発注してしまいました。翌日、調製を行った薬剤師Bは間違いに気付かず、プリビナ点眼液0.5mg/mLを点鼻用容器に分注して、患者に交付してしまいました。

事例の背景には、▼薬剤師Aが規格などを確認せずに薬剤を発注してしまった▼薬剤師Bはプリビナに「点眼用」と「点鼻用」があることを知らず、納品された薬剤の包装箱に表記されている「眼科用」の表示に疑問を持たなかった。結果、納品された薬剤を正しいと思い込み調剤した—ことがあります。

機構では、▼薬剤を発注する際は、薬剤名や「規格」「剤形」「屋号」などを入念に確認する必要がある▼前日以前の調剤業務の一部を引き継ぐ場合は、業務を引き継いだ薬剤師は「それまでの過程を正しい」と思い込むことなく、改めて処方箋の内容を確認し薬剤と照合することが重要である—とアドヴァイスしています。



2つ目は、薬剤師が薬剤の特性を十分に把握するとともに、専門性を十分に発揮し、適正な処方内容へ変更できた好事例です。

ある患者は、同じ医療機関のA診療科とB診療科を定期受診しており、A診療科から骨粗鬆症治療薬の「ボナロン経口ゼリー35mg」が、B診療科から2型糖尿病治療薬の「オゼンピック皮下注0.5mgSD」が処方されていました。その後、B診療科において「オゼンピック皮下注0.5mgSD」が、同じく2型糖尿病治療薬の「リベルサス錠3mg」へ変更になりました。ところで、「ボナロン経口ゼリー」は消化管障害を防止するために「多めの水で服用する」こととされ、一方、「リベルサス錠」は吸収率を上げるために「少なめの水で服用する」こととされています。両剤は胃内容物の影響を受けやすいため空腹時に服用する必要があるが、薬剤師は「この2剤の同時服用は適切ではない」と考え、B診療科の処方医へ疑義照会。結果、「リベルサス錠3mgへの変更」は中止され、従前どおり「オゼンピック皮下注」が継続になりました。

機構では、▼今回のようなケースでは、現行の処方監査支援システムで注意喚起アラートが表示されない ことが多く、「薬剤師が自らの知見によって服用上の問題点に気付く」必要がある▼リベルサス錠とビスホスホネート製剤(骨粗鬆症治療)の併用について、処方医から患者へ「同時服用を避ける」ような指示がされていない場合は、処方医に対し服薬上の問題点を情報提供する必要がある▼お薬手帳と薬剤服用歴の確認を徹底し、併用薬剤の組み合わせに問題がないか検討することが重要である—とアドヴァイスしています。



3つ目は、薬剤師が「一般用医薬品の服用」について必ずしも十分とは言えないアドヴァイスを行ってしまった事例です。

ある薬局薬剤師が、施設入居中の患者へ訪問指導を行った際、施設職員から「当該患者は軽微な下痢があるが医師への報告が漏れた。今回は一般用医薬品で対応したい」との相談を受けました。薬剤師は「この患者は血栓症治療薬であるワルファリンを服用中のため、『納豆菌を含まない整腸剤』を購入してください」(納豆菌はワルファリンの抗血液凝固作用を弱めてしまう)と伝えました。その後、薬局に同職員から「一般用医薬品の『ザ・ガードコーワ整腸錠α3+』を購入し、今晩から服用予定である」との電話報告があったため、薬剤剤は「同剤には納豆菌末が含有されている」ことを説明し、当該患者には服用させないよう伝えました。

事例の背景には、▼薬剤師の最初の説明の意図が施設職員に十分に伝わらなかった(施設職員は薬剤の専門家ではない)▼施設職員は業務の合間に急いでドラッグストアへ 行き、成分を確認しないままに整腸剤を購入した—ことがあります。

機構では、例えば今回のケースについては「『納豆菌を含まない整腸剤』とだけ伝えるのではなく、『具体的な商品名』も併せて伝える」「一般用医薬品を購入する薬局の薬剤師・登録販売者に『使用者がワルファリンを服用している。納豆菌を含まない薬剤を選んでほしい』と伝えるようアドヴァイスする」ことが重要と指摘しています。

なお、今回の事例については「施設との連携が密に取られており、それが不適切な薬剤の服用を未然に防ぐことに繋がった」を評価し、「患者や地域住民が、購入や服用を検討している薬剤についていつでも気軽に相談できるように薬局の体制を構築しておくことが重要である」ともアドヴァイスしています。





薬局・薬剤師には「対物業務」から「対人業務」への移行が求められ、いわゆる「かかりつけ薬局・薬剤師」が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つべきことが重要です(関連記事はこちら)。

あわせて、今年(2022年)7月には「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」が、▼「対物業務のみ・対人業務に力を入れない」薬局経営が成り立たないような調剤報酬へ移管する必要がある▼「対物業務の効率化」のため、まず「一包化業務の他薬局」への外部委託認可を検討する▼「ICT化・DX対応」を進めるとともに、薬局薬剤師は「地域の多職種や、病院薬剤師と顔の見える関係」構築に努める必要がある—との考えをまとめています(関連記事はこちら)。

とりわけ高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高く(ポリファーマシー)、厚生労働省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、注意を呼び掛けています。とくに外来医療等では、患者のそばに常に医療従事者がいるわけではないことから、保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要となります(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。



こうした考え方を先取りし、2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤が整備され、前回の2020年度改定での充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)、今回の2022年度改定での充実(例えば「調剤料の処方日数に応じた評価の見直し」や「調剤管理料の新設」など)も図られています。

「疑義照会=点数算定」という単純構造ではないものの(要件・基準をクリアする必要がある)、今回の事例のような薬剤師の素晴らしい取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まり、診療報酬での評価にも結び付くでしょう。

さらに、患者から「あの薬局、あの薬剤師さんは親身になってくれ、お医者さんに問合せまでしてくれる」との良い評判が立つことが、薬局経営の安定化に非常に効果的です。



なお、厚労省は昨年(2021年)3月31日に通知「『病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方』について」を示しており、病院はもちろん、地域のクリニックや薬局と連携して「ポリファーマシー対策」を進めることの重要性を指摘しています。医療安全確保のためにも「地域連携」が極めて重要です。



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