「対物業務のみ・対人業務に力を入れない」薬局は経営が成り立たない—ような調剤報酬へ移管せよ
2022.7.12.(火)
今後、調剤薬局(保険薬局)が「対人業務を充実」していくために、「対物業務のみ・対人業務に力を入れない」薬局経営が成り立たないような調剤報酬へ移管する必要がある—。
対人業務充実のためには「対物業務の効率化」が必要であり、まず「「一包化業務の他薬局」への外部委託を認める」ことを検討してはどうか―。
さらに対人業務の充実・対物業務の効率化のために「ICT化・DX対応」を進めるとともに、薬局薬剤師は「地域の多職種や、病院薬剤師と顔の見える関係」構築に努める必要がある—。
厚生労働省は7月11日に、「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」(主査:赤池昭紀和歌山県立医科大学教授)がこのような内容を取りまとめたことを公表しました。
目次
「対物業務のみ・対人業務に力を入れない」薬局経営が成り立たない調剤報酬へ移管せよ
薬局・薬剤師には「対物業務」から「対人業務」への移行が求められ、いわゆる「かかりつけ薬局・薬剤師」が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つべきことが重要です(【患者のための薬局ビジョン】、関連記事はこちら)。
このビジョンは2015年にとりまとめられ、かかりつけ薬局・薬剤師の推進に向けた取り組み(例えば診療報酬での対応、「医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」の改正など)が進められていますが、「2025 年までに、すべての薬局がかかりつけ薬局 としての機能を持つことを目指す」との目標達成は難しそうです。
また、薬局・薬剤師をめぐっては「新型コロナウイルス感染症をはじめとする新興感染症対応」や「医療分野のDX(デジタル・トランスフォーメーション)」も求められるなど、その立ち位置に若干の変化が生じています。
こうした中でワーキングでは「今後の薬局薬剤師の業務、薬局の機能のあり方、それを実現するための方策」について議論を重ね、今般、取りまとめを行ったものです。
重要な視点として次の3つを掲げており、それぞれが連環しています(例えば「対人業務を充実」するために、ICT化による「対物業務の効率化」が必要になる、など)。
(1)対人業務の更なる充実
(2)ICT化への対応
(3)地域連携の強化
まず(1)の対人業務充実は、すでに2015年時点で、上述した「患者のための薬局ビジョン」の中で強く打ち出されている方向ですが、必ずしも十分には進んでいないようです。そこでワーキングでは、次のような具体的な取り組みを掲げ、「さらなる対人業務の充実を目指すべき」と強調しています。
▽調剤後フォローアップの強化(国による手引きの充実・周知など)
▽医療計画における5疾病(がん、脳卒中、心筋梗塞等の心血管疾患、糖尿病、精神疾患)への対応(糖尿病患者への薬局薬剤師による食事・運動への説明・介入など)
▽薬剤レビュー(患者固有の情報を収集し、薬物治療に関連する問題を分析・特定し、医師や患者等に情報を伝達する体系的なプロセス)の推進
▽リフィル処方箋への対応(国による薬局向け手引き作成や、患者向け広報の実施など)
▽対人業務に必要なスキルの習得(薬局内・薬局間・地域レベルでの症例検討会開催など)
▽好事例の均てん化に向けた取り組み
このうち「好事例の均てん化に向けた取り組み」に関しては、「診療報酬(調剤報酬)による対応」をワーキングは強く求めています。具体的には「対物業務だけでは経営が成り立たない」「対人業務を充実しなければ経営が成り立たたない」ような報酬体系に移管することを提案(あわせてアウトカム・アウトプット評価の充実も提案)。今後の中央社会保険医療協議会論議に注目が集まります。
対物業務効率化に向け、まず「一包化業務の他薬局」への外部委託を認めてはどうか
ところで、限られた時間・マンパワーの中で(1)の対人業務を充実するためには「対物業務の効率化」が必要不可欠となります。ワーキングでは、次のような取り組みを進めることを提案しています。
▽調剤業務の一部外部委託
▽処方箋40枚規制(薬局では、1日平均40枚の院外処方箋に対し1人以上の薬剤師を配置することが求められている)の在り方検討
▽薬剤師以外の職員活用
▽調剤機器の活用
▽院外処方箋における事前の取り決め(プロトコル、剤形・規格変更などについて薬局から医療機関への問い合わせを簡素化するなどの取り決め)に基づく業務簡素化
このうち「外部委託」については、現在の薬機法では認めらていませんが、規制改革推進会議の議論も参考に、▼「一包化」業務の外部委託を認める(他の業務についても今後検討)▼委託先は「薬局」とする(距離制限の在り方などを今後検討)▼安全性が確保される仕組みを設ける—ことを提案。今後、具体的な法改正論議に発展すると考えられます。
なお、「一包化業務に附帯する業務の外部委託も認めなければ外部委託は進まない(かえって煩雑になってしまう)」、「一連の薬物療法は一体的に行う方が効率的であり、外部委託は適当でない」といった意見も出ている点に留意が必要です。
また「処方箋40枚規制」については、「緩和すれば処方箋応需枚数を増やすために対人業務が軽視されるのではないか」「規制が業務外部委託の支障にならないようすべき」との意見が出ており、こうした意見を踏まえた「緩和」策を今後検討していくことになるでしょう。
対人業務の充実・対物業務の効率化のために「ICT化・DX対応」を進めよ
また(2)のICT化・DX対応は、上述の「対人業務充実」や「対物業務効率化」さらに、(3)の地域連携を進めるうえで、非常に重要な要素となってきます。ワーキングでは次のような取り組みを進めることを提案しています。
▽デジタルに関する知識・技術の習得(国や日本薬剤師会が協力した「薬剤師向け研修」の実施・充実など)
▽薬局薬剤師DXに向けた活用事例(好事例)の共有
▽オンライン服薬指導の推進
▽ICTやAI(人工知能)を活用した調剤後フォローアップの推進
▽データ連携基盤(電子カルテ等の薬局システムの標準化・統一)
▽ICTを活用した薬歴管理などの推進
▽薬局内・薬局間情報連携のための標準的データ交換形式の開発・普及など
薬局薬剤師は、症例検討会など通じ多職種や病院薬剤師との連携を進めよ
他方(3)では、「すべての薬局が多機能を持つことは難しい」ことから、「▼地域全体で必要な薬剤師サービスを提供していく→▼地域の薬局が必要に応じ連携する」という仕組みの構築を提案。具体的には、次のような取り組みを進めることを求めています。
▽他職種との連携(勉強会や研修会などを通じた顔の見える関係の構築)
▽病院薬剤師との連携(薬薬連携)
▽健康サポート機能推進(届け出のハードルを分析するとともに、地域住民の認知度向上に努めるなど)
▽地域の実情に応じた薬剤師サービス等(医薬品供給にとどまらず、夜間・休日対応、感染症対応、在宅対応、情報発信など)の提供体制の検討
▽「薬局間連携」の推進と、「かかりつけ薬剤師・薬局」制度との関係整理
このほか、▼同一薬局の利用▼提供可能サービスの見える化—を推進することを強く求めています。
なお「敷地内薬局」については、「希少疾患・がんなどの治療に用いる高額な薬剤の調剤、高度な薬学管理」といった重要な役割を果たしているとの意見もあるものの、▼かかりつけ薬剤師・薬局の機能を持っているとは言えない▼敷地内薬局の開設に係る病院の公募内容を踏まえれば利益供与に当たる可能性が高い—との意見が大勢を占めていることを紹介。今後、「敷地内薬局の在り方」を議論するために、実態の詳細把握が必要と厚生労働省に求めています。
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