Generic selectors
Exact matches only
Search in title
Search in content
Search in posts
Search in pages
外来診療 経営改善のポイント 能登半島地震 災害でも医療は止めない!けいじゅヘルスケアシステム

患者の薬剤服用歴を確認し「禁忌薬剤の処方」を食い止めることができた好事例—医療機能評価機構

2021.10.11.(月)

薬剤師が患者の薬剤服用歴などから「禁忌薬剤が処方されている」ことに気づき、患者の健康被害を防ぐことができた―。

一方、薬剤師が積極的な情報提供を行ったが、その内容に不正確な部分があり、医療機関もこれに気づかず、患者に不利益が生じてしまった―。

日本医療機能評価機構が10月4日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要事例が報告されていることが分かりました(機構のサイトはこちら)。

積極的な情報提供は高く評価できるが、一歩進めて「情報提供内容の正確さ」にも配慮を

日本医療機能評価機構は、保険薬局(調剤薬局)における医療安全の確保・向上も重要事業目的の1つに据え、全国の薬局を対象に「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)を収集する「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」も展開しています。

その一環として、ヒヤリ・ハット事例の中から、医療安全確保のためにとりわけ有益な情報を「共有すべき事例」として定期的にピックアップ・公表しています(最近の事例に関する記事はこちらこちら)。10月4日には、新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。

1つ目は、薬剤師が「用法用量が適応症によって異なる薬剤」についての理解が不十分であったことなどから、交付量を誤ってしまった事例です。

ある薬局で抗菌剤のクラリスロマイシン錠200mg「サワイ」を「2錠(1回量)・4錠(1日量)・1日2回・84日分」と記載された処方箋を応需しました。薬剤師が「1日2錠」と思い込んで168錠(84日分)を交付。一方、患者は薬袋記載のとおり「1回2錠・1日2回」服用していたところ、40日ほどの経過で薬剤がなくなったことから医療機関に連絡。医療機関が薬局に連絡し、薬局での調剤量・交付量が誤っていたことが判明しました(不足分は後に患者に交付された)。

クラリスロマイシンの用法用量は、▼一般感染症では1日400mg(力価)▼非結核性抗酸菌症では1日800mg(力価)▼ヘリコバクターピロリ感染では1回200mg(他剤を併用して1日2回)―という具合に、対象疾患で異なっています。薬剤師は、非結核性抗酸菌症であることは把握していましたが、この「疾患による用法用量の違い」を理解しておらず、また、「1回量・1日量が平気された処方箋」にも不慣れであったことが、事例の背景にあることがわかりました。

機構では、▼適応症により用法・用量が異なる薬剤を調剤する際は、患者の疾患を把握したうえで処方監査を行う▼計数間違いを発見するために、調剤監査支援システムの利用、薬袋に記載された内容と薬剤の突合、薬剤交付時の患者との相互確認などを行う▼医療機関により処方箋の記載方法が異なることに留意し、処方箋を正しく読み取る―ことなどをアドヴァイス。

あわせて「処方箋の記載方法が早期に標準化されることを期待する」との提言も行っています。



2つ目は、薬剤師が患者の薬剤服用歴・既往歴を確認し、「禁忌薬剤の処方」を食い止めることができた好事例です。

ある薬局を利用している80歳代の患者が片頭痛のため医療機関を受診したところ、▼鎮痛・抗炎症・解熱剤であるロキソプロフェン錠60mg▼胃炎・胃潰瘍治療剤のレバミピド錠100mg▼偏頭痛治療薬のレルパックス錠20mg―が処方されました。処方監査を行った薬剤師が、薬局で管理している薬剤服用歴を見たところ、「当該患者には心筋梗塞等治療薬のエフィエント錠3.75mgが過去に併用され、既往歴に心筋梗塞の記載がある」ことを確認しました。偏頭痛治療薬のレルパックス錠は「心筋梗塞の既往歴がある患者」では禁忌とされていることから、処方医に疑義照会を行ったところ、当該薬剤が削除になりました。

偏頭痛治療薬のレルパックス錠には、心筋梗塞の既往がある患者のほか、▼虚血性心疾患またはその症状・兆候のある患者▼異型狭心症(冠動脈攣縮)のある患者▼脳血管障害や一過性脳虚血発作の既往のある患者▼末梢血管障害を有する患者―においても禁忌であり、併用禁忌の薬剤も多数あります。このため機構では「レルパックス錠を初めて調剤する際は、患者からの聴き取りやお薬手帳、医療情報連携ネットワークなどから疾患や既往歴、併用薬などの情報を収集することが必須である」とアドヴァイスしています。



機構では「規格により添付文書の記載事項が異なる薬剤を採用する際は、薬剤に関する情報を薬局内で周知し、薬剤の一覧表の作成や薬品棚に相違点などを表示して注意喚起するなどの工夫が必要」とアドヴァイスしています。なお、「処方誤りに気づいた後の対応」について報告がなく、機構では「後の対応についても報告してほしい」と要望しています。



3つ目は、薬剤師の情報提供に一部不正確な部分があり、医療機関サイドもこれに気づかず、患者に不利益が生じてしまった事例です。

2型糖尿病治療のエクメット配合錠HDを服用している患者が、医療機関を受診する前に薬局へ立ち寄り「脳梗塞の疑いがあるため造影剤を使用するMRI検査を受ける」旨を薬剤師に話しました。薬剤師は「造影剤を使用する検査であれば、検査前後にエクメット配合錠HDの服用を中止する必要があるはず」と考えましたが、医療機関から患者に対して服用中止の指示はなかったとのことです。そこで薬剤師は、患者のお薬手帳に上記の旨をコメントするとともに、エクメット配合錠HDの添付文書も挿み、「検査前に医師に見せる」ように患者に説明。結果、検査は直前に中止され、延期になりました。しかし、「MRI検査で使用する造影剤(ガドリニウム造影剤)はヨード造影剤ではない」ため、MRI検査の前後にメトホルミン製剤(エクメット配合錠HDもその1つ)投与を中止する必要はありませんでした。

機構では、「誤った情報により、本来受けられたはずの必要な検査が延期になること、薬剤の不要な中断は、患者にとって不利益である。薬剤師は、検査前後に休薬が必要な薬剤に関する情報を正しく理解したうえで、 処方医や医療機関に情報を提供することが重要である」とアドヴァイスしています。

良かれと思った薬剤師の行動です(積極的に情報提供する姿勢そのものは高く評価されるべきでしょう)が、内容が正確ではなかったために、残念ながら患者に不利益を及ぼしてしまっています。さらに、もう一歩踏み込み「情報提供の内容が正確か」と確認することに期待が集まります。なお、本事例では、医療機関サイドも「「MRI検査で使用する造影剤(ガドリニウム造影剤)はヨード造影剤ではなく、MRI検査の前後にメトホルミン製剤(エクメット配合錠HDもその1つ)投与を中止する必要はない」ことに気づいていないという背景もあります。





2015年10月にまとめられた「患者のための薬局ビジョン」では、「かかりつけ薬局・薬剤師が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つべき」旨が強調されています。薬局・薬剤師のかかりつけ機能を強化し、「適正な薬学管理の実現」「重複投薬の是正」など医療の質を向上していくことが求められています(関連記事はこちら)。

高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高く(ポリファーマシー)、厚生労働省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、注意を呼び掛けています。とくに外来医療等では、患者のそばに常に医療従事者がいるわけではないことから、保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要となります(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。



こうした考え方を先取りし、2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤が整備され、2020年度改定でその充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)が図られています。

「疑義照会=点数算定」という単純構造ではありません(要件・基準をクリアする必要がある)が、今回の3事例のような薬剤師の素晴らしい取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まり、診療報酬での評価にも結び付くでしょう。

さらに、患者から「あの薬局、あの薬剤師さんは親身になってくれ、お医者さんに問合せまでしてくれる」との良い評判が立つことが、薬局経営の安定化に非常に効果的です。



なお、厚労省は3月31日に通知「『病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方』について」を示しており、病院はもちろん、地域のクリニックや薬局と連携して「ポリファーマシー対策」を進めることの重要性を指摘しています。医療安全確保のためにも「地域連携」が極めて重要です。



診療報酬改定セミナー2024MW_GHC_logo

【関連記事】

「名称類似するが異なる薬剤」の処方を患者とのコミュニケーションで把握し、処方変更できた好事例—医療機能評価機構
併用禁忌等の不適切な処方内容を、薬剤師が専門知識・患者からの情報で見抜き、適正内容に変更した好事例—医療機能評価機構
「徐放性製剤の粉砕投与」リスクなどを薬剤師が主治医に説き、適切な処方内容への変更を実現―医療機能評価機構
患者とのコミュニケーションや薬剤服用歴を通じて「骨粗鬆症治療薬」の適正使用(重複回避など)に努めよ―医療機能評価機構
お薬手帳や患者とのコミュニケーション通じて「医薬品の併用禁忌」発見などに努めよ―医療機能評価機構
一般用医薬品販売においても、薬剤師は患者・主治医から情報収集し不適切な薬剤使用防止に努めよ―医療機能評価機構
薬剤師が、患者とのコミュニケーションで副作用発現を察知し、処方変更に結び付けた好事例―医療機能評価機構
薬剤師が、医師の誤処方(薬剤名誤入力、禁忌薬処方)に気づき、適正な処方に結び付けた好事例―医療機能評価機構
医師が気づかなかった「危険な処方変更」を、薬剤師が専門性を発揮して回避し、副作用発生を防止できた好事例―医療機能評価機構
薬剤師が「かかりつけ」機能発揮する好事例、専門知識に加え、患者の状態にも配慮―医療機能評価機構
薬剤師が添付文書を確認し「不適切な薬剤」「併用禁忌の薬剤」処方を阻止した好事例―医療機能評価機構
薬剤師は、患者の検査値など多角的な情報から「副作用の兆候」確認を―医療機能評価機構
お薬手帳は医療従事者が処方内容確認のために使うこともあり、「毎回記録」が重要―医療機能評価機構
メトトレキサート、「休薬期間」「患者の腎機能」などを確認し、適切量等の処方・調剤を―医療機能評価機構
患者からの収集情報に加え、「検査値」を積極的に入手し、それに基づく処方監査を―医療機能評価機構
定期処方薬剤についても患者とコミュニケーションとり、「副作用発現の有無」を確認せよ―医療機能評価機構
薬剤師は添付文書等から「正しい服用方法」など確認し、当該情報を処方医にも共有せよ―医療機能評価機構
薬剤師は診療ガイドライン等通じて「薬物療法の広い知識」身につけ、患者にも丁寧な情報提供を―医療機能評価機構
薬剤師は「薬剤添付文書の確認」「患者の服用歴確認」「医師への既往歴確認」などを―医療機能評価機構
骨粗鬆症治療、外来での注射薬情報なども「お薬手帳」への一元化・集約化を―医療機能評価機構
薬剤師が患者の服用状況、添付文書内容を把握し、医療事故を防止した好事例―医療機能評価機構
薬剤師が患者とコミュニケーションをとり、薬剤の専門的知識を発揮して医療事故を防止した好事例―医療機能評価機構
薬剤師が「患者の処方歴やアレルギー情報」を十分に把握し、医療事故を防止できた好事例―医療機能評価機構
薬剤師が「薬剤の用法用量や特性に関する知見」を活用し、医療事故を防止した好事例―医療機能評価機構
薬剤師が患者とコミュニケーションとり、既往歴や入院予定を把握して医療事故防止―医療機能評価機構
薬剤師が薬剤の添加物を把握し、患者とコミュニケーションをとってアレルギー発現を防止―医療機能評価機構
薬剤の専門家である薬剤師、患者の検査値・添付文書など踏まえ積極的な疑義照会を―医療機能評価機構
高齢患者がPTPシートのまま薬剤を服用した事例が発生、服用歴から「一包化」等の必要性確認を―医療機能評価機構
薬剤師の疑義照会により、薬剤の過量投与、類似薬の重複投与を回避できた好事例―医療機能評価機構
薬剤師が多職種と連携し、薬剤の過少・過量投与を回避できた好事例―医療機能評価機構
薬剤師が患者の訴え放置せず、メーカーや主治医に連絡し不整脈など発見できた好事例―医療機能評価機構
薬剤師が併用禁忌情報等に気づき、処方医に疑義照会した好事例―医療機能評価機構
薬剤師が患者の腎機能低下に気づき、処方医に薬剤の減量を提案した好事例―医療機能評価機構
薬剤師が「検査値から患者の状態を把握」し、重大な副作用発生を防止した好事例―医療機能評価機構
薬剤師も患者の状態を把握し、処方薬剤の妥当性などを判断せよ―医療機能評価機構
複数薬剤の処方日数を一括して変更する際には注意が必要―医療機能評価機構



どの医療機関を受診しても、かかりつけ薬局で調剤する体制を整備―厚労省「患者のための薬局ビジョン」



病院入院前の薬剤状況確認、入院中の処方変更、退院後のフォローなど各段階で「ポリファーマシー対策」を―厚労省
外来や在宅、慢性期性期入院医療など療養環境の特性踏まえ、高齢者への医薬品適正使用を―厚労省
外来・在宅、慢性期医療、介護保険施設の各特性に応じた「高齢者の医薬品適正性」確保を―高齢者医薬品適正使用検討会
医師と薬剤師が連携し、高齢者における薬剤の種類・量の適正化進めよ―高齢者医薬品適正使用検討会

徐放性製剤の粉砕投与で患者に悪影響、薬剤師に「粉砕して良いか」確認を―医療機能評価機構