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GemMed塾 新制度シミュレーションリリース

薬剤師が「かかりつけ」機能発揮する好事例、専門知識に加え、患者の状態にも配慮―医療機能評価機構

2020.12.10.(木)

薬剤師が、その専門性を十分に発揮するとともに、患者の状態に配慮し、処方内容について医師に積極的に問い合わせることで、より適正な処方内容への変更を実現できた—。

日本医療機能評価機構が12月7日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要事例が報告されていることが分かりました(機構のサイトはこちら)。

インスリン製剤には多種多様な規格があり、取り違えの防止、取り違えに気付ける対策を

日本医療機能評価機構では、薬局における医療安全確保に向け、全国の保険薬局(調剤薬局)を対象に「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)を収集する「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」を展開しています。その一環として、事例の中で医療安全確保のためにとりわけ有益な情報を「共有すべき事例」として整理し、公表。12月7日には、新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。

1つ目は、インスリン製剤を取り違え、かつ取り違え発覚までに一定の時間がかかってしまった事例です。

ある患者に糖尿病治療薬の「ヒューマログ注ミリオペン」が定期処方されており、薬剤師Aが患者の家族に薬剤を交付しました。2日後、薬剤師Bが「ヒューマログ注ミリオペン」の在庫数が合わないことに気付き、処方歴から患者を特定して確認したところ、薬剤師Aが「誤って『ヒューマログミックス50注ミリオペン』(やはり糖尿病治療薬)を交付してしまっていた」ことがわかりました。患者は「いつもの注射薬」と思い込んで数回注射。薬剤師が、患者に体調変化がないことを確認し、処方医へ報告した結果、経過を観察することになりました。

ハイリスク薬であるインスリン製剤の取り違えは、重篤な副作用発現の可能性があることから、薬剤を調製する際は細心の注意が必要となります。一方で、インスリン製剤には規格や剤形が多数存在することから「取り違えが生じやすい」状況にあります。

機構では、取り違え防止のために、例えば▼処方箋に記載された薬剤名、規格、剤形を正確に読み取り、鉛筆でチェックを入れるなどして、処方箋と調製した薬剤の照合を確実に行う▼インスリン製剤の種類やその特徴を薬局内で共有する▼薬剤や保管場所に注意喚起のためのラベルを貼付する―ことなどをアドヴァイスしています。

ところで、処方時に取り違えがあったとしても、鑑査で気付ければ事なきを得ることができます。しかし、事例では「薬袋と照合」したために取り違えに気付けなかったようです。鑑査においては「処方箋との照合」も重要なことは述べるまでもありません。

また、「毎日の業務終了後にインスリン製剤の在庫数を確認する」ことなどで、より迅速に取り違えに気付くことができると機構は指摘(事例では2日後に在庫チェックを行ったため、気付くまでに患者が使用してしまっていた)。

取り違え防止の取り組みとともに、「取り違えが生じても、すぐに気づける」ような対策・取り組みも重要となります。



2つ目は、薬剤師が「禁忌薬剤が処方されている」点に気付き、医師に疑義照会を行ったところ処方変更になった好事例です。

深部静脈血栓症の治療・再発抑制のために「エリキュース錠」を服用している患者に対し、整形外科から骨粗鬆症治療薬の「エビスタ錠60mg」が処方されました。エビスタ錠は深部静脈血栓症のある患者には禁忌であることに薬剤師が気づき、処方医に疑義照会を行った結果、エビスタ錠が削除になりました。

患者が「エリキュース錠を服用している」ことを整形外科医に伝えていなかったため、禁忌薬剤が処方されてしまったという背景もあります。

患者は、自身が服用中等の薬剤を十分に把握していないことが多く、また既往歴等を医師に伝え忘れるケースもあります。また、服用薬剤等をきちんと把握していたとしても「重要な情報とは思わずに、医師に伝えない」ということも少なくありません。

こうした場合、薬剤師が当該患者に処方された薬剤をすべて把握していれば、本事例のように「禁忌薬剤が処方されている」ことに気付き、対応することが可能です。本事例は、後述する「かかりつけの薬局・薬剤師の機能」のお手本となる好事例と言えるでしょう。

あわせて機構では「調剤の際には、患者からの聴き取りなどにより薬剤が処方された背景を把握したうえで、処方監査を行うことが重要である」ともアドヴァイスしています。



3つ目は、薬剤師が禁忌情報・患者の状態を考慮して、医師に問合せを行った結果、適切な処方内容への変更が実現できた好事例です。

ある患者の血圧が「151/74mmHg」であったため、医師が高血圧症等治療薬の「トリクロルメチアジド錠2mg『JG』」(フルイトラン錠の後発品)を処方しました。薬剤師が当日の血液検査結果を確認したところ、ナトリウム値が「130mEq/L(mmol/L)」と低値でした。薬剤師は、▼トリクロルメチアジド錠は低ナトリウム血症の患者に禁忌であること▼患者が高齢(80歳代)で高齢であること―を踏まえ、念のため処方医に問い合わせ。その結果、当該薬剤が削除になりました。

薬剤師が専門知識を発揮し、さらに患者の状態を慮って、医師に問い合わせを行うという、これも「かかりつけ医機能」のお手本と言える事例です。

機構では、併せて▼処方箋に検査値が記載されていない場合は、患者から検査値を聴取することが望ましい▼検査値の確認が難しい場合でも、患者の体調などに変化がみられないかを確認し、 患者に関する情報を収集するよう努め、処方薬の妥当性を検討することが重要である―とアドヴァイスしています。



2015年10月にまとめられた「患者のための薬局ビジョン」では、「かかりつけ薬局・薬剤師が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つべき」旨が強調されています。薬局・薬剤師のかかりつけ機能を強化し、「適正な薬学管理の実現」「重複投薬の是正」など医療の質を向上していくことが求められています(関連記事はこちら)。

とりわけ高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高く、厚生労働省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、注意を呼び掛けています。とくに外来医療等では、患者のそばに常に医療従事者がいるわけではないことから、保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要となります(関連記事はこちらこちらこちら)。

こうした考え方を先取りし、2018年度の前回調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤が整備され、2020年度改定で充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)が図られています。

「疑義照会=点数算定」という単純構造ではありません(要件・基準をクリアする必要がある)が、今回の事例(2つ目、3つ目の事例)のような薬剤師の素晴らしい取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まり、診療報酬での評価にも結び付くでしょう。

さらに、患者から「あの薬局、あの薬剤師さんは親身になってくれ。お医者さんに問合せまでしてくれる」との良い評判が立つことが、経営の安定化に何よりの効果があると言えるでしょう。



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