薬剤師は、患者の検査値など多角的な情報から「副作用の兆候」確認を―医療機能評価機構
2020.10.23.(金)
薬剤師が患者の検査値を確認し、また前回データと比較したところ「副作用の兆候」が見られ、処方医と情報共有を行い、迅速かつ適切な対応をとることができた—。
また薬剤師が「名称類似薬の処方誤り」に気付き、交付前に処方変更が可能となった—。
日本医療機能評価機構が10月19日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要ポイントが浮上しました(機構のサイトはこちら)。
薬剤師は「検査値も含めた多角的な情報」から副作用の徴候を見抜き、処方医を情報共有を
日本医療機能評価機構は、医療安全の確保に向けて、全国の保険薬局(調剤薬局)を対象に、「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)を収集する「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」を展開しています。その一環として、事例の中で医療安全確保のために有益な情報を「共有すべき事例」として整理し、公表しています(最近の事例に関する記事はこちらとこちらとこちら)。10月19日には、新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。
1つ目は、患者への説明不足により「健康被害が出かねない事態」に陥ってしまった事例です。
ある薬局では、骨粗しょう症治療薬の「エディロールカプセル」(一般名:エルデカルシトール)を既に服用している患者に「カルシウムを含有するサプリメント」を摂取しているかどうかを確認したところ、「カルシウムを含むドリンク剤(1本にカルシウム250㎎含有)を毎日飲んでいる」ことが分かったといいます。
高用量のカルシウム摂取により急激に血清カルシウム濃度が上昇する可能性があります。このため、この薬局では、骨粗鬆症治療薬の服用を始める際に「カルシウムを含有するサプリメントを摂取していないか」などの確認を行っていますが、この確認が行われず、事後(薬剤服用後)に「カルシウムを含有するサプリメントの摂取が始まっていた」ことが判明したものです。
幸い患者には高カルシウム血症の症状は見られませんでしたが、機構では▼調剤を行う際は、患者が服用している医療用医薬品だけでなく、一般用医薬品や健康食品・サプリメントについても把握し、相互作用等を検討する▼一般用医薬品や健康食品・サプリメントなどを販売する際にも、医療用医薬品の服用の有無を確認する—ことをアドバイスしています。
2つ目は、薬剤師が「名称類似薬の処方間違い」に気付き、正しい処方への変更を要請した好事例です。
腹部大動脈瘤手術後の患者に対し、血栓・塞栓形成の抑制に用いる「タケルダ配合錠」(一般名:アスピリン/ランソプラゾール)が継続して処方されていました。しかし、今回、「タケルダ配合錠」の処方がなく、代わりに消化管潰瘍の抑制やピロリ菌除去に用いる「タケキャブ錠10㎎」(一般名:ボノプラザンフマル酸塩)が処方されていました。患者は処方医から薬剤の変更について説明されていなかったため、薬局薬剤師が疑義照会。結果、「タケルダ配合錠」へ変更になりました。
本件は、「名称の類似した薬剤」を医師が誤って処方してしまったところ、薬剤師が「患者の過去の薬歴」を把握し、さらに患者と積極的にコミュニケーションをとって、誤処方を正すことができた好事例です。機構では、患者の▼薬剤服用歴▼現病歴・既往歴▼その他必要に応じて聴取した情報―などをもとに「処方の妥当性」を検討するよう強く求めています。
多くの医療機関で電子カルテ等のシステムが導入され、薬剤を処方する際には「医療機関で採用している薬剤の一覧」の中から選択することが多くなっています。本ケースでは「薬剤が五十音順で一覧」され、隣り合った「タケルダ配合錠」と「タケキャブ錠」を取り違えた可能性があります。処方元の医療機関はもちろん、調剤を行う薬局においても留意が必要です(医薬品医療機器総合機構のサイトはこちら)。
3つ目は、薬剤師が薬剤に関する十分な知識をもち、それを実際の患者の検査値と結び付け、さらに患者データの検証を行った結果、「副作用の徴候」にいち早く気付き、適切な対応が行われた好事例です。
薬局で「検査値付きの処方箋」をファクシミリで受け付けました。薬剤師が検査値を確認すると、心筋梗塞や筋ジストロフィーの状況を確認できる「CK値」が1071U/Lと高くなっていました(前回検査ではCK値が381U/L)。このため処方医に問い合わせ「検査値が上昇している」旨を伝えたところ、高コレステロール血症治療薬の「アトルバスタチン錠10㎎『サワイ』」(一般名:アトルバスタチンカルシウム水和物)と2型糖尿病治療薬の「メトホルミン塩酸塩錠500㎎MT『三和』」(一般名:メトホルミン塩酸塩)が削除になりました。薬剤師は、患者に「両薬剤の服用を中止する」よう電話で説明しています。
両薬剤の添付文書には、【重大な副作用】として「横紋筋融解症」などが示されており、「CK値上昇などがあれ投与を中止し、適切な処置を行う」旨の注意喚起がなされています。薬剤師は、こうした知識を、実際の「患者の検査値」と結び付け、さらに「過去のデータとの比較」を行い、患者の状態変化にいち早く気付き、適切な対応が迅速に行われました。
機構では▼安全で有効な薬物療法を行うために、日頃から検査値も含めた多角的な情報から副作用発現の有無を検討する▼患者の検査値に異常や変動が見られ、薬剤による副作用発現の可能性が考えられる場合は、処方医と情報共有する—ことをアドバイスしています。
厚生労働省は2015年10月に「患者のための薬局ビジョン」をまとめ、そこでは「かかりつけ薬局・薬剤師が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つべき」旨が強調されています。薬局・薬剤師のかかりつけ機能を強化し、「適正な薬学管理の実現」「重複投薬の是正」など医療の質を向上していくことが重要なためです(関連記事はこちら)。
とりわけ高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高いことが知られており、厚労省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、公表しています。入院医療においては医療機関(薬剤部など)が薬剤適正使用の責任を負いますが、外来医療等においては、保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要となります(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
こうした考え方を先取りし、2018年度の前回調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤が整備され、2020年度改定で充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)が図られています。
「疑義照会=点数算定」という単純な構図ではない(要件・基準をクリアする必要がある)ものの、今回の事例(2つ目、3つ目の事例)のような薬剤師の取り組みの積み重ねにより、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まれば、報酬引き上げ論議等に結びついていきます。「薬剤の専門家」という立場をいかんなく発揮し、積極的な疑義照会・処方変更提案などがさらに進むことがさらに期待されます。
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