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患者からの収集情報に加え、「検査値」を積極的に入手し、それに基づく処方監査を―医療機能評価機構

2020.7.17.(金)

薬剤を交付する際は、「薬剤同士の相互作用」に加えて、「飲食物・嗜好品と薬剤の相互作用」も確認する必要があり、患者と積極的にコミュニケーションをとることが重要である—。

また、患者から収集した情報に加えて、「検査値」を積極的に入手し、それに基づいた処方監査」を行うことも重要となる。そこでは、▼患者の病態▼薬物治療▼検査値―の関連性を理解する必要がある—。

抗てんかん薬を処方する際には、過量投与・過少投与になっていないか、添付文書等を十分に確認し、また投与量の推移にも留意する必要がある—。

日本医療機能評価機構は7月15日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要ポイントが浮上しています(機構のサイトはこちら)。

高カルシウム血症、医療用医薬品だけでなく患者のサプリメント摂取状況も確認を

日本医療機能評価機構では、医療安全確保のために、全国の保険薬局(調剤薬局)から「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)を収集する「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」を展開しています。その一環として、収集事例の中から医療安全確保のために有益な情報を「共有すべき事例」として整理し、公表しています(最近の事例に関する記事はこちらこちらこちら)。7月15日には、新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。

1つ目は、飲食物・嗜好品(アルコールなど)と相互作用のある薬剤を交付する際に、患者に留意点を説明し忘れた事例です。

患者に対し、ピロ菌除菌に用いる「ボノピオンパック」(それぞれピロリ菌除菌作用をもつタケキャブ錠・アモリンカプセル・フラジール内服錠の配合剤)が処方されました。同剤の成分であるフラジール内服錠については「腹部の疝痛、嘔吐、潮紅が現れることがあり、投与期間中は飲酒を避ける」旨の使用上の注意が設けられています。当然、同剤服用中も飲酒は避ける必要があります。この点、薬局では患者から「毎日飲酒している」ことを聞き及んでいましたが、薬局が混雑していたため、担当薬剤が記録確認を怠り、「同剤服用中は飲酒を控えるべき」ことを説明し忘れてしまいました。

機構では、▼薬剤を交付する際は、「薬剤同士の相互作用」だけでなく「飲食物・嗜好品と薬剤の相互作用」も確認する必要がある▼飲食物・嗜好品と相互作用がある薬剤が処方された際には、対象となる食品などの摂取の有無や摂取量を確認する必要がある—旨をアドバイスしています。

もっとも、こうしたルールを設けても「多忙ゆえ、確認を怠ってしまう」こともままあるでしょう。各薬局において「医療安全確保が最も重要であるとの意識」を醸成するとともに、複数チェックを確実に実施できるような体制(人員増も重要な選択肢となる)を構築することが必要です。



2つ目は、薬剤師が「薬剤の専門家」としての機能をいかんなく発揮し、多剤投与の是正・健康被害の防止を実現できた好事例です。

90歳代の患者が、1か月ほど前から意識消失を起こすようになったことから、医師が往診を行い、血液検査を実施しました。薬剤師が血液検査結果を確認したところ「カルシウム値は正常値」でしたが、「アルブミン値が低かった」ことから、補正カルシウム濃度を計算したところ基準値を超えていました(高カルシウム血症の疑い)。薬剤師がどういった薬剤を服用しているのかを確認したところ、カルシウム値を上昇させる可能性のある▼骨粗鬆症等の改善に用いる「L-アスパラギン酸Ca錠」▼骨粗鬆症治療薬「エディロールカプセル」―が他診療科から処方されていることが分かりました。薬剤師が往診医にその旨を伝えたところ、これら2種類の薬剤が中止となりました。

この事例では、▼検査値を詳しく確認している(補正Ca濃度の計算など)▼服用薬剤を広く確認している▼往診医に疑義照会を行っている—など、薬剤の専門家である薬剤師が、その能力をいかんなく発揮し、「多剤投与の是正→健康被害を未然に防ぐ」ことができた好事例と言えます。

機構では、▼患者から収集した情報だけでなく「検査値に基づいた処方監査」を行う▼患者の病態や薬物治療と検査値との関連性を理解する(処方箋に検査値が記載されていない場合でも、積極的に検査値を入手することが望ましい)▼高カルシウム血症が疑われる際は、医療用医薬品だけではなくサプリメント摂取の有無も確認する—ことを提案しています。



3つ目は、処方箋の投与量が、添付文書に記載された用法・用量と異なっていることに気づき、疑義照会のうえで投与量が見直された好事例です。

患者には、抗てんかん剤である「イーケプラ錠500㎎・1日1回夕食後」が処方されていましたが、同じく抗てんかん剤である「フィコンパ錠4㎎・1日1回夕食後」に切り替えが行われました。薬剤師はフィコンパ錠の添付文書に「1日1回2㎎の就寝前経口投与から開始する」旨が記載されていることに気づき、処方医に疑義照会。結果、「2mg、1日1回就寝前」に変更となりました。

薬剤の専門家である薬剤師が添付文書をきちんと確認したからこそ実現できた「好事例」と言えます。

機構では、▼抗てんかん剤は「過量投与による重篤な副作用の発現」「過少投与による発作の出現」など、患者への影響が大きく、添付文書の用法・ 用量を遵守することが重要である▼抗てんかん剤を調剤する際には、投与量を添付文書の用法・用量と照合することはもちろん、「投与量の推移」についても把握し、処方監査を行う必要がある—胸をアドバイス。

また、機構の医療事故情報収集等事業では「フィコンパ錠の過量投与により患者に見当識障害や異常行動が出現し、緊急入院となった事例が報告されている」ことも紹介しています。



厚生労働省は2015年10月に「患者のための薬局ビジョン」をまとめており、そこでは「かかりつけ薬局・薬剤師が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つべき」旨が強調されています。薬局・薬剤師がかかりつけ機能を強化・発揮し、「適正な薬学管理の実現」「重複投薬の是正」など医療の質を向上していくことが不可欠なためです(関連記事はこちら)。

とりわけ高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高いことが知られており、厚労省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、公表しています。入院医療においては医療機関(薬剤部など)が薬剤適正使用の責任を負いますが、外来医療等において保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要であることは述べるまでもないでしょう(関連記事はこちらこちらこちら)。

2018年度の前回調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤が整備され、さらに今般の2020年度改定でその充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)が図られています。

決して「疑義照会=点数算定」という単純な構図ではりません(要件・基準をクリアする必要がある)が、今回の事例(2つ目、3つ目の事例)のような薬剤師の取り組みが積み重ねられれば、確実に「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まっていきます。こうした現場の動きは、確実に報酬引き上げ論議等に結びついていくことから、「薬剤の専門家」という立場を踏まえて、積極的な疑義照会・処方変更提案などが行われることがさらに期待されます。

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