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GemMed塾 病院ダッシュボードχ 病床機能報告

併用禁忌等の不適切な処方内容を、薬剤師が専門知識・患者からの情報で見抜き、適正内容に変更した好事例—医療機能評価機構

2021.8.6.(金)

薬剤師が専門性を発揮し、また患者とのコミュニケーションを通じて「処方内容が不適切である」ことを見抜き、疑義照会のうえで「適切な処方内容への変更」を実現することができた(例えば、併用禁忌の回避など)―。

日本医療機能評価機構が7月30日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要事例が報告されていることが分かりました(機構のサイトはこちら)。

薬剤師が専門知識を生かし、患者から情報収集を行うことで、適正な処方内容の確保を

日本医療機能評価機構では、保険薬局(調剤薬局)における医療安全の確保・向上を目指し、全国の薬局を対象に「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)を収集する「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」も展開しています。

その一環として、ヒヤリ・ハット事例の中から、医療安全確保のためにとりわけ有益な情報を「共有すべき事例」として定期的にピックアップ・公表しています(最近の事例に関する記事はこちらこちら)。7月30日には、新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。

1つ目は、薬剤師が専門知識を活用し「併用禁忌」を避けることができた好事例です。

高血圧症治療薬の「エナラプリルマレイン酸塩錠5mg」1回1錠・1日1回朝食後を服用している患者に、今回、慢性心不全治療薬の「エンレスト錠50mg」1回1錠・1日2回朝夕食後が追加されました。エンレスト錠は、エナラプリルマレイン酸塩錠などのアンジオテンシン変換酵素阻害薬とは「併用禁忌」であり、アンジオテンシン変換酵素阻害薬を服用中の患者にエンレスト錠を投与する場合は「少なくとも投与開始36時間前にアンジオテンシン変換酵素阻害薬を中止」しなければなりません。そこで、薬剤師が処方医に疑義照会を行ったところ「エナラプリルマレイン酸塩錠」が削除・残薬も服用中止となり、エンレスト錠は翌々日から服用開始する指示を受けました。薬剤を「一包化調剤」して交付している患者であったため、薬剤師は、今回は分包紙に服薬日を記載し、明日、服用する分にはエンレスト錠を入れずに分包。患者には「明日からは分包紙に服薬日が記載された薬剤を服用し、家にある残薬は服用しない」よう説明しています。

本事例は、薬剤師が「薬剤の専門家」ならではの知識を活用し、医師に疑義照会を行い、適切な処方内容への変更が適った事例です。機構では、▼新たな作用機序を有する薬剤を取り扱う際は、添付文書やインタビューフォーム、医薬品リスク管理計画書(RMP)などを収集し、薬局内で教育・研修を行って情報共有しておくことが望ましい▼薬剤変更の際に休薬期間が必要な場合は、患者が正しく服薬できるよう、薬剤師が残薬数を確認し、薬袋やお薬手帳などを活用した服薬支援を行う必要がある。交付後にも服薬状況や体調の変化などを確認することが望ましい―とアドヴァイスしています。



2つ目も、薬剤師が専門知識を発揮して適正な処方内容への変更がなされた好事例です。

患者には、以前から慢性心不全治療薬の「エンレスト錠50mg」1回1錠・1日2回朝夕食後が処方されていましたが、今回から増量(同錠1回2錠・1日2回朝夕食後)となりました。同錠の添付文書には「50mg錠と100mg錠・200mg錠の生物学的同等性は示されていないため、100mg以上の用量を投与する際には50mg錠を使用しない」ことと記載があり、薬剤師が疑義照会を行った結果「エンレスト錠100mg」1回1錠・1日2回朝夕食後へ変更となりました。

「同じ有効成分の製剤であるが、規格・剤形により生物学的同等性が示されていない」薬剤があります。機構では、▼調剤の際には、薬剤の規格・剤形が妥当であるかを確認する▼異なる規格・剤形との互換使用を行わない薬剤をリストアップして薬局内で情報共有し、薬品棚 に掲示するなどの対応が有用である―などとアドヴァイスしています。



3つ目は、一般用医薬品の販売にあたり、薬剤師が患者の既往歴などを聴取し、不適切な医薬品販売を中止できた好事例です。

禁煙補助薬(一般用薬)購入のために30歳代の男性が来局しました。患者情報記録はありませんでしたが、「過去にニコチネル パッチ20を使用したことがある」ことを聴取。同医薬品を販売する際に、改めて現病歴や服用中の薬剤を確認したところ、「2週間前に心筋梗塞を発症し経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が施行されたこと」「複数の薬剤(詳細不明)を服用していること」が分かりました。薬剤師が同医薬品の添付文書を確認したところ「3ヵ月以内に心筋梗塞の発作を起こした人は使用しない」旨の記載があり、その旨を伝えて販売を取りやめることができました。

一般用医薬品を購入する際に使用者が「お薬手帳を薬剤師等に提示して相談する」ケースは少ない(極めて稀である)ため、一般用医薬品を販売する際は「過去にその薬剤の使用歴がある」と聴取した場合でも、 その都度、既往歴や現病歴、アレルギー歴・副作用歴、服用中の薬剤などを確認することが 欠かせないと機構は強調。一般用医薬品の販売等に当たっても、薬剤師がその専門性を発揮するようアドヴァイスしています。





2015年10月にまとめられた「患者のための薬局ビジョン」では、「かかりつけ薬局・薬剤師が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つべき」旨が強調されています。薬局・薬剤師のかかりつけ機能を強化し、「適正な薬学管理の実現」「重複投薬の是正」など医療の質を向上していくことが求められています(関連記事は
こちら)。

高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高く(ポリファーマシー)、厚生労働省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、注意を呼び掛けています。とくに外来医療等では、患者のそばに常に医療従事者がいるわけではないことから、保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要となります(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。



こうした考え方を先取りし、2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤が整備され、2020年度改定でその充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)が図られています。

「疑義照会=点数算定」という単純構造ではありません(要件・基準をクリアする必要がある)が、今回の3事例のような薬剤師の素晴らしい取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まり、診療報酬での評価にも結び付くでしょう。

さらに、患者から「あの薬局、あの薬剤師さんは親身になってくれ、お医者さんに問合せまでしてくれる」との良い評判が立つことが、薬局経営の安定化に非常に効果的です。



なお、厚労省は3月31日に通知「『病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方』について」を示しており、病院はもちろん、地域のクリニックや薬局と連携して「ポリファーマシー対策」を進めることの重要性を指摘しています。医療安全確保のためにも「地域連携」が極めて重要です。



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