お薬手帳や患者とのコミュニケーション通じて「医薬品の併用禁忌」発見などに努めよ―医療機能評価機構
2021.5.14.(金)
薬剤師が、お薬手帳や患者とのコミュニケーションを通じて、医療用医薬品の「併用禁忌」、一般用医薬品と医療用医薬品との「相互作用」に気づき、医療事故を未然に防ぐことができた―。
日本医療機能評価機構が5月6日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要事例が報告されていることが分かりました(機構のサイトはこちら)。
軟膏やクリーム剤の「今後指示」には十分な注意を
日本医療機能評価機構は、保険薬局(調剤薬局)における医療安全の確保・向上を目指し、全国の薬局を対象に「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)を収集する「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」を展開しています。その一環として、事例の中から、医療安全確保のためにとりわけ有益な情報を、「共有すべき事例」として整理・公表しています(最近の事例に関する記事はこちらとこちら)。5月6日には、新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。
1つ目は、「混合すべきでない軟膏剤」について混合指示が出ていたところ、薬剤師が専門知識を持って医師に疑義照会し、事故を未然に防いだ好事例です。
ある患者に抗菌剤の「マイアロン軟膏0.05%」(現在の販売名は「クロベタゾールプロピオン酸エステル軟膏0.05%『MYK』」)と尋常性乾癬等治療薬の「オキサロール軟膏25μg/g」が「混合」の指示で処方されました。薬剤師が、基剤や主成分を確認し混合の適否を検討したところ、「両剤の混合により含量が低下する可能性が高い」という情報を入手しました。薬剤師は処方医に連絡し、「マイアロン軟膏」と有効成分が同じ「デルモベート軟膏0.05%」への変更を提案した結果、了解を得ることができました。
「マイアロン軟膏」は、「デルモベート軟膏」の後発品です(当時は、後発品の名称を「成分名+後発品メーカー」とするルールが設けられていなかった)。「デルモベート軟膏」については、「オキサロール軟膏」との混合が可能であるため、処方医が「後発品であるマイアロン軟膏でも混合可能である」と判断した可能性があります。
本事例は、薬剤師が「軟膏剤の混合の可否」を十分に検討したうえで、「代替案」も提示した優れたケースと言えるでしょう。
なお機構では、▼軟膏・クリーム剤は混合や希釈を目的として開発されていないため、混合・希釈の際には細心の注意を払う必要がある▼有効成分が同一であっても、基剤や添加物、剤形などの違いにより混合の適否が異なる場合があり、混合指示がある際は薬剤ごとに配合変化を確認する必要がある▼膏・クリーム剤の混合の適否は、添付文書やインタビューフォームに記載されていない場合が多く、製薬企業へ問い合わせたり、書籍などを活用したりして、信頼できるデータを参考に判断することが望ましい―とアドヴァイスしています。
2つ目は、薬剤師が服薬状況をお薬手帳や患者自身から把握し、「併用禁忌」に気づけた好事例です。
70歳代の患者に不眠症治療薬の「ベルソムラ錠15mg」1錠分1就寝前が処方されました。薬剤師がお薬手帳を確認したところ、他院から抗菌剤の「クラリス錠200」が処方されていることがわかり、患者からは「呼吸器疾患でクラリス錠を継続服用している」ことが聴取できました。「ベルソムラ錠」は「クラリス錠」と併用禁忌であるため、薬剤師が処方医に疑義照会を行った結果、不眠症治療薬の「デエビゴ錠2.5mg」1錠分1就寝前へ変更になりました。
この他にも、お薬手帳や薬局で管理している情報などから、薬剤師が「ベルソムラ錠」と「クラリス ロマイシン錠」(クラリス錠は先発品、後発品多数)の併用に気付き疑義照会を行った事例が多数報告されており、注意が必要です。
機構では、「疑義照会の前に、患者の▼睡眠状態▼合併症—の有無、クラリスロマイシン錠の継続必要性などの情報を収集し、『代替薬』を含めた必要かつ適切な情報を処方医へ提供することが重要である」とアドヴァイスしています。適切な処方変更に向けて、単なる疑義照会にとどめず、データを揃えておくことも非常に重要です。
3つ目は、薬剤師が「一般用医薬品と医療用医薬品との相互作用」を確認し、一般用薬の服用中止を求めた好事例です。
薬剤師が、降圧剤が処方されている患者に「併用薬の有無」を確認したところ、「腰を痛めたので、自宅にあった一般用医薬品である鎮痛剤の『リングルアイビーα200』を服用している」ことが分かりました。リングルアイビーの添付文書には「高血圧の治療を受けている人は服用しないこと」と記載されているため、薬剤師は患者にリングルアイビーの服用を中止するよう伝えています。
機構では、▼一般用医薬品等を販売する際は、「使用者以外が服用する」可能性も考慮し、適切な情報提供を行う必要がある▼医療機関で治療を受けている患者には、「一般用医薬品等の購入・服用は安易に自己判断せず、服薬の可否について医師・薬剤師等に相談する。その際、治療中の疾患や服用中の医療用医薬品をきちんと伝えるためにお薬手帳などを持参すべき」旨を伝えておく▼調剤の際は、医療用医薬品だけでなく、一般用医薬品や健康食品・サプリメントなどについても聴取し、特に要指導医薬品や一般用医薬品を服用している場合はその添付文書を確認し、服用の継続や受診勧奨を検討する―ことをアドヴァイスしています。
2015年10月にまとめられた「患者のための薬局ビジョン」では、「かかりつけ薬局・薬剤師が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つべき」旨が強調されています。薬局・薬剤師のかかりつけ機能を強化し、「適正な薬学管理の実現」「重複投薬の是正」など医療の質を向上していくことが求められています(関連記事はこちら)。
とりわけ高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高く、厚生労働省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、注意を呼び掛けています。とくに外来医療等では、患者のそばに常に医療従事者がいるわけではないことから、保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要となります(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
こうした考え方を先取りし、2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤が整備され、2020年度改定でその充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)が図られています。
「疑義照会=点数算定」という単純構造ではありません(要件・基準をクリアする必要がある)が、今回の3事例のような薬剤師の素晴らしい取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まり、診療報酬での評価にも結び付くでしょう。
さらに、患者から「あの薬局、あの薬剤師さんは親身になってくれ、お医者さんに問合せまでしてくれる」との良い評判が立つことが、経営の安定化に何よりの効果があると考えられます。
なお、厚労省は3月31日に通知「『病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方』について」を示しており、病院はもちろん、地域のクリニックや薬局と連携して「ポリファーマシー対策」を進めることの重要性を指摘しています。医療安全確保のためにも「地域連携」が極めて重要です。
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