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GemMed塾 病院ダッシュボードχ 病床機能報告

薬剤師が、患者とのコミュニケーションで副作用発現を察知し、処方変更に結び付けた好事例―医療機能評価機構

2021.3.15.(月)

薬剤師が、患者とコミュニケーションをとる中で「医師に伝えていない副作用の発現」に気づき、処方変更に結び付けることができた。さらに薬剤師は主治医に対し「定期的な検査実施」を進言している―。

日本医療機能評価機構が3月12日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要事例が報告されていることが分かりました(機構のサイトはこちら)。

錠数の異なるシートが混在し、「錠数誤り」が生じかけた事例も報告

日本医療機能評価機構では、薬局における医療安全の確保・向上を目指し、全国の保険薬局(調剤薬局)を対象に「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)を収集する「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」を展開しています。その一環として、事例の中で医療安全確保のためにとりわけ有益な情報を「共有すべき事例」として整理・公表しています(最近の事例に関する記事はこちらとこちら)。3月12日には、新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。

1つ目は、「錠数が異なるシート」が混在していたため、「錠数間違え」が生じかけた事例です。

ある患者に、痛風治療薬(高尿酸血症治療剤)の「フェブリク錠40mg」(1錠分1朝食後、60日分)が処方されました。薬剤師Aは、全量60錠のところ、▼14錠シート2枚(28錠)▼10錠シート2枚(20錠)▼端数の4錠―を取り揃えました。薬剤師Bの鑑査で「52錠しかない」ことが明らかになり、薬剤師Aに計数間違いが伝えられました。

事例の背景には、「14錠シートの棚に、10錠シートが混在していた」ことがあります。

機構では、▼「1シートの錠数が異なる包装」に変更した際は、薬局内で速やかに情報を共有し、薬剤棚等に表示を行う▼旧包装と新包装の薬剤が混在する場合は、「誰が見てもわかる」ように区別して保管する▼製薬企業が提供する患者向け資材を、患者に説明する際に利用するだけでなく、薬剤棚に貼るなどして調製者への注意喚起にも活用する―ことをアドヴァイスしています。



2つ目は、患者の声に耳を傾けた薬剤師が「副作用の可能性」に気づき、処方医に処方内容の変更(減量)などを提案した好事例です。

ある患者に、以前から不整脈治療薬の「シベノール錠100mg」(1日3錠分3毎食後)が処方されていました。薬剤師が薬剤を交付する際、患者から「時々ふらふらすることがあるが、食事を摂ると症状が治まる」ことを聴取しました。患者は80歳代で「腎機能が低下している」可能性があることから、薬剤師は「シベノール錠の副作用である低血糖症状の発現」を疑いました。薬剤師が、処方医へ「患者の症状」と「副作用発現の可能性」を伝え、「減量を提案」した結果、「1日2錠分」へ減量となりました。薬剤師は、今後も注意が必要であると考え、処方医に「定期的に血液検査を実施する」ことを提案しています。

事例の背景には、患者が「時々ふらふらすることがあるが、食事を摂ると症状が治まる」ことを主治医に伝えていなかったことがあります。患者にとっては、医師に物申すことはどうしても難しいのが実態です。その点、薬剤師が患者とフランクに意思疎通する中で「医師に言えなかった事柄」が明らかになることがあり、本事例は、それを見逃さなかった薬剤師の姿勢を称賛できるものと言えます。

機構では、▼薬剤師は、「薬剤服用で発現する可能性のある副作用」を把握し、患者から日頃の体調の変化などを注意深く聴取する▼高齢者は加齢に伴う腎機能低下により副作用が発現する可能性が高いため、特に注意する▼患者は体調に変化が表れても、薬剤に起因する副作用であると気づかないことが多い▼副作用発現を早期に発見するには、患者や看護に当たる者に対し、特に注意が必要な重篤な副作用や発現 頻度が高い副作用の初期症状などを丁寧に説明し、該当する体調変化が見られたときは速やかに医療従事者に伝えるなどの対応も併せて指導する―ことなどを指摘しています。

なお、本事例では、薬剤師が処方医に「定期的な血液検査」実施を進言している点にも注目すべきでしょう。機構でも、「臨床検査を定期的に行う必要がある薬剤を服用している患者には、薬剤師は検査の実施状況を確認し、検査値を把握する必要がある。実施していない場合は、処方医へ必要な臨床検査の実施を提案することが望ましい」とアドヴァイスしています。



3つ目は、薬剤師が「薬剤の使用状況を確認し、過量使用を発見できた」好事例です。

喘息の症状がある患者に気管支喘息・COPD治療薬の「シムビコートタービュヘイラー30吸入」が初めて処方されました。薬剤師は、デモンストレーション品を用いて実演しながら、使用方法や注意点を一通り説明して薬剤を交付しましたが、患者は80歳代と高齢であったことから、フォローアップも兼ねて翌朝、患者宅に電話をかけ使用方法を確認しました。すると、患者は「吸入した際に口内に粉が入った感じがしなかったため、正しく吸えていない」と判断し何度も吸入していることが分かりました。「過量に使用している」可能性があったため患者に来局してもらうと、「振戦」が認められ、血圧が100mmHg前後と低く、頻脈もありました。薬剤師がすぐにかかりつけ医に連絡し、患者は再受診することになりました。

改正薬剤師法などでは、薬剤師に対し「薬剤の適正使用のため必要があると認める場合には、患者の当該薬剤の使用の状況を継続的かつ的確に把握するとともに、患者・看護者に対し必要な情報を提供し、必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならない」旨が規定されており、本事例では、この考え方に沿った対応が実践されています。

機構では、薬剤師に対し、▼調剤時に限らず、必要に応じて患者の薬剤の使用状況の把握や服薬指導を行う▼薬剤交付時に薬剤師からの説明を理解していても、実際に服用あるいは使用する際に不安を感じる患者は少なくない。患者が薬物療法を受けている間は、薬学的な知見に基づき、患者の病状の変化や副作用発現の可能性などを確認し、患者の理解力、身体的特性、療養環境などを考慮した指導を行う―ことを求めています。





2015年10月にまとめられた「患者のための薬局ビジョン」では、「かかりつけ薬局・薬剤師が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つべき」旨が強調されています。薬局・薬剤師のかかりつけ機能を強化し、「適正な薬学管理の実現」「重複投薬の是正」など医療の質を向上していくことが求められています(関連記事はこちら)。

とりわけ高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高く、厚生労働省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、注意を呼び掛けています。とくに外来医療等では、患者のそばに常に医療従事者がいるわけではないことから、保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要となります(関連記事はこちらこちらこちら

こうした考え方を先取りし、2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤が整備され、2020年度改定でその充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)が図られています。

「疑義照会=点数算定」という単純構造ではありません(要件・基準をクリアする必要がある)が、今回の3事例のような薬剤師の素晴らしい取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まり、診療報酬での評価にも結び付くでしょう。

さらに、患者から「あの薬局、あの薬剤師さんは親身になってくれ、お医者さんに問合せまでしてくれる」との良い評判が立つことが、経営の安定化に何よりの効果があると考えられます。



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