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医師が気づかなかった「危険な処方変更」を、薬剤師が専門性を発揮して回避し、副作用発生を防止できた好事例―医療機能評価機構

2021.1.6.(水)

薬剤師が、その専門性を十分に発揮し、医師が気づかずに行った「危険な処方変更」を阻止し、ショックやアナフィラキシー発生を回避することができた—。

日本医療機能評価機構が1月5日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要事例が報告されていることが分かりました(機構のサイトはこちら)。

薬剤師が「なすべき疑義照会」を行えなかった反省すべき事例も

日本医療機能評価機構では、薬局における医療安全を確保するため、全国の保険薬局(調剤薬局)を対象に「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)を収集する「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」を展開しています。その一環として、事例の中で医療安全確保のためにとりわけ有益な情報を「共有すべき事例」として整理・公表しています(最近の事例に関する記事はこちらこちら)。1月5日には、新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。

1つ目は、薬剤師が添付文書を確認して医師に疑義照会を行い、適切な処方内容への変更が行われた好事例です。

ある患者に、子宮筋腫に基づく過多月経や下腹痛などの改善に用いる「レルミナ錠40㎎」が1日1回1錠(昼食後)として処方されました。薬剤師は、添付文書より「食後投与は、絶食下投与と比較して薬剤の血中濃度(Cmax・AUC120)が低下する」ことを確認。その際、患者から「初回投与である」ことを聴取すると同時に、「医師から服用開始日の指示がなかった」ことを確認しました。薬剤師が処方医へ疑義照会を行った結果、▼用法を昼食「前」に変更する▼月経周期1-5日目より服用を開始する—よう指示を受けることができました。

レルミナ錠に関するヒヤリ・ハット事例は他にもあり、その大半が本事例と同様に「疑義照会によって、昼食『後』から昼食『前』へと変更」になったものです。機構では、レルミナ錠は「食事の影響を受ける」薬剤であることを指摘し、薬剤を初回交付する際には「食習慣等の患者背景を聴取したうえで、患者に適切な説明を行う」ことが重要とアドヴァイスしています。



2つ目は、リスクのある処方変更を薬剤師が防いだ好事例です。

ある患者は、2年前から、A医療機関の耳鼻咽喉科から処方された花粉症治療薬の「シダトレンスギ花粉舌下液2000JAU/mLパック」を使用しています。今回は、A医療機関から紹介を受けてB医療機関の耳鼻咽喉科を受診し、同じく花粉症治療薬の「シダキュアスギ花粉舌下錠5000JAU」が1日1回1錠・30日分が処方されました。薬剤師は「シダトレンスギ花粉舌下液」から「シダキュアスギ花粉舌下錠」へ切り替える際には、▼変更後1週間は「シダキュアスギ花粉舌下錠2000JAU」を1日1回1錠▼投与2週目以降は「シダキュアスギ花粉舌下錠5000JAU」を1日1回1錠―を投与する(段階的に切り替えていく)ことを製薬企業に確認。薬剤師は、処方医に投与量について疑義照会を行いました診察終了していました。また「シダキュアスギ花粉舌下錠」の添付文書には、「初回投与時は医師の監督のもと、投与後少なくとも30分間は患者を安静な状態に保たせ、十分な観察を行う」ことなどが記載されていますが、この履行が難しい(B医療機関は診療終了している)状況であったことから、▼シダキュアスギ花粉舌下錠への変更は次回に見送り▼今回は、従前からの「シダトレンスギ花粉舌下液」に処方変更する—こととなり、患者にその経緯を説明しています。

処方医が、「シダトレンスギ花粉舌下液2000JAU/mLパック」から「シダキュアスギ花粉舌下錠5000JAU」への切り替えが可能と思い込んでいたことが本事例の背景にあります。切り替えによって「ショック・アナフィラキシーが生じる」可能性もあることから、▼段階的な切り替え▼初回投与時の医師の監督—が求められています。薬剤師が、▼添付文書の確認▼製薬メーカーへの確認―といった専門性を発揮し、こうしたリスクを回避することができた好事例です。

機構では、「すでに患者が服用している薬剤を変更する際は、変更点について患者が理解できるよう十分な説明を行う必要がある」ことも併せてアドヴァイスしています。



3つ目は、薬剤師が「患者の既往歴を踏まえた疑義照会」を行えなかった反省すべき事例です。

ある患者に高血圧症治療薬の「エナラプリルマレイン酸塩錠」が処方されていましたが、空咳が発現したため、処方医は同剤を処方から削除しました。5か月後、患者の血圧がコントロール不良になったことから同剤が再開されましたが、薬局では疑義照会を行わず薬剤を交付した。2か月後に患者が空咳を訴えたため、再び同剤が処方から削除されています。

エナラプリルマレイン酸塩錠の添付文書には、▼咳嗽▼咽(喉)頭炎▼喘息▼嗄声―などの症状が現れた場合には「投与を中止するなど適切な処置を行う」ことが記載されています。事例では、「すでに空咳が生じ、同剤が処方削除されている」点を踏まえて、再開時に疑義照会をすべきであったと考えられます。

機構では、▼調剤する際は、患者の薬剤服用歴、既往歴・現病歴、副作用歴・アレルギー歴、併用薬との相互作用等を確認したうえで処方監査を行い、適切な処方かどうかを検討する▼患者に副作用があらわれた可能性がある場合は、薬局内で情報共有できるように患者情報の副作用歴欄などに薬剤名と症状を明記する▼重要な患者情報の見落としを防止するため、電子薬歴システムの頭書きやアラート機能などを利用することが有用である—とアドヴァイスしています。



2015年10月にまとめられた「患者のための薬局ビジョン」では、「かかりつけ薬局・薬剤師が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つべき」旨が強調されています。薬局・薬剤師のかかりつけ機能を強化し、「適正な薬学管理の実現」「重複投薬の是正」など医療の質を向上していくことが求められています(関連記事はこちら)。

とりわけ高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高く、厚生労働省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、注意を呼び掛けています。とくに外来医療等では、患者のそばに常に医療従事者がいるわけではないことから、保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要となります(関連記事はこちらこちらこちら)。

こうした考え方を先取りし、2018年度の前回調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤が整備され、2020年度改定で充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)が図られています。

「疑義照会=点数算定」という単純構造ではありません(要件・基準をクリアする必要がある)が、今回の事例(2つ目、3つ目の事例)のような薬剤師の素晴らしい取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まり、診療報酬での評価にも結び付くでしょう。

さらに、患者から「あの薬局、あの薬剤師さんは親身になってくれ、お医者さんに問合せまでしてくれる」との良い評判が立つことが、経営の安定化に何よりの効果があると考えられます。



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