薬剤師が患者とコミュニケーションとり、専門知識を発揮して「適切な処方内容への変更」を実現—医療機能評価機構
2021.12.23.(木)
薬剤師が患者と密接なコミュニケーションをとり、併せて専門知識を活用することで「適切な処方内容への変更」などを実現できた―。
日本医療機能評価機構が12月17日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要事例が報告されていることが分かりました(機構のサイトはこちら)。
一般用医薬品販売時にも患者とコミュニケーションとり、必要があれば医療機関受診勧奨を
日本医療機能評価機構は、保険薬局(調剤薬局)における医療安全の確保・向上も重要事業目的の1つに据え、全国の薬局を対象に「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)を収集する「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」も展開しています。
その一環として、ヒヤリ・ハット事例の中から、医療安全確保のためにとりわけ有益な情報を「共有すべき事例」として定期的にピックアップ・公表しています(最近の事例に関する記事はこちらとこちら)。今般、新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。
1つ目は、薬剤師が専門性を発揮するとともに、患者とコミュニケーションをとって「正しい処方内容」へと修正できた好事例です。
腎性貧血の80歳代患者に、初めて腎性貧血治療薬「ダーブロック錠2mg」が30日分処方されました。本剤の添付文書には「投与開始後はヘモグロビン濃度が目標範囲で安定するまで2週間に1回程度ヘモグロビン濃度を確認すること」との記載があります。患者は2週間後の検査について処方医から説明されていなかったため、薬剤師が処方医に確認を行った結果、処方日数が「30日分」から「14日分」に変更となり、「14日後に検査を行うため医療機関を受診する」旨の指示が患者になされました。
透析患者では代表的な「腎性貧血」治療が重要となりますが、2019年に経口の「腎性貧血治療薬」(HIF-PH阻害薬)が登場しています。ダーブロック錠もその1つですが、登場から日が浅いために本剤への十分な知識を持たない医師も少なくありません。そこで薬剤の専門家である薬剤師の知識・スキルが重要となってきます。HIF-PH阻害薬では、「投与中のヘモグロビン濃度の検査頻度」「ヘモグロビン濃度の急激な上昇に対する注意」「血圧のモニタリング」「鉄欠乏時の鉄剤の投与」などに留意する必要があり、薬剤交付の際には「患者が適切に検査を受ける予定があるか、または受けているかを確認する」必要があること、 さらに検査値を把握し、投与量の妥当性や鉄剤の併用の必要性を検討することも薬剤師の重要な役割であると機構はアドヴァイス。さらにHIF-PH阻害薬を採用する場合は「あらかじめ薬局内で研修会などを行い、薬局スタッフが正しい知識を習得する」「HIF-PH阻害薬を含む処方箋を応需した際に確認すべき内容を整理し、共有しておく」ことが重要とも付言しています。
2つ目は、薬剤師が患者の状況を詳しく把握して医師に処方変更提案を行い、それが受け入れられた好事例です。
70歳代の患者に2型糖尿病治療薬「ルセフィ錠2.5mg」が初めて処方されました。薬剤交付から1週間後に薬局から患者に電話し状況確認を行ったところ「指示通り朝食後に服用していたが口渇と頻尿(夜間4-5回)がある」との訴えがありました。薬局から処方医に服薬情報提供書を提出し「他の血糖降下薬への変更」を提案した結果、機序の異なる2型糖尿病治療薬「レパグリニド錠0.25mg『サワイ』」へ変更となりました。
最初に処方されたルセフィ錠の添付文書には、【重要な基本的注意】として「本剤の利尿作用により多尿・頻尿がみられることがある。体液量が減少することがあるので、適度な水分補給を行うよう指導し、観察を十分に行う。脱水、血圧低下等の異常が認められた場合は、休薬や補液等の適切な処置を行う。特に体液量減少を起こしやすい患者(高齢者や利尿剤併用患者等)においては、脱水や糖尿病性ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖症候群、脳梗塞を含む血栓・塞栓症等の発現に注意する」旨が記載されています。本事例では薬剤師が服薬状況などを聴取することで早期に患者の体調変化に気づくことができました。
機構では「薬機法改正によって、薬剤師には調剤時に限らず、薬剤交付後も継続して患者の薬剤の使用状況や体調の変化などを把握して指導を行うなど薬剤の使用期間を通じて継続的な薬学的管理が求められている」ことを強調しています。
3つ目は、一般用医薬品の購入者・代理人から状況を詳しく聴取し「医療機関受診」を勧奨した好事例です。
ある薬局で口唇ヘルペスの再発治療薬である一般用医薬品「アラセナS」を購入する目的で「使用者の代理人」が来局しました。薬剤師が使用者の症状などを聴取したところ、これまでに「医師による口唇ヘルペスの診断・治療歴 がない」ことがわかった。「医師による口唇ヘルペスの診断・治療を受けていない人」へ同剤の販売はできないことを伝え、医療機関への受診を勧めています。
機構では、▼薬剤師は、要指導医薬品や一般用医薬品が「使用者に適しているか」を判断するために、 店舗で扱っている医薬品について十分な知識を備えておくことが重要である▼要指導医薬品や一般用医薬品の使用で対処できる症状なのかを使用者が判断することは難しく、セルフメディケーションを適切に実施するために、症状に合った医薬品選択や使用上の注意の説明を行うなど必要な支援を行うことが重要である―とアドヴァイスしています。
2015年10月にまとめられた「患者のための薬局ビジョン」では、「かかりつけ薬局・薬剤師が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つべき」旨が強調されています。薬局・薬剤師のかかりつけ機能を強化し、「適正な薬学管理の実現」「重複投薬の是正」など医療の質を向上していくことが求められています(関連記事はこちら)。
高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高く(ポリファーマシー)、厚生労働省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、注意を呼び掛けています。とくに外来医療等では、患者のそばに常に医療従事者がいるわけではないことから、保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要となります(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
こうした考え方を先取りし、2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤が整備され、2020年度改定でその充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)が図られています。
「疑義照会=点数算定」という単純構造ではありません(要件・基準をクリアする必要がある)が、今回の3事例のような薬剤師の素晴らしい取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まり、診療報酬での評価にも結び付くでしょう。
さらに、患者から「あの薬局、あの薬剤師さんは親身になってくれ、お医者さんに問合せまでしてくれる」との良い評判が立つことが、薬局経営の安定化に非常に効果的です。
なお、厚労省は3月31日に通知「『病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方』について」を示しており、病院はもちろん、地域のクリニックや薬局と連携して「ポリファーマシー対策」を進めることの重要性を指摘しています。医療安全確保のためにも「地域連携」が極めて重要です。
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