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GemMed塾 病院ダッシュボードχ 病床機能報告

薬剤師が患者とコミュニケーションとり処方内容改善や重複投薬阻止を実現できた好事例—医療機能評価機構

2021.11.19.(金)

薬剤師が患者と密接なコミュニケーションをとることで、「処方内容の改善」や「重複投薬の阻止」などに結びつけることができた―。

日本医療機能評価機構が先ごろ公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要事例が報告されていることが分かりました(機構のサイトはこちら)。

名称類似薬の取り違えが生じないよう、調剤は「処方箋」ベースに行うことなど徹底を

日本医療機能評価機構は、保険薬局(調剤薬局)における医療安全の確保・向上も重要事業目的の1つに据え、全国の薬局を対象に「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)を収集する「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」も展開しています。

その一環として、ヒヤリ・ハット事例の中から、医療安全確保のためにとりわけ有益な情報を「共有すべき事例」として定期的にピックアップ・公表しています(最近の事例に関する記事はこちらこちら)。先ごろ、新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。

1つ目は、薬剤師をはじめ薬局スタッフが手順通りの確認をせず「誤った薬剤を調剤」してしまった事例です。

以前から泌尿器科より「ベタニス錠50mg」(過活動膀胱における尿意切迫感、頻尿および切迫性尿失禁)が処方されていた70歳代男性患者の処方内容が、今回同じ効能効果の「ベオーバ錠50mg」へ変更になりました。しかし、薬局の事務員は、先頭の文字の「ベ」が同じであったため「前回と同じ処方」と思い込みレセコンに「ベタニス錠50mg」と入力しました。薬剤師は、本来は「処方箋を見て調剤」すべきところ、レセコンと連動して印刷された薬袋を見て「ベタニス錠50mg」をピッキングしてしまいました。薬剤交付時に患者から指摘され、そこで「薬剤の取り違え」に気付いたといいます。

名称類似薬の取り違えは従前より数多く報告されています。機構では、▼レセコンへの入力間違いは、連動して作成される薬袋や薬剤情報提供書等の間違いにもつながるため、レセコン入力内容と 処方箋との突合が必須である▼調剤は、お薬手帳や薬袋、薬剤情報提供書などの2次情報で「処方箋に基づいて行う」ことが基本である▼レセコンへの入力間違いや薬剤取り違えに対する注意喚起を薬局内で行う。名称類似薬剤のリストを作成してスタッフが見える場所に貼ることや、注意事項をラベルにして薬品棚に貼ることなども有効である―などのアドヴァイスを行っています。



2つ目は、薬剤師が患者とコミュニケーションをとり「適切な処方内容」に改善された好事例です。

ある50歳代の女性患者に「ラツーダ錠20mg」(統合失調症治療、双極性障害における鬱症状の改善に用いる)が初めて処方された。処方箋には「1日1回1錠朝食後」との記載がありましたが、薬局薬剤師が患者から「朝食はあまり食べない」ことを聴取しました。ラツーダ錠の吸収は食事の影響を受けやすいことから「食後に服用する」こととなっています。そこで薬剤師が処方医に「患者の朝食の摂取状況」を伝えたところ、用法が「夕食後」に変更となりました。

本事例では、そもそも処方内容に不適切な部分はないものの、薬剤師が患者とのコミュニケーションを通じて「より良い処方内容に改善された」好事例と言えます。患者には「医師には言いにくいが、薬剤師や看護師には伝えやすい」という心理があります。こうしたケースがさらに広まることに期待が集まります。

あわせて機構では「食事の影響を受ける薬剤の一覧表を作成し、患者の生活状況を聴取する際や調製・鑑査を行う際に活用すると良い」ともアドヴァイスしています。



3つ目は、薬剤師が患者とコミュニケーションをとり「重複投薬」に気づいて服用中止に結び付けた好事例です。

ある薬局で、初めて来局した90歳代の患者から、クリニックAの処方箋を応需しました。薬剤交付の際、薬剤師が患者から、次の2点を聴取することができました。
(1)▼イルアミクス配合錠LD「DSPB」(高血圧症治療薬)▼ラベプラゾールナトリウム錠10mg「TCK」(胃潰瘍等の再発抑制などに用いる)—は依然から服用している薬剤である
(2)この他に以前に入院した医療機関Bで処方されている薬剤も服用している

患者がお薬手帳を持参していなかったため、医療機関Bからの処方薬剤を把握するために「患者に電話をする」ことを約束して薬剤を交付しました。その後、患者がお薬手帳を持って来局したため確認すると、半年前から医療機関Bでも「イルアミクス配合錠LD」と「ラベプラゾールナトリウム錠10mg」を処方されていたことが分かりました。薬剤師からクリニックAの処方医に「他医療機関から同じ薬剤が処方されている」ことを伝えたところ、服薬中止の指示を得ることができました。

機構では、▼薬剤師は、日頃から患者に「お薬手帳を一つにまとめる」ことの重要性を伝えるなど、お薬手帳を適切に活用できるようサポートすることが求められる▼口頭でも、医療機関の受診状況を聴取し、お薬手帳に記載された薬剤の「他」に処方された薬剤や一般用医薬品、健康食品・サプリメントを使用していないか丁寧に確認することが必要である▼疑義照会を行い薬剤の重複が解消した後は、患者の体調変化の有無につい てフォローアップを行うことが望ましい―などのアドヴァイスを行っています。





2015年10月にまとめられた「患者のための薬局ビジョン」では、「かかりつけ薬局・薬剤師が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つべき」旨が強調されています。薬局・薬剤師のかかりつけ機能を強化し、「適正な薬学管理の実現」「重複投薬の是正」など医療の質を向上していくことが求められています(関連記事はこちら)。

高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高く(ポリファーマシー)、厚生労働省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、注意を呼び掛けています。とくに外来医療等では、患者のそばに常に医療従事者がいるわけではないことから、保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要となります(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。



こうした考え方を先取りし、2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤が整備され、2020年度改定でその充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)が図られています。

「疑義照会=点数算定」という単純構造ではありません(要件・基準をクリアする必要がある)が、今回の3事例のような薬剤師の素晴らしい取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まり、診療報酬での評価にも結び付くでしょう。

さらに、患者から「あの薬局、あの薬剤師さんは親身になってくれ、お医者さんに問合せまでしてくれる」との良い評判が立つことが、薬局経営の安定化に非常に効果的です。



なお、厚労省は3月31日に通知「『病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方』について」を示しており、病院はもちろん、地域のクリニックや薬局と連携して「ポリファーマシー対策」を進めることの重要性を指摘しています。医療安全確保のためにも「地域連携」が極めて重要です。



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