Generic selectors
Exact matches only
Search in title
Search in content
Search in posts
Search in pages
外来診療 経営改善のポイント 看護必要度シミュレーションリリース

薬剤師は、最新の専門知識と患者・家族からの情報を踏まえ「適切な処方内容か」の確認を—医療機能評価機構

2022.7.7.(木)

患者の生活状況(寝たきりであるなど)を家族から聞き取り、専門知識・情報と照らし合わせて、処方薬が「禁忌」であることを見抜き、さらに代替薬を提案して「適切な処方内容への変更」を実現できた—。

日本医療機能評価機構が7月6日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要事例が報告されていることが分かりました(機構のサイトはこちら)。

ただし、情報は「最新のもの」であることが必要で、「古い情報をもとに不適切な疑義照会」を行ってはならない点にも留意が必要です。

処方医が「徐放性製剤」の特性知らず「粉砕を指示する」ケースもある点に留意を

日本医療機能評価機構は、保険薬局(調剤薬局)における医療安全の確保・向上を目指した、「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」も展開しています。全国の保険薬局を対象に「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)の報告を求め、事例の集積・解析により「再発防止策」の策定を目指すものです。

その一環として、ヒヤリ・ハット事例の中から、医療安全確保のためにとりわけ有益な情報を「共有すべき事例」として定期的にピックアップ・公表しています(最近の事例に関する記事はこちらこちら)。今般、新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。

1つ目は、徐放性製剤について処方医から「粉砕投与」の指示があったため、薬剤師から「粉砕できない旨の説明」「粉砕可能な同薬効の薬剤提案」などを行い、適切な処方内容に変更できた好事例です。

嚥下困難の患者に対し、過活動膀胱における尿意切迫感、頻尿、切迫性尿失禁の治療に用いる「ベタニス錠25mg」が処方され、医師からは「錠剤を粉砕する」旨の指示がありました。しかしベタニス錠25mgは「徐放性製剤」であるため、薬剤師が処方医に疑義照会を行い「粉砕できない」ことを説明したところ、同じ効能・効果を持つ「トビエース錠」へ変更するよう返答がありました。しかしトビエース錠も徐放性製剤であるため、薬剤師が同効薬の「ベオーバ錠50mg」への変更を提案。その結果、「ベオーバ錠50mg」を粉砕することになりました。

「徐放性製剤」は、「製剤からの有効成分放出を遅くすることで、服用回数を減らす。血中の有効成分濃度を一定に長時間保つことにより、副作用を回避する」視点に立って開発・製造されています。粉砕して服用すると、有効成分が想定よりも早く放出されてしまい、目的としている「服用回数の削減」や「血中濃度の安定」などの効果が得られません。さらには「効きすぎなどによる悪影響」も生じてしまいます(関連記事はこちらこちら)。本事例では、処方医において、こうした知識が十分でなかった可能性があります。

なお、機構では、単に「粉砕できません」と伝えるのみならず、事例のように▼粉砕せずに服用できる同成分の他剤形▼粉砕が可能な代替薬▼簡易懸濁法による投与—など様々な提案ができるよう準備しておくことが重要とアドヴァイスしています。



2つ目は、「患者の生活状態」を家族から聴取した結果、処方薬剤が「禁忌」であることを見抜き、疑義照会の際に「患者状態にマッチした薬剤」を提案し、これが主治医に受け入れられた好事例です。

在宅医療を受けている患者に、閉経後骨粗鬆症の治療に用いる「ビビアント錠20mg」が初めて処方されました。薬剤師は、薬剤を取りに来る家族から「患者の日頃の体調や生活状況」などの情報を聴取しており、患者は一日中ベッドで横になっており、食事もベッドの上で取っている状態でした。

ところで「ビビアント錠20mg」の添付文書では、禁忌として「長期不動状態にある患者」が記載されていることから、薬剤師は「薬剤の変更が必要ではないか」と考え、代替薬を検討。この点、同じく骨粗鬆症治療薬の「ビスホスホネート製剤」でも、添付文書の禁忌の項に「服用時に立位あるいは坐位を30分以上保てない患者」との記載されている薬剤があり、当該患者には適さないと考えました。薬剤師が処方医にそうした旨を伝え、「活性型ビタミンD3製剤」を提案した結果、同剤で骨粗鬆症治療の効能・効果が認められている「エディロールカプセル0.5μg」へと変更になりました。

本事例では、家族から「患者の生活状態」を聴取し、自身の専門的知識に照らして「禁忌薬剤の投与を防ぐ」ことにつながったものです。患者・家族等とのコミュニケーション確保が非常に重要なことを再確認できます。

さらに機構では、上記事例と同様に「処方された薬剤が患者に適切ではないと判断し疑義照会を行う際は、問題点を指摘するのみではなく『患者に適した代替薬』を検討して処方医へ情報提供を行うことが望ましい」とアドヴァイスしています。



3つ目は、古い添付文書をもとに不適切な疑義照会を行ってしまった事例です。

患者に慢性心不全や高血圧症治療に用いる「エンレスト錠100mg」1回1錠・1日1回朝食後が初めて処方されました。薬剤の外箱に入っていた添付文書を確認したところ、用法・用量に「1日2回経口投与する」旨が記載されていたことから、薬剤師が処方医に疑義照会。処方医からは「高血圧症に対して処方しているため、処方通りに調剤する」よう返答がありました。その後、参照した添付文書が「改訂前の旧版」であったことが分かり、最新の添付文書を確認したところ「高血圧症の患者に処方する際の用法は1日1回である」ことが確認できました。

薬剤の使用上の注意は、最新知見をもちに「改訂」されることがままあります(関連記事はこちらこちらなど)。したがって最新の添付文書を確認することが重要であり、例えば「医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページで公表されている電子化された添付文書を検索・閲覧する」「医薬品等の容器に記載された符合(GS1バーコード)をスマートフォンなどのアプリ「添文ナビ」(日本製薬団体連合会、医療機器産業連合会、GS1 Japanが協働開発した、医療従事者向けの無料アプリ)で読み取り、閲覧する」などの方法を活用することを機構ではアドヴァイスしています。



薬局・薬剤師には「対物業務」から「対人業務」への移行が求められ、いわゆる「かかりつけ薬局・薬剤師」が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つべきことが重要です(関連記事はこちら)。

とりわけ高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高く(ポリファーマシー)、厚生労働省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、注意を呼び掛けています。とくに外来医療等では、患者のそばに常に医療従事者がいるわけではないことから、保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要となります(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。



こうした考え方を先取りし、2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤が整備され、前回の2020年度改定での充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)、今回の2022年度改定での充実(例えば「調剤料の処方日数に応じた評価の見直し」や「調剤管理料の新設」など)も図られています。

「疑義照会=点数算定」という単純構造ではないものの(要件・基準をクリアする必要がある)、今回の事例のような薬剤師の素晴らしい取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まり、診療報酬での評価にも結び付くでしょう。

さらに、患者から「あの薬局、あの薬剤師さんは親身になってくれ、お医者さんに問合せまでしてくれる」との良い評判が立つことが、薬局経営の安定化に非常に効果的です。



なお、厚労省は昨年(2021年)3月31日に通知「『病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方』について」を示しており、病院はもちろん、地域のクリニックや薬局と連携して「ポリファーマシー対策」を進めることの重要性を指摘しています。医療安全確保のためにも「地域連携」が極めて重要です。



診療報酬改定セミナー2024MW_GHC_logo

【関連記事】

薬剤師が患者とコミュニケーションとり、専門知識も活かして「適切な処方内容」へ変更できた好事例—医療機能評価機構
複数薬効のある「デュロキセチン製剤」、「先発品と後発品」などの重複投薬に留意を—医療機能評価機構
薬局薬剤師が多忙で処方監査がおろそかになり「10倍量の過量投与」を見逃してしまった—医療機能評価機構
薬局薬剤師が患者・付き添い人とコミュニケーションとり、専門知識を発揮し「併用禁忌」など回避—医療機能評価機構
薬局薬剤師が患者とコミュニケーションとり、代替薬をエビデンス添えて提案して禁忌薬剤を回避—医療機能評価機構
薬局薬剤師が疑問を放置せず、処方医に加え病院薬剤部にまで疑義照会し「適切な処方内容への変更」を実現—医療機能評価機構
薬剤師が患者とコミュニケーションとり、専門知識を発揮して「適切な処方内容への変更」を実現—医療機能評価機構
薬剤師が患者とコミュニケーションとり処方内容改善や重複投薬阻止を実現できた好事例—医療機能評価機構
患者の薬剤服用歴を確認し「禁忌薬剤の処方」を食い止めることができた好事例—医療機能評価機構
「名称類似するが異なる薬剤」の処方を患者とのコミュニケーションで把握し、処方変更できた好事例—医療機能評価機構
併用禁忌等の不適切な処方内容を、薬剤師が専門知識・患者からの情報で見抜き、適正内容に変更した好事例—医療機能評価機構
「徐放性製剤の粉砕投与」リスクなどを薬剤師が主治医に説き、適切な処方内容への変更を実現―医療機能評価機構
患者とのコミュニケーションや薬剤服用歴を通じて「骨粗鬆症治療薬」の適正使用(重複回避など)に努めよ―医療機能評価機構
お薬手帳や患者とのコミュニケーション通じて「医薬品の併用禁忌」発見などに努めよ―医療機能評価機構
一般用医薬品販売においても、薬剤師は患者・主治医から情報収集し不適切な薬剤使用防止に努めよ―医療機能評価機構
薬剤師が、患者とのコミュニケーションで副作用発現を察知し、処方変更に結び付けた好事例―医療機能評価機構
薬剤師が、医師の誤処方(薬剤名誤入力、禁忌薬処方)に気づき、適正な処方に結び付けた好事例―医療機能評価機構
医師が気づかなかった「危険な処方変更」を、薬剤師が専門性を発揮して回避し、副作用発生を防止できた好事例―医療機能評価機構
薬剤師が「かかりつけ」機能発揮する好事例、専門知識に加え、患者の状態にも配慮―医療機能評価機構
薬剤師が添付文書を確認し「不適切な薬剤」「併用禁忌の薬剤」処方を阻止した好事例―医療機能評価機構
薬剤師は、患者の検査値など多角的な情報から「副作用の兆候」確認を―医療機能評価機構
お薬手帳は医療従事者が処方内容確認のために使うこともあり、「毎回記録」が重要―医療機能評価機構
メトトレキサート、「休薬期間」「患者の腎機能」などを確認し、適切量等の処方・調剤を―医療機能評価機構
患者からの収集情報に加え、「検査値」を積極的に入手し、それに基づく処方監査を―医療機能評価機構
定期処方薬剤についても患者とコミュニケーションとり、「副作用発現の有無」を確認せよ―医療機能評価機構
薬剤師は添付文書等から「正しい服用方法」など確認し、当該情報を処方医にも共有せよ―医療機能評価機構
薬剤師は診療ガイドライン等通じて「薬物療法の広い知識」身につけ、患者にも丁寧な情報提供を―医療機能評価機構
薬剤師は「薬剤添付文書の確認」「患者の服用歴確認」「医師への既往歴確認」などを―医療機能評価機構
骨粗鬆症治療、外来での注射薬情報なども「お薬手帳」への一元化・集約化を―医療機能評価機構
薬剤師が患者の服用状況、添付文書内容を把握し、医療事故を防止した好事例―医療機能評価機構
薬剤師が患者とコミュニケーションをとり、薬剤の専門的知識を発揮して医療事故を防止した好事例―医療機能評価機構
薬剤師が「患者の処方歴やアレルギー情報」を十分に把握し、医療事故を防止できた好事例―医療機能評価機構
薬剤師が「薬剤の用法用量や特性に関する知見」を活用し、医療事故を防止した好事例―医療機能評価機構
薬剤師が患者とコミュニケーションとり、既往歴や入院予定を把握して医療事故防止―医療機能評価機構
薬剤師が薬剤の添加物を把握し、患者とコミュニケーションをとってアレルギー発現を防止―医療機能評価機構
薬剤の専門家である薬剤師、患者の検査値・添付文書など踏まえ積極的な疑義照会を―医療機能評価機構
高齢患者がPTPシートのまま薬剤を服用した事例が発生、服用歴から「一包化」等の必要性確認を―医療機能評価機構
薬剤師の疑義照会により、薬剤の過量投与、類似薬の重複投与を回避できた好事例―医療機能評価機構
薬剤師が多職種と連携し、薬剤の過少・過量投与を回避できた好事例―医療機能評価機構
薬剤師が患者の訴え放置せず、メーカーや主治医に連絡し不整脈など発見できた好事例―医療機能評価機構
薬剤師が併用禁忌情報等に気づき、処方医に疑義照会した好事例―医療機能評価機構
薬剤師が患者の腎機能低下に気づき、処方医に薬剤の減量を提案した好事例―医療機能評価機構
薬剤師が「検査値から患者の状態を把握」し、重大な副作用発生を防止した好事例―医療機能評価機構
薬剤師も患者の状態を把握し、処方薬剤の妥当性などを判断せよ―医療機能評価機構
複数薬剤の処方日数を一括して変更する際には注意が必要―医療機能評価機構



どの医療機関を受診しても、かかりつけ薬局で調剤する体制を整備―厚労省「患者のための薬局ビジョン」



病院入院前の薬剤状況確認、入院中の処方変更、退院後のフォローなど各段階で「ポリファーマシー対策」を―厚労省
外来や在宅、慢性期性期入院医療など療養環境の特性踏まえ、高齢者への医薬品適正使用を―厚労省
外来・在宅、慢性期医療、介護保険施設の各特性に応じた「高齢者の医薬品適正性」確保を―高齢者医薬品適正使用検討会
医師と薬剤師が連携し、高齢者における薬剤の種類・量の適正化進めよ―高齢者医薬品適正使用検討会

徐放性製剤の粉砕投与で患者に悪影響、薬剤師に「粉砕して良いか」確認を―医療機能評価機構