薬局薬剤師が患者とコミュニケーションとり、代替薬をエビデンス添えて提案して禁忌薬剤を回避—医療機能評価機構
2022.3.9.(水)
薬局薬剤師が、患者とコミュニケーションをとって患者の特性を把握し、またエビデンスを添えて代替薬を処方医に提案することで「禁忌薬剤の回避」が可能となった―。
日本医療機能評価機構が3月3日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要事例が報告されていることが分かりました(機構のサイトはこちら)。
名称類似「配合剤」の取り違えに注意、成分一覧の作成などの工夫も重要
日本医療機能評価機構は、保険薬局(調剤薬局)における医療安全の確保・向上も重要事業の1つに据え、全国の保険薬局を対象に「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)を収集する「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」も展開しています。
その一環として、ヒヤリ・ハット事例の中から、医療安全確保のためにとりわけ有益な情報を「共有すべき事例」として定期的にピックアップ・公表しています(最近の事例に関する記事はこちらとこちら)。今般、新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。
1つ目は、▼名称類似▼成分の1つが同じ―配合剤を取り違えてしまった事例です。
ある薬局で「【般】テルミサルタン40mg・ヒドロクロロチアジド配合錠」と記載された処方箋を応需しました(高血圧症治療薬の一般名処方)。 患者が後発医薬品を希望したためテルチア配合錠AP「DSEP」(テルミサルタン+ヒドロクロロチアジド)を調製すべきところ、事務員が誤ってテラムロ配合錠AP「DSEP」をピッキングした。同じ高血圧症治療薬ですが、こちらは「テルミサルタン+アムロジピンベシル酸塩」の配合錠で処方箋とは異なる医薬品です。鑑査者が薬剤の取り違えに気付き、事務員に伝え正しい薬剤と交換することができました。
本事例では、▼両剤ともに「テルミサルタン」を40mg含有する配合剤であること▼名称が「テ〇〇〇」と類似ていること―から取り違えたものと考えられます。
機構では、▼配合剤が処方された際は、レセコン入力時、調製時、鑑査時のいずれにおいても、選択した薬剤に配合されている複数の有効成分を確認し、処方された薬剤の有効成分や含有量と照合する▼配合剤の一覧表を作成して薬局内で周知する▼調剤監査支援システムなどの導入も検討する▼混雑時の対応について 薬局内で取り決めておく―などの対応法をアドヴァイスしています。
2つ目は、薬剤師が患者とコミュニケーションをとり、また専門性を発揮して「禁忌薬の処方変更」を実現できた好事例です。疑義照会にとどまらず、エビデンスを添えて「代替薬」提案を行った点、変更後に患者に経緯を説明した点なども注目されます。
40歳代の女性患者に膀胱炎の治療のため抗菌剤の「レボフロキサシン錠500mg 1回1錠1日1回夕食後 5日分」が処方されました。薬局の初回質問票で患者が妊娠を希望していることが分かったため詳細を確認すると「現在不妊治療を行っており妊娠している」可能性がありました。ところでレボフロキサシン錠の添付文書では、【禁忌】として「妊婦または妊娠している可能性のある女性」が記載されているため、薬剤師が処方医に疑義照会。その際、愛知県薬剤師会が発行している「妊娠・授乳と薬」対応 基本手引き(改訂2版)を参考にして「代替薬を提案」したところ、抗菌剤の「セフカペンピボキシル塩酸塩錠 100mg 1回1錠1日3回毎食後」へ変更となりました。患者には薬剤師から「薬剤が変更になった経緯」について説明がなされています。
機構では、▼妊娠に関する情報は、初回質問票や薬剤服用歴だけでなく「最新の状況」を「直接患者に確認する」ことが重要である▼妊婦または妊娠している可能性のある女性に「禁忌」の薬剤が処方された際は、妊娠の可能性の 有無だけではなく「患者が妊娠を希望しているか」「不妊治療を行っているか」などの情報も丁寧に確認する必要がある▼患者が妊娠等について説明しやすいよう「薬剤の適正使用に必要な情報である」「待合室に妊娠と薬剤との関係を掲示する」「薬局内をプライバシー配慮構造にする」などの環境を整える―ことも重要であるとアドヴァイスしています。
3つ目は、薬剤師が患者の背景などを聴取し、処方医に疑義照会を行い「患者の希望に沿った処方内容」への適正化が図られた好事例です。
患者に口内炎等治療薬の「オルテクサー口腔用軟膏0.1%」が処方されました。薬剤を交付する際、患者から「自分はプロ野球選手であるが、処方された薬剤がアンチ・ドーピング規程の禁止物質に該当しないか」などの質問を受けました。薬剤師が日本アンチ・ドーピング機構のホームページを確認したところ「2021年3月22日付で世界アンチ・ドーピング機構が競技会時における糖質コルチコイドの口腔内局所使用を禁止した」ことが分かったため処方医に疑義照会。当該薬剤が削除になりました。
機構は、▼禁止物質は一般用医薬品等にも含まれているため「一般用医薬品等を販売する際」にも、薬剤師は購入者がアスリートであるかを確認し「うっかりドーピング」の防止に関わるべきである▼最新の日本アンチ・ドーピング規程、禁止表国際基準に基づいて情報を確認することが重要である―旨の追加アドヴァイスを行っています。
薬局・薬剤師には「対物業務」から「対人業務」への移行が求められ、いわゆる「かかりつけ薬局・薬剤師」が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つべきことが重要です(関連記事はこちら)。
とりわけ高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高く(ポリファーマシー)、厚生労働省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、注意を呼び掛けています。とくに外来医療等では、患者のそばに常に医療従事者がいるわけではないことから、保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要となります(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
こうした考え方を先取りし、2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤が整備され、前回の2020年度改定での充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)、今回の2022年度改定での充実(例えば「調剤料の処方日数に応じた評価の見直し」や「調剤管理料の新設」など)も図られています。
「疑義照会=点数算定」という単純構造ではないものの(要件・基準をクリアする必要がある)、今回の事例のような薬剤師の素晴らしい取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まり、診療報酬での評価にも結び付くでしょう。
さらに、患者から「あの薬局、あの薬剤師さんは親身になってくれ、お医者さんに問合せまでしてくれる」との良い評判が立つことが、薬局経営の安定化に非常に効果的です。
なお、厚労省は昨年(2021年)3月31日に通知「『病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方』について」を示しており、病院はもちろん、地域のクリニックや薬局と連携して「ポリファーマシー対策」を進めることの重要性を指摘しています。医療安全確保のためにも「地域連携」が極めて重要です。
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