薬局薬剤師が多忙で処方監査がおろそかになり「10倍量の過量投与」を見逃してしまった—医療機能評価機構
2022.4.15.(金)
薬局薬剤師が、専門知識を発揮し「薬剤の用法」と「処方内容」とのミスマッチに気づき、適切な処方内容への変更を実現できた―。
一方、薬局薬剤師が多忙で処方監査がおろそかになり「過量投与」に気づくことができなかった。また医療用医薬品と一般用医薬品との相互作用に最初から気づくことができなかった―。
日本医療機能評価機構が4月13日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要事例が報告されていることが分かりました(機構のサイトはこちら)。
多忙な場合、薬剤交付後の確認で「調剤の正しさを検証する」などの次善対応も検討を
日本医療機能評価機構は、保険薬局(調剤薬局)における医療安全の確保・向上も重要事業の1つに据え、全国の保険薬局を対象に「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)を収集する「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」も展開しています。
その一環として、ヒヤリ・ハット事例の中から、医療安全確保のためにとりわけ有益な情報を「共有すべき事例」として定期的にピックアップ・公表しています(最近の事例に関する記事はこちらとこちら)。今般、新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。
1つ目は、医療用医薬品と一般用医薬品(市販薬)との相互作用に関連する事例です。
抗菌剤「ミノサイクリン塩酸塩錠」を交付した患者から、薬局に宛てて「片頭痛があるため市販薬のバファリンEXを服用したいが、併用して問題ないか」との電話問い合わせがありました。薬剤師は「バファリンEXにはロキソプロフェンナトリウム水和物が含まれている」ことだけを確認し、患者へ「併用は問題ない」と回答しました。電話を切ったのち、電子薬歴の併用薬にバファリンEXを登録したところ、 バファリンEXの有効成分には乾燥水酸化アルミニウムゲルが含まれており「ミノサイクリン塩酸塩錠と相互作用がある」ことが分かりました。薬剤師は患者に電話し「両薬剤を同時に服用せず、服用間隔を2時間以上空ける」ように伝えました。
この薬局では一般用医薬品(市販薬)の取り扱いが少なく「一般用医薬品の知識」が不足しており、当初「主成分」のみを見て回答をしてしまいしました。ただし、すぐに正しい情報を折り返し伝達しており事なきを得ています。
機構では、▼一般用医薬品との飲み合わせを尋ねられた際は、主成分だけでなく「他の有効成分」や「添加物」まで漏れなく確認する▼電子薬歴に併用薬を登録し、成分の重複や相互作用がないかチェックを行う▼市販品には多くの種類があり、成分が異なるために、「正確な商品名」をききとる▼「ミネラル成分を含有する一般用医薬品」や「ミネラル成分との相互作用に注意が必要な医療用医薬品」の一覧表を作成し、調剤室内で掲示して情報を共有する―などの対策を検討するようアドヴァイスしています。
2つ目は、薬剤師が専門知識を発揮して「処方された薬剤の用法」と「処方内容」とに齟齬があることに気づき、「適切な処方内容への変更」を実現できた好事例です。
初めて来局した患者に鎮痛剤「【般】オキシコドン錠10mg・1回1錠・1日2回」が処方されました。後発品の「オキシコドン錠10mg『第一三共』」であれば「1日量を4回に分割経口投与する」ことから、薬剤師が「薬剤と用法が一致しない」と判断し処方医で疑義照会を行いました。その結果、処方医は「徐放錠を処方するつもりであった」ことが分かりました。薬剤師が「徐放錠であれば複数の薬剤がある」ことを処方医へ情報提供した説明したところ、「【般】オキシコドン徐放錠10mg(乱用防止製剤)・1回1錠・1日2回)へ変更になりました。患者に「オキシコドン徐放錠10mgNX『第一三共』」が交付されています。
事例の背景には、処方医が「麻薬に指定されているオキシコドン錠には普通錠と徐放錠があり、それぞれに乱用防止製剤(名称に「NX」が付されている)がある」ことを知らなった点があります。
機構では、▼オキシコドン製剤が一般名処方された場合は、「普通錠」か、「徐放錠」か、「乱用防止製剤」であるか否かを判読し、適正な薬剤を選択して調剤し、各製剤の特性を把握したうえで処方監査を行う▼事例のように「処方医が剤形の選択を誤って処方した可能性がある」場合は、疑義照会を行う際に薬剤の特性や違いを分かりやすく伝えて確認する―ことが重要であるとアドヴァイスしています。
3つ目は、小児患者に10倍量の過量投与が行われてしまった事例です。薬剤師の処方監査が行われず、過量処方に気づくことが適いませんでした。
処方医は小児患者に対し、自閉症スペクトラム症に伴う易刺激性の治療に用いる「リスペリドン」として0.5mg(リスパダール細粒1% 0.05g)を処方するつもりでしたが、オーダリングシステムの入力時に誤って「0.5g」と入力してしまい、誤りに気付かないまま処方箋が発行されました。薬局薬剤師は処方箋どおりに薬剤を調製し、家族に交付しました。その際、薬局には薬剤師が1人しかおらず、また処方医が専門医であったことなどから「問題ないであろう」と甘く考えてしまい、「処方監査」がおろそかになってしまったようです(疑義照会の必要性に気づかなかった)。患者が薬剤を2回服用した後に傾眠の症状がみられたため、医療機関を受診したところ「過量投与」が判明し、近隣医療機関に緊急入院となりました。
本事例は小児患者に対し、誤って「10倍量のリスパダール細粒」が投与されてしまった事例です。こうした「散剤の投与量誤り」事例は頻発しています(関連記事はこちら)。
機構では「ハイリスク薬の過量処方は患者に重大な影響を与える可能性がある。薬剤師による処方監査の重要性は大きい」とし、▼小児患者に処方された薬剤を調剤する際は「年齢」「体重」を確認し、「処方量が適正であるか」の処方監査を必ず行う▼1人で調剤を行わなければならない場合など、業務手順に沿った作業ができない場合には「薬剤交付後に処方内容と添付文書等の情報を照合し、正しく調剤を行ったかを再検証」する▼あらかじめ薬局内で「正しい調剤」ができるよう無理のない業務手順を定め、薬局内で周知し遵守する―という基本に立ち返るようアドヴァイスしています。
薬局・薬剤師には「対物業務」から「対人業務」への移行が求められ、いわゆる「かかりつけ薬局・薬剤師」が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つべきことが重要です(関連記事はこちら)。
とりわけ高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高く(ポリファーマシー)、厚生労働省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、注意を呼び掛けています。とくに外来医療等では、患者のそばに常に医療従事者がいるわけではないことから、保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要となります(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
こうした考え方を先取りし、2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤が整備され、前回の2020年度改定での充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)、今回の2022年度改定での充実(例えば「調剤料の処方日数に応じた評価の見直し」や「調剤管理料の新設」など)も図られています。
「疑義照会=点数算定」という単純構造ではないものの(要件・基準をクリアする必要がある)、今回の事例のような薬剤師の素晴らしい取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まり、診療報酬での評価にも結び付くでしょう。
さらに、患者から「あの薬局、あの薬剤師さんは親身になってくれ、お医者さんに問合せまでしてくれる」との良い評判が立つことが、薬局経営の安定化に非常に効果的です。
なお、厚労省は昨年(2021年)3月31日に通知「『病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方』について」を示しており、病院はもちろん、地域のクリニックや薬局と連携して「ポリファーマシー対策」を進めることの重要性を指摘しています。医療安全確保のためにも「地域連携」が極めて重要です。
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