「製剤量」と「成分量」とを誤認して、薬剤を過量投与してしまう医療事故が散発―医療機能評価機構
2022.2.15.(火)
薬剤(散剤)を投与する際、「製剤量」と「成分量」とを誤認して過量投与してしまった―。
日本医療機能評価機構が2月15日に公表した「医療安全情報 No.183」から、こうした事例(医療事故)が2015年1月1日から昨年(2021年)12月末までの間に8件報告されていることが分かりました(機構のサイトはこちらこちら)。
処方オーダ時や診療情報提供時などには「製剤量」なのか「成分量」なのかの明示を
日本医療機能評価機では、全国の医療機関から医療事故やヒヤリ・ハット事例(事故には至らなかったものの担当医療スタッフ等が「ヒヤリ」とした、「ハッ」とした事例)の報告を受け、背景等を詳しく分析して「事故等の再発防止に向けた提言」等を定期的に行っています【医療事故情報収集等事業】(国立病院や特定機能病院などでは事故等の報告が義務付けられている、2021年度の第1四半期(2021年4―6月)の報告書に関する記事はこちら)。
また事故事例などの中から「特段の注意が必要と考えられる事例」(繰り返し発生している医療事故など)をピックアップ。その内容を簡潔に整理し「医療安全情報」として毎月公表しています。医療現場に「こうした事故が頻発しているので最大限の注意を払ってほしい」と強く呼びかけるものです。
【最近の医療安全情報に関する記事】
▽統合失調症等の治療薬「セレネース」と、麻酔薬「サイレース」との取り違え事例
▽腔鏡下手術で切除した臓器・組織を体外に取り出し忘れ、再手術を実施しなければならなかった事例
▽メイロン静注7%「20mL」とメイロン静注7%「250mL」を誤って処方した事例
▽病理検体を「他患者の検体が入った容器」に誤って入れてしまった事例
▽新生児・乳児の沐浴時に、湯の温度が高すぎて熱傷を生じさせてしまった事例
▽看護師がPTPシートのまま薬剤を患者に手渡し、患者が誤飲してしまった事例
▽人工呼吸器の回路接続が外れ、あるいは緩んでおり、患者が呼吸難等に陥ってしまった事例
▽インスリン投与後、経腸栄養剤のルート未接続や開始忘れなどにより、患者が低血糖を来してしまった事例
▽輸液ポンプなどの流量入力を誤り、医師による指示の「10倍の速度」で薬剤を投与してしまった事例
▽ガイドライン遵守せず免疫抑制・化学療法を実施し、B型肝炎ウイルスが再活性化してしまった事例
▽咀嚼機能低下者にパン食を誤提供し、窒息させてしまった事例
▽服用薬剤(持参薬)の処方・指示が漏れ、既往症が悪化した事例
▽酸素ボンベのバルブ開栓確認を怠足り患者が低酸素に陥った事例
▽メトトレキサートの過剰投与に伴う骨髄抑制
▽「事前に患者が選択・同意した術式」と異なる術式による手術の実施
▽誤った情報登録によるアレルギーのある薬剤の投与
▽IVH実施時のガイドワイヤー回収忘れ
▽患者移乗時の転落
▽パルスオキシメータープルーブの長時間装着による熱傷事例
▽気管・気管切開チューブの誤接続事例
▽徐放性製剤を粉砕した事例
▽立位での浣腸による直腸損傷事例
▽鎮静薬の誤調整事例
▽小児用ベッドから転落事例
▽電子カルテの誤入力
▽ガーゼの体内残存2
▽ガーゼの体内残存1
2月15日に公表された「医療安全情報No.183」では「製剤量と成分量の間違い」事例がテーマとなりました。
ある病院では、散剤の処方オーダは「成分量で行う」ことになっていました。しかし、医師は散剤に「製剤量」と「成分量」とがあることを知らず、持参薬から院内の処方に切り替える際、診療情報提供書の抗てんかん剤「アレビアチン散10% 2g/日 1日2回 朝夕食後」の記載を見て、「アレビアチン散10% 2000mg/日 1日2回 朝夕食後」とオーダしました。薬剤師から疑義照会があった際にも、医師は診療情報提供書を確認し「2g」と記載があったので 「2000mg」でよいと思い、そのまま調剤するよう伝えました。薬剤師は、「成分量2000mg/日(製剤量20g/日)」を調製して払い出しました。看護師は薬包に入った粉の量が多いことを疑問に思わず患者に投与。2日後、病棟薬剤師が過量投与に気付きました。
別の病院では上級医Aが患者に白血病治療薬「ロイケリン散10%」を投与することとなりました。以前に勤務していた医療機関では「製剤量」でオーダしていたため、製剤量を意図して150mgを処方するよう医師Bに指示しました。当該医療機関で「成分量」でオーダすることになっており、医師Bは指示された通り150mgと入力しました。薬剤師から疑義照会があった際、医師Bは「上級医Aの指示通りに処方したので、そのまま調剤する」よう伝えました。患者に「成分量」として 1日15mgが処方されるべきところ「150mg」が10日間投与されてしまいました。
薬剤は、「有効成分」と「添加剤」とで構成され、両者を合わせた重量等が「製剤量」、有効成分のみの重量等が「成分量」と大きくイメージすることができます(下図のように、さらに詳細な定義がある点に留意)。
例えばX1gという散剤が「有効成分xが500mg」+「添加剤が500mg」で構成されていた場合、製剤量は1g(1000mg)、成分量は500mgとなります。両者を混同すれば「過量投与」や「過少投与」が生じてしまうことは指摘するまでもありません。
機構では、▼処方オーダ画面や処方箋に「製剤量」なのか「成分量」なのかを明示する▼散剤には「製剤量」と「成分量」があることを医師・看護師に教育する▼施設間の診療情報提供書等による情報共有の際には、散在の処方に関して「製剤量」なのか「成分量」なのかを明示する―などの対応をとることをアドヴァイスしています。
【関連記事】
腔鏡下手術で切除した臓器・組織を体外に取り出し忘れ、再手術を実施しなければならい事故が頻発―医療機能評価機構
メイロン静注7%「20mL」とメイロン静注7%「250mL」を誤って処方し、患者が心不全等に陥る事故散発―医療機能評価機構
病理検体を「他患者の検体が入った容器」に誤って入れてしまう事故が散発―医療機能評価機構
抗がん剤の過量投与、検査結果・患者状態を勘案しない抗がん剤投与などの事故が頻発―医療機能評価機構
新生児・乳児の沐浴時、湯の温度が高すぎて「熱傷」を生じさせてしまう事故が発生―医療機能評価機構
看護師が薬剤をPTPシートのまま渡し、患者がシートのまま誤飲する事例が依然として頻発―医療機能評価機構
人工呼吸器の回路接続が外れ、患者が呼吸難に陥る事例が頻発―医療機能評価機構
患者の持参薬をスタッフが十分把握等せず、「投与継続しなかった」医療事故が発生―日本医療機能評価機構
ダブルチェックが形骸化し、「複数人でのチェック」になっていないケースも少なくない点に最大限の留意を―医療機能評価機構
インスリン投与後、経腸栄養剤のルート未接続等で患者が「低血糖」を来す事例散発―医療機能評価機構
輸液流量を10倍に誤設定する医療事故散発、輸液ポンプ画面と指示流量を照合し「指差し・声出し確認」を―医療機能評価機構
「自身が感染してしまうかもしれない」との恐怖感の中でのコロナ対応、普段なら生じない医療事故の発生も―医療機能評価機構
ガイドライン遵守せず免疫抑制・化学療法を実施し、B型肝炎ウイルスが再活性化する医療事故―医療機能評価機構
咀嚼、嚥下機能の低下した患者に誤ってパン食を提供し、患者が窒息してしまう医療事故散発―医療機能評価機構
入院時に持参薬の処方・指示が漏れ、患者の既往症が悪化してしまう医療事故散発―医療機能評価機構
酸素ボンベのバルブ開栓確認を怠り、患者が低酸素状態に陥る事例が散発―医療機能評価機構
「メトトレキサート製剤の過剰投与による骨髄抑制」事故が後を絶たず―医療機能評価機構
確認不十分で、患者の同意と「異なる術式」で手術を実施してしまう事例が散発―医療機能評価機構
正しい方法で情報登録せず、アレルギーある薬剤が投与されてしまう医療事故が散発―医療機能評価機構
中心静脈カテーテル挿入時にガイドワイヤー回収を忘れ、患者体内に残存する事例が散発―医療機能評価機構
患者の移乗時にベッド等が動き「患者が転落」する事例散発、ベッドやストレッチャーの固定確認等の徹底を―医療機能評価機構
パルスオキシメータプルーブの長時間装着で熱傷、定められた時間で装着部位変更を―医療機能評価機構
気管・気管切開チューブ挿入中の「患者の吸気と呼気の流れ」、十分な理解を―医療機能評価機構
徐放性製剤の粉砕投与で患者に悪影響、薬剤師に「粉砕して良いか」確認を―医療機能評価機構
立位での浣腸実施は「直腸損傷」のリスク大、患者にも十分な説明を―医療機能評価機構
鎮静のための注射薬、「医師立ち会い」下で投与し、投与後の観察を確実に実施せよ―医療機能評価機構
小児用ベッドからの転落事故が散発、柵は一番上まで引き上げよ―医療機能評価機構
電子カルテに誤った患者情報を入力する医療事故が散発、氏名確認の徹底を―医療機能評価機構
X線画像でも体内残存ガーゼを発見できない事例も、「ガーゼ残存の可能性」考慮した画像確認を―医療機能評価機構
ガーゼカウント合致にも関わらず、手術時にガーゼが患者体内に残存する医療事故が頻発―医療機能評価機構
病理検査報告書を放置、がん早期治療の機会逃す事例が頻発―医療機能評価機構
手術前に中止すべき薬剤の「中止指示」を行わず、手術が延期となる事例が頻発―医療機能評価機構
患者を車椅子へ移乗させる際、フットレストで外傷を負う事故が頻発―医療機能評価機構
酸素ボンベ使用中に「残量ゼロ」となり、患者に悪影響が出てしまう事例が頻発―医療機能評価機構
腎機能が低下した患者に通常量の薬剤を投与してしまう事例が頻発―医療機能評価機構
検体を紛失等してしまい、「病理検査に提出されない」事例が頻発―医療機能評価機構
薬剤師からの疑義照会をカルテに反映させず、再度、誤った薬剤処方を行った事例が発生―医療機能評価機構
膀胱留置カテーテルによる尿道損傷、2013年以降に49件も発生―医療機能評価機構
検査台から患者が転落し、骨折やクモ膜下出血した事例が発生―医療機能評価機構
総投与量上限を超えた抗がん剤投与で、心筋障害が生じた事例が発生―医療機能評価機構
画像診断報告書を確認せず、悪性腫瘍等の治療が遅れた事例が37件も発生―医療機能評価機構
温罨法等において、ホットパックの不適切使用による熱傷に留意を―医療機能評価機構
人工呼吸器、換気できているか装着後に確認徹底せよ-医療機能評価機構
手術場では、清潔野を確保後すぐに消毒剤を片付け、誤投与を予防せよ―医療機能評価機構
複数薬剤の処方日数を一括して変更する際には注意が必要―医療機能評価機構
胸腔ドレーン使用に当たり、手順・仕組みの教育徹底を―医療機能評価機構
入院患者がオーバーテーブルを支えに立ち上がろうとし、転倒する事例が多発―医療機能評価機構
インスリン1単位を「1mL」と誤解、100倍量の過剰投与する事故が後を絶たず―医療機能評価機構
中心静脈カテーテルが大気開放され、脳梗塞などに陥る事故が多発―医療機能評価機構
併用禁忌の薬剤誤投与が後を絶たず、最新情報の院内周知を―医療機能評価機構
脳手術での左右取り違えが、2010年から11件発生―医療機能評価機構
経口避妊剤は「手術前4週以内」は内服『禁忌』、術前に内服薬チェックの徹底を―医療機能評価機構
永久気管孔をフィルムドレッシング材で覆ったため、呼吸困難になる事例が発生―医療機能評価機構
適切に体重に基づかない透析で、過除水や除水不足が発生―医療機能評価機構
経鼻栄養チューブを誤って気道に挿入し、患者が呼吸困難となる事例が発生―医療機能評価機構
薬剤名が表示されていない注射器による「薬剤の誤投与」事例が発生―医療機能評価機構
シリンジポンプに入力した薬剤量や溶液量、薬剤投与開始直前に再確認を―医療機能評価機構
アンプルや包装の色で判断せず、必ず「薬剤名」の確認を―医療機能評価機構
転院患者に不適切な食事を提供する事例が発生、診療情報提供書などの確認不足で―医療機能評価機構
患者の氏名確認が不十分なため、誤った薬を投与してしまう事例が後を絶たず―医療機能評価機構
手術などで中止していた「抗凝固剤などの投与」、再開忘れによる脳梗塞発症に注意―医療機能評価機構
中心静脈カテーテルは「仰臥位」などで抜去を、座位では空気塞栓症の危険―医療機能評価機構
胃管の気管支への誤挿入で死亡事故、X線検査や内容物吸引などの複数方法で確認を―日本医療機能評価機構
パニック値の報告漏れが3件発生、院内での報告手順周知を―医療機能評価機構
患者と輸血製剤の認証システムの適切な使用などで、誤輸血の防止徹底を―医療機能評価機構
手術中のボスミン指示、濃度と用法の確認徹底を―日本医療機能評価機構
リハビリ実施中の転棟等による外傷、全身状態の悪化などの医療事故が頻発、病棟とリハビリ室の連携体制など点検を―医療機能評価機構
医療安全の確保、「個人の能力」に頼らず「病院全体での仕組み構築」を―日本医療機能評価機構
輸液ポンプ不具合で「空になってもアラームが鳴らず、患者に空気が送られてしまう」医療事故に留意を―医療機能評価機構
入院患者の持参薬だけでなく、おくすり手帳・診療情報提供書も活用して「現在の処方内容」を正確に把握せよ―医療機能評価機構
電子カルテで「患者にアレルギーのある薬剤」情報を徹底共有するため、一般名での登録を―医療機能評価機構
鏡視下手術で、切除した臓器・組織を体内から回収し忘れる事例が散発、術場スタッフが連携し摘出標本の確認徹底を―医療機能評価機構
小児への薬剤投与量誤り防止など、現時点では「医療現場の慎重対応」に頼らざるを得ない―医療機能評価機構
車椅子への移乗時等にフットレストで下肢に外傷を負う事故が頻発、介助方法の確認等を―医療機能評価機構
メトホルミン休薬せずヨード造影剤用いた検査を実施、緊急透析に至った事故発生―医療機能評価機構
2018年に報告された医療事故は4565件、うち7%弱で患者が死亡、PFM導入などの防止策を―日本医療機能評価機構
予定術式と異なる手術を実施し再手術不能のケースも、患者を含めた関係者間での情報共有徹底を―医療機能評価機構
抗がん剤の副作用抑えるG-CSF製剤、投与日数や投与量の確認を徹底せよ―医療機能評価機構
小児への薬剤投与量誤り防止など、現時点では「医療現場の慎重対応」に頼らざるを得ない―医療機能評価機構
2017年に報告された医療事故は4095件、うち8%弱の318件で患者が死亡―日本医療機能評価機構
2017年10-12月、医療事故での患者死亡は71件、療養上の世話で事故多し―医療機能評価機構
誤った人工関節を用いた手術事例が発生、チームでの相互確認を―医療機能評価機構
2016年に報告された医療事故は3882件、うち338件で患者が死亡―日本医療機能評価機構
手術室などの器械台に置かれた消毒剤を、麻酔剤などと誤認して使用する事例に留意―医療機能評価機構
抗がん剤投与の速度誤り、輸液ポンプ設定のダブルチェックで防止を―医療機能評価機構
2016年7-9月、医療事故が866件報告され、うち7%超で患者が死亡―医療機能評価機構
2015年に報告された医療事故は3654件、うち1割弱の352件で患者が死亡―日本医療機能評価機構
2016年1-3月、医療事故が865件報告され、うち13%超は患者側にも起因要素―医療機能評価機構
15年4-6月の医療事故は771件、うち9.1%で患者が死亡―医療機能評価機構
14年10-12月の医療事故は755件、うち8.6%で患者死亡―医療事故情報収集等事業