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新型コロナ対策 症例Scope

ダブルチェックが形骸化し、「複数人でのチェック」になっていないケースも少なくない点に最大限の留意を―医療機能評価機構

2021.6.30.(水)

昨年(2020年)10-12月に報告された医療事故は1168件、ヒヤリ・ハット事例は6448件であった。医療事故のうち5.8%では患者が死亡しており、9.0%では死亡にこそ至らないまでも「障害残存」の可能性が高い—。

こういった状況が、日本医療機能評価機構が3月26日に公表した「医療事故情報収集等事業」の第64回報告書(昨年(2020年)10-12月が対象)から明らかになりました(機構のサイトはこちら)(前四半期(2020年10-12月)を対象にした第64回報告書に関する記事はこちら)。

また報告書では、(1)研修医に関連した事例(2)サイレース静注とセレネース注を取り違えて投与した事例(3)メイロン静注7%/8.4%250mL製剤を誤って処方した事例(4)発声機能付き気管切開チューブ・スピーチバルブの取り扱いや管理に関連した事例―の4テーマについて詳細に分析しています。その中で「ダブルチェックの方法が曖昧になり、複数人での確認となっていない状況が多々ある」ことが判明しています。基本に戻った確認ルールの策定、ルールの遵守について、今一度院内で確認する必要があります。

2021年1-3月、治療・処置や薬剤に関連する医療事故が増加している点に留意を

今年(2021年)1-3月に報告された医療事故1097件を、事故の程度別に見ると▼死亡:93件・事故事例の8.5%(前四半期に比べて2.7ポイント増)▼障害残存の可能性が高い:70件・同6.4%(同2.6ポイント減)▼障害残存の可能性が低い:291件・同26.5%(同1.5ポイント減)▼障害残存の可能性なし:309件・同28.2%(同2.1ポイント増)―などとなりました。前四半期に比べて、「死亡」事例が増加している点が気になります。中長期的に見ていく必要性はもちろんですが、改めて「事故防止に向けた対策」の見直しなどをする必要があるでしょう。

医療事故の概要を見ると、最も多いのは「治療・処置」375件・事故事例の34.2%(前四半期に比べて3.0ポイント増)。次いで「療養上の世話」337件・同30.7%(3.2ポイント減)、薬剤」96件・同8.8%(同0.6ポイント増)、「ドレーン・チューブ」76件・同6.9%(同1.9ポイント減)などと続いています。全四半期に比べて「治療・処置」「薬剤」に関する事故が増加しています。新型コロナウイルス感染症の影響もあり、診療現場でさまざまな「変革」が生じていることが、事故内容の変化にもつながっている可能性があります。さまざまな医療行為の場で「事故の可能性がある」点を再認識し、対策を進める必要があります。

医療事故について、治療・処置関連、薬剤関連が増加している(医療事故情報収集等事業65回報告書1 210628)

ヒヤリ・ハット事例、実施していれば重大事故につながったケースが増加

ヒヤリ・ハット事例に目を移すと、今年(2021)年1-3月の報告件数は8240件。内訳を見ると、依然として「薬剤」関連の事例が最も多く2769件・ヒヤリ・ハット事例全体の33.6%(前四半期と比べて4.1ポイント減)、次いで「療養上の世話」1629件・同19.8%(同0.9ポイント増)、「ドレーン・チューブ」1290件・同15.7%(同0.8ポイント増)などとなっています。

ヒヤリ・ハット事例のうち医療機関での実施がなかった5757件について、「仮に実施してしまっていた場合の患者への影響度」を見ると、「軽微な処置・治療が必要、もしくは処置・治療が不要と考えられる」事例が95.3%(前四半期から0.8ポイント減)と、ほとんどを占めている状況に変化はありません。

ただし、「濃厚な処置・治療が必要と考えられる」ケースも4.1%(同1.1ポイント増)、「死亡・重篤な状況に至ったと考えられる」ケースも0.6%(同0.3ポイント減)あります。一部ですが「一歩間違えば重大な影響が出ていた」事例が生じており、また前四半期より増加している点を重視し、全ての医療機関において院内のチェック体制を改めて点検しなおす必要があります。

ヒヤリ・ハット事例の概要と影響度(医療事故情報収集等事業65回報告書2 210628)



その際には、Gem Medが繰り返しお伝えしているとおり「個人の注意だけで医療事故やヒヤリ・ハット事例を防止することはできない」という点に留意する必要があります。どれだけ注意深く業務を行っても、人は必ずミスを犯します。とりわけ、極めて多忙な業務環境にある医療従事者は、ミスが生じやすい状況に置かれていると言えます。こうした中では、「ペナルティの導入」などには意味がなく(効果がない)、かえって弊害のほうが大きくなると危機管理の専門家は指摘します。

「人はミスを犯すもの」という前提に立ち、「必ず複数人でチェックする」「ミスが生じる前に、あるいは生じた場合には、すぐに気付け、また包み隠さず報告できるような仕組みを構築する」「院内のルールを遵守し、医療安全を確保し、医療の質を向上させようという、風土を作り上げる」など、医療機関全体で対策を講じることが必要です。ただし、後述するように「複数人でのチェック」にも大きな落とし穴がある点に留意が必要です。

ダブルチェック方法が曖昧になり、「複数人での確認」となっていないケースが少なくない

報告書では毎回テーマを絞り、医療事故の再発防止に向けた詳細な分析を行っています。今回は、(1)研修医に関連した事例(2)サイレース静注とセレネース注を取り違えて投与した事例(3)メイロン静注7%/8.4%250mL製剤を誤って処方した事例(4)発声機能付き気管切開チューブ・スピーチバルブの取り扱いや管理に関連した事例―の4テーマについて詳細に分析し、改善策を提示しています。

本稿では、(2)の「サイレース静注とセレネース注との取り違事例」に焦点を合わせ、事故の背景や対策について少し詳しく見てみましょう。

「サイレース」(一般名:フルニトラゼパム)の効能効果は、▼錠剤では不眠症、麻酔前投薬▼注射剤で全身麻酔の導入、局所麻酔時の鎮静—で、剤形で異なります。

「セレネース」(一般名:ハロペリドール)の効能効果は、錠剤、注射剤ともに「統合失調症、そう病」です。

両者は名称が似ていることもあり、2015年1月から今年(2021年)3月までに取り違え事故が7例報告されています。うち6件は「薬剤の取り出し時」であり、すべて「セレネース」を取り出すべきところ、誤って「サイレース」を取り出してしまったものです。

各事例において取り違えた背景を見ると、▼看護師がICU当直医から「セレネース」と口頭指示を受け、サイレース静注2mgを誤って取り出したが、同じ「茶色のアンプル」であったことから誤りに気付かなかった▼両剤は別の保管方法となっていたが、取り出した「サイレース静注」を「セレネース注」と思い込んだ▼看護師は医師の指示を受け、メモに正しく「セレネース」と記載したが、定数配置薬から薬剤を取り出す時に「サイレース静注」を「セレネース注」と思い込んだ▼「セレネース注」投与の指示を受けた看護師が、鍵のかかる薬品庫を確認したところ、そこに「サイレース静注」があり、同様の薬剤と思い込んだ―などです。

サイレースとセレネースの取り違え事故概要(医療事故情報収集等事業65回報告書3 210628)



事例からは「医療従事者個々人の注意を促す」ことでは取り違え防止が極めて困難であることが分かります(例えば「思い込んでいる」人に、誤りに気づくよう促しても意味がない)。このため「ダブルチェック」(複数人でのチェック)などが有用とも思われますが、事故事例の中には実は「ダブルチェックをしていた」ケースが少なくないのです。この点、機構では「院内で決められた薬剤のダブルチェックの方法が曖昧になり、確認になっていない」状況を確認しています。例えば、先にチェックする医療従事者が「次の人もチェックしてくれる」という気持ちでチェックをすれば、十分な確認はなされません。そして、2番目にチェックする医療従事者が「先の人がチェックしているので大丈夫であろう」という気持ちでチェックすれば、2回ともに十分なチェックがなされず、「誤り」が見過ごされてしまうのです。

基本に戻り、「電子カルテのオーダ画面」や「口頭指示の内容を記載したメモ」と「アンプルに記載された薬剤名」を照合する手順を明確にし、遵守することの徹底を改めて求めています。

事故発生医療機関では、こうした事故を防止するために、例えば▼指示簿の見直し▼口頭指示の確認徹底(確認用紙を使用するなど)▼定数配置薬からの取り出し・調整時の確認徹底(薬剤の名称確認は、アンプルに記載された薬剤を「読み上げる」など)▼定数配置薬の整理▼教育▼アンプルに「名称注意」のシール添付—などの対策をとっています。これらも参考に、各医療機関において「自院に最も適した事故防止策」を考えていくことが重要です。

サイレースとセレネースについてメーカーサイドからの取り違え注意の文書が出ている(医療事故情報収集等事業65回報告書4 210628)



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