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GemMed塾 病院ダッシュボードχ 病床機能報告

電子カルテで「患者にアレルギーのある薬剤」情報を徹底共有するため、一般名での登録を―医療機能評価機構

2019.12.30.(月)

今年(2019年)7-9月に報告された医療事故は946件、ヒヤリ・ハット事例は6236件であった。医療事故のうち6.0%では患者が死亡しており、12.2%では死亡にこそ至らないまでも「障害残存」の可能性が高い。また今四半期では、療養上の世話に関連する医療事故が4割を超えている—。

こういった状況が、日本医療機能評価機構が12月26日に公表した「医療事故情報収集等事業」の第59回報告書から明らかになりました(機構のサイトはこちら)。

また報告書では、(1)電子カルテ・オーダリングシステムを用いた薬剤アレルギーの情報共有関連(2)中心静脈カテーテルのガイドワイヤーの体内残存(3)血液検査の結果の確認不足関連―の3テーマについて詳細に分析し、改善策を提示しています。

2019年7-9月、療養上の世話が医療事故の4割超

今年(2019年)7-9月に報告された医療事故946件を、事故の程度別に見ると▼死亡:57件・事故事例の6.0%(前四半期に比べて1.7ポイント減)▼障害残存の可能性が高い:115件・同12.2%(同3.8ポイント増)▼障害残存の可能性が低い:286件・同30.2%(同0.6ポイント増)▼障害残存の可能性なし:253件・同26.7%(同1.0ポイント減)―などとなっています。前四半期に比べて「死亡」事故は減少したものの、「障害残存の可能性が高い」事故は大幅に増加している点が気になります。

医療事故の概要を見ると、最も多いのは「療養上の世話」で389件・事故事例の41.1%(前四半期に比べて8.7ポイント減)、次いで「治療・処置」260件・同27.5%(同2.2ポイント減)、ドレーン・チューブ」69件・同7.3%(同1.2ポイント減)、「薬剤」60件・同6.3%(同3.0ポイント減)などと続いています。シェアの大きな変化が続いており、引き続きの詳しい分析が待たれます。

2019年7-9月に報告された医療事故事例の概要(医療事故情報収集等事業59回報告書1 191226)

ヒヤリ・ハット事例、3分の1強が「薬剤」関連

次にヒヤリ・ハット事例に目を移してみると、今年(2019)年7-9月の報告件数は6236件でした。

内訳を見ると、「薬剤」関連の事例が最も多く2386件・ヒヤリ・ハット事例全体の38.3%(前四半期と比べて2.9ポイント増)、次いで「療養上の世話」1047件・同16.8(同2.6ポイント減)、「ドレーン・チューブ」877件・同14.1%(同1.0ポイント減)などとなっています。

ヒヤリ・ハット事例のうち、医療機関での実施がなかった3806件について患者への影響度を見てみると、「軽微な処置・治療が必要、もしくは処置・治療が不要と考えられる」事例が96.4%(前四半期と比べて0.1ポイント減)とほとんどを占めている状況に変わりはありません。ただし、「濃厚な処置・治療が必要と考えられる」ケースも2.8%・107件(同0.1ポイント減)、「死亡・重篤な状況に至ったと考えられる」ケースも0.8%・30件(同0.2ポイント増)あります。一歩間違えば重大な影響の出る事例がごく少数とはいえ生じており、また前四半期よりも増加している点は、重く受け止める必要があります。全ての医療機関において院内のチェック体制を改めて点検しなおす必要があるでしょう。

その際には、「個人が気を付ける」ことはもちろん重要ですが、それだけでは医療事故やヒヤリ・ハット事例は防止できません。どれだけ気を張って業務に携わっていても人はミスを犯しますし、とりわけ多忙な医療従事者はミスが生じやすい環境で働いています。このため「ペナルティの導入」などにはあまり意味がなく、かえって弊害のほうが大きくなると指摘されています。

「人はミスを犯す」という前提に立って、「必ず複数人でチェックする」「ミスが生じる前に、あるいは生じた場合には、すぐに気付けるような仕組みを構築する」「院内のルールを遵守し、医療安全を確保し、医療の質を向上させようという、風土を作り上げる」など、医療機関全体で「自分事である」と捉えて対策を講じることが必要となります。

2019年7-9月に報告されたヒヤリ・ハット事例の概要(医療事故情報収集等事業59回報告書2 191226)

電子カルテへの「アレルギーのある薬剤」情報、「一般名での登録」が望ましい

報告書では毎回テーマを絞り、医療事故の再発防止に向けた詳細な分析を行っています。今回は、(1)電子カルテ・オーダリングシステムを用いた薬剤アレルギーの情報共有関連(2)中心静脈カテーテルのガイドワイヤーの体内残存(3)血液検査の結果の確認不足関連―の3テーマについて、詳細に分析しています。

本稿では、(1)の「電子カルテ・オーダリングシステムを用いた薬剤アレルギーの情報共有関連事例」に焦点を合わせ、事故の背景や対策について少し詳しく見てみましょう。

アレルギーのある薬剤を投与した場合、▼皮膚・粘膜症状(紅斑・蕁麻疹・膨疹など)▼消化器症状(腹痛・嘔吐など)▼呼吸器症状(呼吸困難など)―を発症し、重症化すればアナフィラキシーショックを引き起こすことがあるため、「アレルギー情報を医療機関内で適切に共有する」ことが極めて重要です。

この点、電子カルテ(2017年時点での導入率は一般病院全体で46.7%、400床以上の一般病院で85.4%)を活用した薬剤アレルギー情報共有が有用です。例えばアレルギーのある薬剤処方を行うと、アラートが表示されるような仕組みです。しかし、▼電子カルテの機種ごとにアレルギー情報の登録方法 が決められており、これに従った登録をしなければアラートを表示する仕組みが機能しない▼入手したアレルギー情報が経過記録や看護データベースなどのシステム内の様々な場所に記載されると『情報はあるが共有されない』状況となる▼医療現場におけるアレルギー情報の概念や解釈がまちまちで、電子カルテ上で有効活用するための表示形式も統一がとれていない―という課題があります。

2015年1月から2019年6月には、電子カルテ・オーダリングシステムでアレルギーのある薬剤を処方してしまった事例は34件報告されています。このうち「決められた場所にアレルギー情報が登録されていた」事例が17件、「決められた場所に登録されていなかった」事例が14件となっています。後者では、上述のように「情報の共有」ができません。

また、電子カルテ等に記載されていたアレルギー情報と投与薬剤とを整理すると、▼アレルギー情報と投与薬剤が同一薬剤名:3件▼販売名と一般名で薬剤の名称は異なるが同一成分:3件▼同一系統の抗菌薬:7件―でした。同一系統の事例7件の中には、アレルギー情報が「薬剤名で記載されている場合」と「抗菌薬の系統名で記載されている場合」とがありました。薬剤名だけの記載では、情報共有が十分とは言い難いでしょう。

機構では、現場の取り組みも踏まえ、再発防止策として次のような点に留意するよう提言しています。

【電子カルテシステムへのアレルギー情報の登録】
▽禁忌薬剤情報を共有するため、聞き取りをした時にプロファイル情報に入力する
▽アレルギー歴のある患者への対応は慎重に行う必要があり、どの職種でも情報を得たらすぐにカルテの禁忌薬情報に登録し、情報共有や注意喚起をする
▽疑わしい薬剤についても医薬品安全確保情報に登録する

【アレルギー情報の登録に関する周知】
▽アレルギー情報を患者プロファイルに入力することを周知徹底する
▽電子カルテ委員会から、プロファイルへの入力についての周知を情報管理部へ依頼する
▽アレルギー情報入力に係る事項、および患者安全に係る情報の登録を再周知する
▽アレルギー情報は、「一般名での登録が望ましい」ことを周知する。

【アレルギー情報の確認】
▽薬剤オーダ時には電子カルテのアレルギー情報の表示や登録状況を確認する
▽薬剤を投与する前に、医師や看護師、薬剤師等の複数名でアレルギー情報を確認する
▽医師、臨床工学技士、看護師は、透析前に患者の情報用紙等で禁忌やアレルギーを確認する
▽医師、看護師、薬剤師が患者のアレルギーを確認する際は、患者からの回答だけではなく、「有害事象用紙」および「オーダリングの薬物アレルギー情報」の確認を手順通りに行う

【患者からのアレルギー情報の収集・確認】
▽カルテを十分に確認し、患者に問診を行う
▽初診の場合は、アレルギー情報の入力が遅れていることもあるため、患者に確認する
▽アレルギー歴を適切に把握するため、皮膚科で運用している「薬物アレルギーカード」を全診療科で活用して患者指導と情報共有をする

【その他】
▽オーダリング画面に誰にでもわかりやすく禁忌薬が表示されるようにする
▽システム上、アレルギーのある薬剤はオーダできないようにすることが望ましい
▽薬剤部ではアレルギーのある薬剤のオーダが入った場合には確認してからオーダを通す

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