抗がん剤の副作用抑えるG-CSF製剤、投与日数や投与量の確認を徹底せよ―医療機能評価機構
2019.4.2.(火)
昨年(2018年)10-12月に報告された医療事故は1027件、ヒヤリ・ハット事例は8048件であった。医療事故のうち6.4%では患者が死亡しており、10.6%では死亡にこそ至らないまでも「障害残存」の可能性が高い—。
こういった状況が、日本医療機能評価機構が3月29日に公表した「医療事故情報収集等事業」の第56回報告書から明らかになりました(機構のサイトはこちら)(前四半期(2018年7-9月)の状況はこちら)。
また報告書では、(1)他施設や在宅で使用していた医療機器等の持ち込みに関連した事例(2)G-CSF製剤の誤った投与に関連した事例(3)電子カルテ使用時の患者間違いに関連した事例―に関連する医療事故を詳細に分析し、改善策を提示しています。
目次
2018年10-12月、医療事故による死亡事例は減少したが、それでも事故の6.4%
昨年(2018年)10-12月に報告された医療事故1027件を、事故の程度別に見ると▼死亡:66件(事故事例の6.4%、前四半期に比べて3.0ポイント減)▼障害残存の可能性が高い:109件(同10.6%、前四半期に比べて0.9ポイント減)▼障害残存の可能性が低い:294件(同28.6%、前四半期に比べて1.7ポイント減)▼障害残存の可能性なし:280件(同27.3%、前四半期に比べて2.2ポイント増)―などとなっています。「死亡」や「障害残存の可能性が高い」事故が、前々四半期・前四半期に比べて減少していますが、より長期のスパンで見ていく必要があります。
医療事故の概要を見ると、最も多いのは「療養上の世話」で366件(同35.6%、前四半期に比べて3.4ポイント増)、次いで「治療・処置」273件(同26.6%、前四半期に比べて2.4ポイント減)、「薬剤」79件(同7.7%、前四半期に比べて0.5ポイント減)、「ドレーン・チューブ」68件(同6.6%、前四半期に比べて1.3ポイント減)などと続いています。前四半期に比べ「療養上の世話」のシェアが大きく増加しています。
ヒヤリ・ハット事例も幅広い場面で発生、3分の1強が「薬剤」関連
次にヒヤリ・ハット事例に目を移してみると、昨年(2018)年10-12月の報告件数は8048件でした。
内訳を見ると、「薬剤」関連の事例が最も多く2863件(ヒヤリ・ハット事例全体の35.6%、前四半期と比べて4.3ポイント減)、次いで「療養上の世話」1491件(同18.5%、前四半期と比べて0.8ポイント増)、「ドレーン・チューブ」1158件(同14.4%、前四半期と比べて1.8ポイント増)などとなっています。医療事故と同じく広範な場面でヒヤリ・ハット事例が発生しており、院内のチェック体制を再確認(ダブルチェック、トリプルチェックなど)する必要性はいささかも減じていません。
ヒヤリ・ハット事例のうち4976件について患者への影響度を見てみると、「軽微な処置・治療が必要、もしくは処置・治療が不要と考えられる」事例が96.6%(前四半期と比べて0.3ポイント増)とほとんどを占めている状況に変わりはありません。しかし、「濃厚な処置・治療が必要と考えられる」ケースも2.6%・139件(同0.3ポイント減)、「死亡・重篤な状況に至ったと考えられる」ケースも0.7%・36件(同0.1ポイント減)あります。一歩間違えば重大な影響の出る事例がごく少数とはいえ生じている点は、重く受け止めなければなりません。全ての医療機関において院内のチェック体制を再度、点検しなおす必要があるでしょう。
なお、メディ・ウォッチで再三お伝えしていますが、「個人が気を付ける」ことはもちろん重要ですが、これだけでは医療事故やヒヤリ・ハット事例は防止できません。どれだけ気を張って業務に携わっていても、人はミスを犯しますし、とりわけ多忙な医療現場ではミスが生じやすくなっています。ここでしたがってペナルティなどの導入は、あまり意味がなく、弊害のほうが大きくなります。
「人はミスを犯す」という前提に立って、「必ず複数人でチェックする」「ミスが生じる前に、あるいは生じた場合には、すぐに気付けるような仕組みを構築する」「院内のルールを遵守しなければならないという風土を作り上げる」など、医療機関全体で「自分事である」と捉えて対策を講じることが必要となります。
在宅患者で使用していた人工呼吸器の入院中の継続使用、マニュアルなどの確認を
報告書では毎回テーマを絞り、医療事故の再発防止に向けた詳細な分析を行っています。今回は、(1)他施設や在宅で使用していた医療機器等の持ち込みに関連した事例(2)G--CSF製剤の誤った投与に関連した事例(3)電子カルテ使用時の患者間違いに関連した事例―の3テーマについて、詳細に分析しています。
このうち(1)の「他施設や在宅で使用していた医療機器等の持ち込みに関連した事例」は医療事故18件、ヒヤリ・ハット事例7件報告され、うち18件(医療事故11件、ヒヤリ・ハット7件)が人工呼吸器に関連しています。ヒヤリ・ハットはすべて人工呼吸器関連で、医療事故のうち5件は「障害残存の可能性高い」重篤なものとなっています。
事例の内容を見てみると、▼呼吸器回路の接続はずれ:3件▼呼吸器回路の接続間違い:2件▼不適切な酸素供給の接続:2件▼酸素供給の接続はずれ:1件▼酸素供給の未接続:1件▼アラーム対応の遅れ:3件▼機器の作動停止:3件▼入院時の対応不備:2県▼破損:1件―となっています。
呼吸器回路の接続はずれ事例を見てみると、入院児が自宅で使用していた人工呼吸器を継続使用していたところ、スタッフステーションのモニターで「酸素飽和度60%」と低値を示していたものの、モニターのアラームが「一時消音」となっていました。確認すると気管カニューレと人工呼吸器の接続が外れ、顔色不良となり心拍60台と徐脈を呈していました。ベッドサイドモニターと人工呼吸器のアラームは鳴っていたのですが、人工呼吸器が「在宅用運搬カバー」に覆われており、アラーム音が小さくなってしまっていました。履歴から「3分前」に回路外れでアラームが鳴っていたことが判明しました。気管チューブと人工呼吸器回路の接続が緩んでいた可能性があります。
スタッフ間で「家族の付き添いがない」ことが十分に情報共有されておらず、持ち込まれた人工呼吸器は当該病院で採用していない種類で、臨床工学技士の介入はありませんでした。
また、別の事例では、深夜に看護師がラウンド中に人工呼吸器の回路を外し、喀痰吸引を実施しました。その間、人工呼吸器アラームを消すために消音ボタンを押すべきところ、誤って「スタート/ストップボタン」を押してしまっていました。喀痰吸引後に人工呼吸器の回路を接続したところ、「機械の運転を停止してもよいですか」との液晶表示に、結果的に「はい」を選択。約10分後にスタッフステーションのモニターのアラームで呼吸心拍の異常に気付き、心肺停止状態であるところを発見しました。
本事例では、▼喀痰吸引に院内のマニュアルが合っていなかった▼看護師の喀痰吸引、人工呼吸器操作の習熟が十分ではなかった▼自発呼吸が乏しい患者であったが、人工呼吸器の種類が適切ではなく、「人工呼吸器の機種変更の必要性」が在宅医療の主治医から伝わるまでに相当のタイムラグがあった▼病棟のモニタリングシステムが十分ではなかった―など、さまざまな課題が浮上しています。
事故やヒヤリ・ハット事例の発生した病院では、次のような改善策をとっています。
【人工呼吸器の確認】
▼適切なチェックリストの活用▼「経験のない医療機器」の使用は他スタッフと一緒に確認する▼人工呼吸器の設定や患者データの記録―
【アラームの設定】
患者に合わせたアラーム設定を行う
【アラーム鳴動時の対応】
アラーム対応が困難な場合は、人工呼吸器を交換する
【手順書等の作成・設置】
▼人工呼吸器の簡易説明書やトラブルシューティング表の病棟への設置▼チェックリストにとどまらず、視覚的に確認できるツールの作成▼入院時に使用方法を確認し、写真を用いて視覚的な手順書を作成する―
【教育・研修】
▼人工呼吸器の勉強会実施▼人工呼吸器操作の教育・訓練の実施▼アラーム音がどのような時に鳴るのかの周知▼アラーム時の対応の指導―
【機種の選択・変更】
▼適切な機器の選択▼入院中は「医療機関仕様の機器」への変更の考慮▼新規の短期入院患者への「院内のパルスオキシメーター・心電図モニター」の使用(早期対応のため)―
【入院時の対応】
侵襲的人工呼吸管理を要する患者が入院した時の対応のマニュアル化と診療会議での周知
機構では、とくに夜間において「持ち込まれた人工呼吸器の構造や原理を十分理解しないままに使用し、操作や作動確認が適切でなかった」事例が報告されている点を重視。在宅で使用していた人工呼吸器を入院後に継続使用する場合は、▼事前にメーカーに情報提供等を依頼する▼入院後は臨床工学技士が点検を行う―といった体制の構築が必要と指摘。あわせて、院内で人工呼吸器の安全使用に関する教育・研修の実施も重要となります。
また、人工呼吸器に「アラーム等の異常が発生」した場合には、▼胸郭の動きを観察するなどして患者の換気が維持されているかを確認する▼維持されていないと判断した場合には、まず「用手換気で換気を確保」してから原因を調べる▼原因がわからない場合は人工呼吸器を交換する―などの「基本的な対応」を徹底するよう強く求めています。
なお、日本医療安全調査機構の提言「一般・療養病棟における非侵襲的陽圧換気(NPPV)及び気管切開下陽圧換気(TPPV)に係る死亡事例の分析」も参考にするよう提案しています(関連記事はこちら)。
抗がん剤副作用の予防・治療に用いるG-CSF製剤、投与日や投与量などの確認徹底を
また、がん患者が増加する中では、抗がん剤治療で骨髄抑制が生じるケースがあることから、予防的・治療的に(2)の「G-CSF製剤」(ヒト顆粒球コロニー形成刺激因子製剤、ジーラスタやグラン、ノイアップなど)の使用が増加すると考えられます。
しかし、▼投与日間違い▼薬剤間違い▼処方量間違い▼必要のない薬剤の処方▼投与経路間違い▼患者間違い―事例も報告されています。これらにより「発熱性好中球減少症の発症」や「予定していた化学療法の延期」といった弊害も出ています。
機構では、持続型(化学療法1サイクルにつき1回のみ使用する)のG-CSF製剤について、「患者の通院負担は軽減されるが、投与する時期に注意が必要である」ことから、▼抗がん剤の投与日を十分考慮したうえで投与日を指示する▼「使用上の注意」を把握し抗がん剤のレジメンに組み込む―ことなどを提言しています。
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