入院時に持参薬の処方・指示が漏れ、患者の既往症が悪化してしまう医療事故散発―医療機能評価機構
2020.12.16.(水)
薬剤を服用している患者が入院する際、服用薬剤(持参薬)の処方・指示が漏れ、結果、患者の既往症が悪化してしまった―。
日本医療機能評価機構が12月15日に公表した「医療安全情報 No.169」から、こうした事例(医療事故)が2017年1月1日から今年(2020年)10月31日までの間に9件報告されていることが分かりました(機構のサイトはこちら)(関連記事はこちら)。
患者が持参した薬剤のみならず、薬歴が分かる複数情報で「現在の服用薬」を確認せよ
日本医療機能評価機構では、全国の医療機関から医療事故やヒヤリ・ハット事例(事故には至らなかったものの、「ヒヤリとした、ハッとした」事例)の報告を受け、背景等を詳しく分析し「事故等の再発防止に向けた提言」等を定期的に行っています【医療事故情報収集等事業】(国立病院や特定機能病院などでは報告が義務付けられている)。
さらに事故事例などの中から、「特段の注意が必要と考えられる事例」(繰り返し発生している医療事故など)を毎月ピックアップ。その内容を簡潔にまとめて「医療安全情報」として公表しています。医療現場に最大限の注意を払うよう強く呼びかけるものです。
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12月15日に公表された「医療安全情報No.169」では、「持参薬の処方継続するための処方・指示の漏れ」がテーマとなりました。
ある患者は心房細動のため「リクシアナ錠」(一般名「エドキサバントシル酸塩水和物」、心房細動患者における虚血性脳卒中・全身性塞栓症の発症抑制や静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療・再発抑制などに用いる)を服用していました。入院時に薬剤師が「患者の持参薬」を持参薬鑑別書に登録しましたが、その際に患者が持参していなかった「リクシアナ錠」には気付きませんでした。医師が持参薬鑑別書を確認して処方しましたが、その中には「リクシアナ錠」は含まれていません。入院から7日後に「下肢の動脈血栓症」が認められ、そこで初めて「リクシアナ錠の処方が漏れていた」ことが判明しました。
別の患者は慢性心不全のため「フロセミド錠」(先発品「ラシックス錠」、高血圧症、心性浮腫、腎性浮腫、肝性浮腫などの治療に用いる)を服用していました。入院時に、医師は持参薬鑑別書による報告を待たずに薬剤を処方しており、その際、フロセミド錠の処方が漏れていました。後に薬剤部で持参薬の鑑別が終了し、持参薬鑑別書が作成されましたが、「処方された薬剤」が病棟に届いた際には漏れがないかを誰も確認しませんでした。結果、フロセミド錠を服用しなかったことで患者の心不全が悪化してしまいました。
薬剤のほとんどは、医師がその必要性を認めて処方を行っています。持参薬の処方忘れ・処方漏れは「状況を踏まえずに当該薬剤を中断する」ことと同じであり、患者の既往症の悪化にダイレクトにつながります。
このため「入院時に服用薬剤の確認を十分に行い、漏れがないように努める」ことが必要です(減薬については別のシーンで慎重に考えるべきこと)。このため機構では、▼患者が持参した薬剤だけでなく、「薬歴が分かる複数の情報」(例えばお薬手帳や診療情報提供書など)で現在、服用中の薬剤を確認する(患者が薬剤の持参を忘れることも少なくない、上記前者の事例ではこれに該当)▼医師は、持参薬鑑別書を確認して処方や指示をする(上記後者の事例ではこの取り組みを怠っている)▼多職種で持参薬の継続や中止の確認ができる仕組みを構築する(上記後者の事例ではこの取り組みがなされていなかった)―などを徹底することをアドヴァイスしています。
なお、「複数の医療機関にかかり、複数の薬局を利用する」患者も少なくありません(例えば●●疾病は自宅そばの医療機関・薬局で、〇〇疾病は勤め先そばの医療機関・薬局というケースなど)。この場合、入院医療機関で服用薬剤情報をすべて網羅することは現時点では難しいでしょう。
この点、厚生労働省が進めるデータヘルス集中改革プランのACTION1「全国で医療情報を確認できる仕組み」では、患者の同意が前提となりますが、全国の医療機関・薬局で当該患者の過去の受診歴や薬剤服用歴などを確認できるようになります。すべての患者についてこうしたデータがきちんと格納され、またすべての医療機関等でこうした情報を確認できる環境が整えば、事例のような医療事故は激減すると期待できます。医療安全の確保という面からも、こうした動きに注目する必要があるでしょう(関連記事はこちらとこちら)。
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