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保健・医療・介護データの利活用に向け、今後2年間で何としても集中改革を実現する―加藤厚労相

2020.7.30.(木)

保健・医療・介護データを集積・連結・解析し、適切な医療提供等につなげていくことが、現下の新型コロナウイルス感染症のような緊急時にはもちろん、平時においても極めて重要である。保健・医療・介護データの利活用に向けて、今後2年間の集中改革期間に3つの取り組み(PHR・EHR・電子処方箋)を進めることとしており、厚生労働省をあげて取り組むことを肝に銘じてほしい―。

加藤勝信厚生労働大臣は、7月30日の「データヘルス改革推進本部」において、厚労省幹部に対しこう檄を飛ばしました。

7月30日に開催された、厚生労働省の「第7回 データヘルス改革推進本部」。加藤勝信厚生労働大臣(写真向かって右)は、鈴木俊彦厚生労働事務次官(写真向かって左から2人目)や鈴木康裕医務技監(写真向かって左)へ檄を飛ばした

EHR・電子処方箋・PHRの3プランを、今後2年間で実現する

公的医療保険制度・公的介護保険制度が整備されている我が国には、「質が高く(高精度)、膨大な量(全国民・生涯)の健康・医療・介護データ」(例えばレセプトデータなど)が存在します。これらの情報を、個人情報保護に十分に配慮したうえで、「個人単位で紐づけ」ることができれば、医療・介護等サービスの質を飛躍的に高め、かつ効果的・効率的に提供できると期待されています【データヘルス改革】。

データヘルス改革に関しては、(1)がんゲノム・AI(人工知能)(2)国民が自分自身のデータを閲覧できる仕組み(PHR)(3)医療・介護現場での情報連携(EHR)(4)データベースの効果的な利活用(NDB・介護DB等の連結解析)―の大きく4分野を中心に検討が進められており、骨太方針2019(経済財政運営と改革の基本方針2019)において「今夏(2020年夏)までに2021年度以降の絵姿と工程表を策定する」ことが指示されていました。

加藤厚労相は、「健康・医療・介護情報利活用検討会」の意見も踏まえ、6月22日の経済財政諮問会議において、今後2年間の今後2年間を集中改革期間と定め、次の3つの取り組みを進める方針(新たな日常にも対応したデータヘルスの集中改革プラン)を明確にしました(上述した「絵姿」と「工程表」の提示)。

(1)EHR(全国の医療機関で、患者個々人の▼薬剤▼手術・移植▼透析―などの情報を確認できる仕組み)を構築し、2022年夏から運用する
→例えば、意識不明の状態で救急搬送された患者、認知症高齢者などの治療を行う際、医療機関がEHR情報から「当該患者の過去の薬剤投与歴や手術歴」などを正確に確認することで、適切かつ安全な医療を、効果的・効率的・迅速に提供することが可能となる(例えば禁忌薬剤の回避など)

EHRの仕組み(データヘルス改革推進本部2 200730)



(2)電子処方箋を2020年夏から運用する
→医療機関が処方内容を電子的に登録し、保険薬局がその登録情報を踏まえて調剤をすることで、患者の薬剤投与歴を一元的に管理することができ、また患者は紙処方箋をもって薬局を訪れる必要がなくなる

電子処方箋の仕組み(データヘルス改革推進本部3 200730)



(3)PHR(国民1人1人が、自分自身の薬剤・健診情報を確認できる仕組み)について2021年に法整備を行い、2022年度早期から運用を開始する
→国民1人1人が、自分自身の▼乳幼児健診▼学校健診▼職場健診▼特定健診(メタボ健診)―など生涯の健診情報を確認し、生活習慣改善等の動機付けなどが期待できる

PHRの仕組み(データヘルス改革推進本部4 200730)

データヘルス改革の遅れは、「医療水準の停滞、新たなビジネス創出阻害」などの弊害

ただし加藤厚労相は、現下の状況について「我が国では、諸外国に比べてデータの利活用が遅れており、今後、医療水準を保てなくなり、新たなビジネス等につなげていけなくなるなどの弊害が生じる可能性が指摘されている」「新型コロナウイルス感染症に対応する中で、陽性者の状況・医療機関の体制(ベッドの空き具合や、患者の重症度、個人防護具の整備状況等)などに関する情報をリアルタイムで把握・共有することの重要性を痛感した」と分析。

保健・医療・介護データの利活用は、緊急時(新型コロナウイルスをはじめとする新興・再興感染症の蔓延や大規模災害時など)はもちろん、平時においても「医療・介護等サービスの質の向上、患者・国民の重症化予防・健康確保にもつながる」という重要なテーマであると強調。あわせて、上記(1)-(3)の集中改革プランを、今後2年間(できればより早期に)で実現すべく、「厚労省をあげて取り組むよう、肝に銘じてほしい」と、鈴木俊彦厚生労働事務次官をはじめとする幹部に檄を飛ばしました。



この集中改革プランは、先に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2020(骨太方針2020)」や「成長戦略フォローアップ」などにも盛り込まれており(関連記事はこちら)、必要な予算の確保(2021年度・22年度予算)や法制上の対応に向けて、国レベルで対応していくことになります。

データヘルス集中改革プランの工程(データヘルス改革推進本部1 200730)

データ利活用のベースとなる「オンライン資格確認等システム」、訪問看護STも対象

ところで、上記(1)-(3)の集中改革プランのベースとなるのが「オンライン資格確認等システム」です(2021年3月からスタートし、2023年3月にはほぼすべての医療機関・国民で活用可能とする)。

医療機関の窓口で「患者がどの医療保険に加入しているのか」を瞬時に確認することを目指すもので、具体的には、▼患者がマイナンバーカードを医療機関窓口でカードリーダにかざす → ▼オンラインで社会保険診療報酬支払基金(支払基金)・国民健康保険中央会(国保中央会)のデータベースに「当該患者がどの医療保険(健康保険組合や国民健康保険など)に加入しているのか」を照会する—というものです(関連記事はこちらこちら)。

2021年3月からオンライン資格確認等システムが導入される(健康・医療・介護情報利活用検討会1 200615)

オンライン資格確認等システム等において、医療等情報の共有の可否を患者自身が決定する(健康・医療・介護情報利活用検討会2 200615)



このオンライン資格確認等システムのインフラストラクチャーを活用し、(1)EHR(全国の医療機関で、患者個々人の▼薬剤▼手術・移植▼透析―などの情報を確認できる仕組み)(2)電子処方箋(3)PHR(国民1人1人が、自分自身の薬剤・健診情報を確認できる仕組み)―の3サービスを実現することになります。

例えば、支払基金や国保連に集積されているレセプトデータを、オンライン資格確認等システムを活用して、患者個々人単位で連結することで、「この患者Aさんは、●年に◆手術を行い、◎年から人工透析を受けており、現在は◇医薬品が継続投与されている」などの情報を得ることができます。こうした情報を、オンライン資格確認等システムを活用して全国の医療機関等で確認する(1)の「EHRシステム」構築が目指されているのです。



厚労省保険局医療介護連携政策課の山下護課長は、「オンライン資格確認等システムは『ライフライン』となる。安全に稼働し、またすべての医療機関等に参加してもらえるよう、省をあげて努力していく」考えを強調しました(関連記事はこちらこちら)。

また、このオンライン資格確認等システムへの参加対象には、医科・歯科医療機関(病院・クリニック)や調剤薬局のほか、「訪問看護ステーション」も含まれることを山下医療介護連携政策課長は明確にしています。ただし、医療保険の訪問看護については、現在「紙レセプト」での療養費請求が行われており、「まずレセプトを電子化し、オンラインで療養費請求を行う基盤の構築」から始めることになります。



なお、(1)EHR(全国の医療機関で、患者個々人の▼薬剤▼手術・移植▼透析―などの情報を確認できる仕組み)(2)電子処方箋(3)PHR(国民1人1人が、自分自身の薬剤・健診情報を確認できる仕組み)―の3サービスのいずれについても、さらに詰めるべき課題があります(例えばEHRについては、「どういった診療情報を共有するか」の詳細を詰める必要があり、関連して「電子カルテの標準化」という極めて重要なテーマの検討も進める必要がある、関連記事はこちらこちらこちらこちらこちらこちら))。

今後、関係の検討会等(「健康・医療・介護情報利活用検討会」や、その下部組織の「健診等情報利活用ワーキンググループ」「医療等情報利活用ワーキンググループ」、さらに社会保障審議会の医療部会・医療保険部会など)で、残された課題を詰める(2020年内目途)とともに、2021年度における必要な予算の確保、関係法令の整備などを進めていくことになります。



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