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GemMed塾 新制度シミュレーションリリース

輸液ポンプ不具合で「空になってもアラームが鳴らず、患者に空気が送られてしまう」医療事故に留意を―医療機能評価機構

2020.7.7.(火)

今年(2020年)1-3月に報告された医療事故は1107件、ヒヤリ・ハット事例は6078件であった。医療事故のうち6.8%では患者が死亡しており、10.8%では死亡にこそ至らないまでも「障害残存」の可能性が高い。前四半期に比べて、こうした重大な医療事故が増えている—。

こういった状況が、日本医療機能評価機構が7月3日に公表した「医療事故情報収集等事業」の第61回報告書から明らかになりました(機構のサイトはこちら)(前四半期(2019年10-12月)を対象にした第60回報告書に関する記事はこちら)。

また報告書では、(1)持参薬の処方・指示の誤り(前回報告書に続き)(2)輸液ポンプ・シリンジポンプの設定(3)カテーテル・チューブの接続部の選択誤り―の3テーマについて詳細に分析し、改善策を提示しています。(2)では、とくに経験の浅い看護師(0-4年)で輸液ポンプ等の入力誤りが多いこと、輸液が空になってもアラームが鳴らず(気泡検出器の不具合)に、患者に空気が送られてしまう事故が生じていることなどが詳説されました。例えば、「輸液等開始から15分後に再確認を行う」「予定量の入力を必ず行う」などの対策をとることの重要性を強調しています。

2020年1-3月、死亡・障害残存という重大な医療事故がやや増加

今年(2020年)1-3月に報告された医療事故1107件を、事故の程度別に見ると▼死亡:75件・事故事例の6.8%(前四半期に比べて0.7ポイント増)▼障害残存の可能性が高い:120件・同10.8%(同0.4ポイント増)▼障害残存の可能性が低い:288件・同26.0%(同2.7ポイント減)▼障害残存の可能性なし:319件・同28.8%(同0.8ポイント増)―などとなっています。前四半期に比べると、「死亡」あるいは「障害残存の可能性が高い」という重大な医療事故がやや増加している点が気になります。

医療事故の概要を見ると、最も多いのは「療養上の世話」で362件・事故事例の32.7%(前四半期に比べて0.5ポイント減)、次いで「治療・処置」338件・同30.5%(同2.3ポイント増)、「薬剤」99件・同8.9%(同1.1ポイント増)、「ドレーン・チューブ」89件・同8.0%(同1.5ポイント増)などと続いています。前四半期と比べて構成割合が大きく変化しており、さまざまな医療行為の場で「事故の可能性がある」ことが分かります。

医療事故の概要(医療事故情報収集等事業61回報告書1 200703)

ヒヤリ・ハット事例、広範囲の医療行為で発生している点に留意を

ヒヤリ・ハット事例に目を移してみると、今年(2020)年1-3月の報告件数は6078件でした。

内訳を見ると、「薬剤」関連の事例が最も多く2063件・ヒヤリ・ハット事例全体の33.9%(前四半期と比べて2.3ポイント減)、次いで「療養上の世話」1247件・同20.5(同3.7ポイント増)、「ドレーン・チューブ」886件・同14.6%(同0.7ポイント減)などとなっています。後半な医療行為の場で、ヒヤリ・ハット事例が生じていることが分かります。

ヒヤリ・ハット事例のうち、医療機関での実施がなかった3278件について患者への影響度(実施した場合の影響度)を見てみると、「軽微な処置・治療が必要、もしくは処置・治療が不要と考えられる」事例が97.2%(前四半期と比べて0.9ポイント減)と、ほとんどを占めている状況に変わりはありません。しかし、「濃厚な処置・治療が必要と考えられる」ケースも2.4%(同0.7ポイント減)、「死亡・重篤な状況に至ったと考えられる」ケースも0.4%(同0.3ポイント減)あります。少数とはいえ、一歩間違えば重大な影響の出る事例が生じており、全ての医療機関において院内のチェック体制を改めて点検しなおす必要があるでしょう。

ヒヤリ・ハット事例の概要(医療事故情報収集等事業61回報告書2 200703)



その際、「個人が気を付ける」ことの重要性は述べるまでもありませんが、それだけでは決して医療事故やヒヤリ・ハット事例は防止できません。どれだけ注意深く業務を行っても、人は必ずミスを犯します。とりわけ医療従事者は、極めて多忙であり、ミスが生じやすい環境で働いています。こうした中では、「ペナルティの導入」などにはあまり意味がなく(効果がない)、かえって弊害のほうが大きくなると指摘されています。

「人はミスを犯す」という前提に立ち、「必ず複数人でチェックする」「ミスが生じる前に、あるいは生じた場合には、すぐに気付け、また包み隠さず報告できるような仕組みを構築する」「院内のルールを遵守し、医療安全を確保し、医療の質を向上させようという、風土を作り上げる」など、医療機関全体で「自分事である」と捉えて対策を講じることが必要となります。

輸液ポンプ等の入力誤り、とりわけ経験の浅い看護師で多い

報告書では毎回テーマを絞り、医療事故の再発防止に向けた詳細な分析を行っています。今回は、(1)持参薬の処方・指示の誤り(前回報告書に続き)(2)輸液ポンプ・シリンジポンプの設定(3)カテーテル・チューブの接続部の選択誤り―の3テーマについて詳細に分析し、改善策を提示しています。

本稿では、(2)の「輸液ポンプ・シリンジポンプの設定」に焦点を合わせ、事故の背景や対策について少し詳しく見てみましょう。

2016年1月から2020年3月までに報告された医療事故のうち、「持参薬の処方・指示の誤り」によるものは26件あり、次のように分類できます。

▽流量の設定誤りに起因する事故:23件(88.5%)

▽輸液が空になってもポンプが停止せず、患者側に空気が送られた事故:3件(11.5%)

輸液ポンプ等の設定に関する医療事故の分類(医療事故情報収集等事業61回報告書3 200703)



前者の「流量の設定誤りによる事故」について、機構では次のように細分しています。
▼数値の入力誤り:11件(全体の42.3%)
▼薬剤量・溶液量・投与量のいずれかの数値を誤入力し、意図しない流量の設定:4件(同15.4%)
▼薬剤Aと薬剤Bの流量の取り違え入力:3件(同11.5%)
▼別の種類の薬剤に変更する際、電源を切らずにセットした後、流量を変更忘れ:2件(同7.7%)
▼流量と予定量の取り違え入力:1件(同3.8%)
▼薬剤Aの流量を変更するところ、薬剤Bの流量を変更してしまった:1件(同3.8%)
▼流量の単位は「mL/h」であるが、「mg/h」と思い込み、数値を入力してしまった:1件(同3.8%)

とりわけ多い「数値の入力誤り」について詳しく見ると、「桁を誤って入力してしまった(例えば「83mL/h」と入力すべきところ、「830mL/h」と入力してしまったなど)」8件、「100の位に誤って入力してしまった(例えば「15mL/h」と入力すべきところ、「115mL/h」と入力してしまったなど)」2件となっており、また経験の浅い(0-4年)看護師による事故が多く報告されています。

入力誤りのイメージ(医療事故情報収集等事業61回報告書4 200703)



事故の背景を見ると、▼確認の不足・怠り▼ダブルチェックの不完全―などがあげられていますが、機構では「輸液等の開始や交換などの際に、常に2名で確認ができるとは限らない」点を指摘し、「ダブルチェックの必要性や適切な方法であるかなどを検討する」「流量に入力した数値の指差し呼称をする(声に出して確認する)などし、自分自身で再度確認する」「入力した数値と薬液の総量から投与に必要な時間を計算し、予定通りの時間となっているかを確認する」などの対策を提案しています。

また、医療機関からは、次のような改善策が提案されており、各医療機関で自院の体制等を踏まえながら参考にすることが重要です。

【確認方法】▼シリンジポンプの前で「声出し、指差し確認」をし、小数点の位置も必ず確認する▼輸液を開始・交換した際は、15分後の確認(入力にミスがあっても気づける)を徹底する—

【ダブルチェック】▼チェック者は「間違いがある」との前提で確認する▼開始時のチェック、15分後の確認は、医療安全ポケットマニュアルの項目に沿って指差し呼称しながら行う▼輸液の開始時や交換時は、必ず2名の看護師がベッドサイドで確認することを病棟で徹底する▼前の勤務者と次の勤務者が一緒に点滴の指示と流量を確認する—

【手順・教育】▼シリンジポンプの取り扱い手順を周知する▼輸液ポンプの使用方法を再教育する

【輸液ポンプの機種】▼2種類の輸液ポンプが混在していることを再周知した(操作法が異なることを理解する)▼今後、小数点以下は設定できない機種に統一する予定をたてる

【その他】▼多忙でも点滴交換時は集中できるように十分な時間をとる▼輸液ポンプ・シリンジポンプのチェック表を作成してポンプに添付し、操作時には流量を記載する—

気泡検出器の不具合、保守点検でも発見できない事例がある点に留意

一方、後者の「患者側に空気が送られた事故」とは、輸液ポンプの予定量に数値を入力せずに開始(機種によって「予定量設定なし」機能がある)してしまい、また気泡検出器に不具合があったため、気泡が感知されず(通常は「気泡混入警報が発生するとポンプが停止する」機能がある)、輸液が空になってもポンプが停止せず、患者側に空気が送られてしまったものです。機器の保守点検でも、不具合が発見されない事例もあります。

患者には、▼呼吸困難▼嘔吐▼一時的なSpO2低下―などが生じています(幸い、脳梗塞、肺梗塞などは報告されていない)。

事故の背景としては、「予定量を設定しない使用法が常態化していた」「ポンプの正しい使い方を十分に把握していなかった」「輸液終了予定時間を過ぎても患者の状態を確認しなかった」「ポンプの耐用年数を超えて使用していた」ことなどがあります。多忙な医療現場では、「気泡検出器のアラームが鳴る(輸液の終了)のを待って、患者の状態を確認する」という運用実態もあると思われますが、上述のように「気泡検出器に不具合が生じる」ことも考えられ、この運用実態は見直す必要があるでしょう。

医療機関では、次のような改善策がとられています。こちらも各医療機関の人員・設備体制などを踏まえて、参考にすることが重要です。

【予定量の設定】▼マニュアルに従うことを徹底する▼輸液ポンプ使用時は予定量(輸液ボトルの薬液量)を必ず設定する—

【教育】▼輸液ポンプの正しい使い方の資料を配布し、根拠を踏まえて再学習する▼輸液ポンプにセットするだけではなく、患者の状態、流量と積算量、輸液の減った量、点滴の接続外れや血管外漏出の有無を観察することを教育する—

【事例の周知】▼輸液ポンプ使用時の体内への空気混入に関する回報を作成し、事例を周知する▼既存委員会等での周知に加えて、医療安全管理室より全看護師に向けて事例の共有と注意喚起を行う―

【輸液ポンプの保守・点検】▼アラームの鳴らなかった輸液ポンプについて、メーカーへの検証を依頼する▼全ての輸液ポンプの気泡検出部を点検する▼定期点検(年1回)の項目に「気泡AD値」を追加し、正常値を外れた場合は修理に出す▼耐用期間を超えた輸液ポンプの対応を検討する▼落下・衝撃の加わったポンプは速やかに点検に出す―

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